14 Glück【フィアツェーン グリュック】

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必要と不要。

66話

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 店長のアニーも興味はあるが、さすがに現実的ではない、と理解を示した。

「でも、ウチとはちょっとコンセプトが違うっスかね。面白そうではありますけど」

 とはいえ、店長の頭にリンゴを乗っけて、ボクが弓矢で射るのはありかな……と、アイディアは浮かぶ。失敗したら……まぁ、その時はその時。とりあえず、弓を引く格好をして、狙いを定めイメージで練習。

「ピアノの演奏なんかしてるバーなんかも。ウチ、音楽はなにも流してないし。店によっては、アップテンポな曲を流してるカフェもあるけど」

「あ、店長。勝手に動かないでほしいっス。刺さりました。惜しかったっス」

「?」

 そんなアニーとダーシャのやり取りを尻目に、ひとり深い深層に潜っていたユリアーネが、提案を口にする。

「……目の前でコーヒーを淹れる、というのはどうでしょうか」

 しかし、苦い顔をする。難しいか、と言ってから気づく。

「ありだとは思うね。まぁ、エスプレッソはマシンだから無理だとしても、ドリップであれば目の前で可能だと思う。お客さんの好きな挽き目もあるだろうし」

 でもなぁ、と同じくダーシャも難しい顔になる。

 その表情の意味をユリアーネも理解した。

「……とはいえ、やはり手間がかかるのは事実ですね。基本、コーヒーはキッチンの方々が淹れてくれていますが、こうなるとホールの役割になるわけで。淹れ方も丁寧にやると、一杯で二分ほどかかります」

「そんなにかかるもんなんですか!?」

 目を丸くしてアニーが話題に飛びつく。

「……いや、なんで知らないの……」

 呆れ気味にダーシャが凍りつく。

「紅茶じゃないもので。淹れることもないですし」

 アニーは遠い目をして、無関心を装う。ただコーヒーは運ぶだけと、心を無にしてやってきた。

 ドリップコーヒーというものは、基本的に時間のかかるものである。豆を挽き、お湯を沸かし、フィルターに挽いた豆を入れ、お湯を注ぐ、という作業。やり方によっては、しっかりした風味がでなかったりするため、コツが必要だ。

「まず大事なのは、お湯の温度。沸騰の一歩手前、九〇度から九二度くらい。小さく円を描くように、ゆっくり少しずつ熱湯を注ぐ。そして少し蒸らしてから、二回目は少し勢いよく注ぐ。言葉にするとこれだけだけど、一分半から二分くらいはかかるね」

 最初に注いだ時には、コクや旨みのある濃い味のコーヒーだが、二回目で薄めて濃度を調整する。えぐみや雑味が出るが、それがないと逆にコーヒーとして弱いため、どちらも重要な手順なのだ。丁寧にダーシャはレクチャーする。

「本当はまだまだあるんだけどね。低温抽出とかネルドリップとか。コーヒーは奥が深い」

 うんうん、と頷く。語り出したら止まらないことはわかっているため、自戒して短くまとめる。
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