スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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協力者

山頂で待つ者

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 その後は、山脈を目指した。
 明らかに、あの地は木も生えていない「不毛の大地」に見えたからだ。

 山を昇っていくと、雪が深くなり、凍り付いている岩などもある。
 足でしっかりと大地を掴んでいるつもりでも滑る。
 そんな俺の姿を見かねて、エッジは二本のナイフを差し出した。
 そして、自身の足を指さす。
 足の親指と人差し指の間でナイフを握り、氷に差し込んでいた。
 真似をしてみると、なるほど、アイゼンと言う登山道具のような役割をするのか、しっかりと雪や氷にナイフは刺さり滑らなくなった。

 岩を昇り、坂を下り、崖を昇る。
 数度繰り返していると太陽が沈む。
 黒い月も出ていたが、黒い雲に隠れる。
 雪が降りだしていた。

 食事も休憩も不要で、疲労の無い俺達の移動は早い。
 転送陣からかなり離れている。
 だが、漠然と移動しているわけではない。
 俺もエッジも、その存在を感じていた。強大な何かを。

 尾根伝いに山頂を目指す。
 稜線は歩きやすかった。
 そこそこ広い雪原のような場所に到達した。
 かなりの量の雪が積もっているが、違和感がある。
 しんしんと雪が降っているが、風はない。
 しかし、雪原の一部は猛吹雪になっている。
 何かが動いているのはわかっていた。

 俺たちがそこに到達すると、青白いゴーストのようなものがいた。
 下半身は雪に埋まっているのか、無いのか、上半身しかみえない。
「あー」とか「ぎゃー」とか奇声を上げて、雪原を縦横無尽に走っている。
 俺とエッジは一度、立ち止まり目を合わせる。

「なんだ、あれは」
「さあな」
 俺の問いにエッジは肩をすくめる。
 敵対する意志はないようだが、それはおれたちの方を向き、向かってきた。
 口から白い息と同時に粉雪を大量に吐いて、その頭の上には雪が積もっている。
 青白い顔の表情はわからない。

「おー。きゃー」
 謎の奇声を上げて迫ってくる。
 滑るように雪上を移動する速度は、早い。
「やるのか」
 俺とエッジは身構えたが、奴は俺達をすり抜けて、背後に走り去る。
 俺達は雪まみれになるが、冷たさや寒さを感じないこの体には意味がない。
 まあ、良いか。この先、山頂の近くに強い存在はいる。


 山頂が見える岩肌に挟まれた場所、自然にできた切り通しのようだ。
 雪は岩に阻まれている為か、それほど積もっていない。
 そこにそれはいた。
 でかい。
 どうみてもドラゴンだ。
 長い首と尻尾。太い手足。大きな鱗。その巨体よりも大きな翼。
 しかし、その色はくすんだ茶色。
 俺の視界も赤くならない。既に死んで久しいようだ。
 胴体を抱くように、長いしっぽと首は丸くなって地についている。
 その首がゆっくりと持ち上がる。見開いた瞳は腐敗し灰色に濁っている。

 ドラゴンゾンビだ。
 
 生前のドラゴンよりも強いと噂されることもある存在。
 その口が開き、表現しがたい「きー」とも「おー」とも言える叫び声が聞こえた。
 同時に霧状の液体が飛んでいる。酸か。
「おい、エッジ」
 エッジは二刀を抜き、一刀を順手、一刀を逆手に握っている。
 足の指はナイフを握ったままだ。
 そして、その声目掛け走り出した。



 ドラゴンとの距離は十メートル。
 ドラゴンは一度、口を閉じ、再度開き絶叫を上げる。
 次は緑と桃色の霧が混ざっている。
 俺の体にもその液体が当たるが、むしろ骨が白く輝いていた。
 周囲の岩や地面はボロボロと崩れ、緑に変色している部分もある。
「毒と腐敗か?しかし、俺達は肉体がないぞ」
 しかし、エッジのシミターの鞘や革ひも、腰のベルトが腐り地に落ちた。
 背負っていた二本のシミターや腰のナイフは大事な物だろう。
 俺はこっそりと回収した。

 エッジはドラゴンの胴体に取りついた。
 両足でその巨体を駆け上がるが、途中で滑るように落ちた。
 着地でバランスを崩したところへ、ドラゴンの前足が迫る。
 エッジは俺の近くまで蹴り飛ばされた。

 数か所の骨折をして、砕けているエッジに近寄り、抱き起す。
「体が腐っていて、ナイフがささらん」
 何故か、俺の手はうっすらと黒いモヤがかかっていた。
 その手はエッジの折れた骨に黒い力を送り込んで治していた。
「すまんな、兄弟」
 エッジは治りきる前に、再度地を蹴ってドラゴンゾンビに向かう。
 本来は、奴の勧誘が目的なのだ。
 しかし、エッジにそんな事は通じない。
 俺はその戦いを見守る事にした。

 ドラゴンゾンビは、ブレスが効かないと諦めたようで、吠えなくなった。
 変わりに尻尾が伸びる。
 びたん、びたんと上空からエッジを押しつぶそうと叩きつける。
 その度に、地面にその肉片が落ちている。
 横ぶりの尻尾で地を薙ぎ払う。
 尻尾の太さだけで、エッジの身長ほどもある。
 そして、今までの叩きつけからは想像もつかない速度。
 その尻尾が巻き起こす風で、離れた俺もよろめくほどだ。

 だが

 エッジは避けもせず、その攻撃を受けた。
 両手の刃で受けた尻尾は骨ごと断ち切られ、そのままの勢いで、岩に轟音を立てて激突して止まる。
 痛みを感じるのか、ドラゴンゾンビは空気を震わす絶叫を上げるが音は無い。
 そして大きな翼を広げ、突風を起こしエッジを吹き飛ばす。
 その突風は、離れた俺をも吹き飛ばそうとする。
 なんとか岩にしがみつき、耐えたが…

 エッジは吹き上げられ、崖から落ちてしまった。

 落ちた崖を見る。
 ほぼ垂直な崖にシミターを差し、ぶら下がっているエッジの姿を確認した。
 エッジならば、なんとか昇ってくるだろう。
 そう思い、ドラゴンゾンビを見る。
 奴は、俺に戦う気が無いとみると大人しくしていた。
 俺はなんとなく、切れた尻尾を転がしてヤツの元へ運んでやった。

 ドラゴンゾンビは器用に両手両足で、自身の切れた尻尾の断面を合わせた。
 ぐずぐずと言う音を立てて、尻尾はつながっているようだ。
「お前は…優しいのだな。さっきのヤツも良かったが」
 俺の頭に声が響いた。
「やはり、知能が高くしゃべれるのだな」
 俺は返事をしたが、やはり触れていないと聞こえないようだった。
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