スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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力を求めて

森の精霊

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 ドライアドの案内で森に入る。

 ドライアドは姿を消したが、森が導くように道を開いていた。
 木々の間に一本の棒が落ちていた。

「どうぞ、使ってください」

 どこからか、声が聞こえた。
 ただの、まっすぐな木の棒だ。少し節もある。
 固そうな木材だが、木刀のような加工もなく、自然な木の枝。
 一メートルよりも少し長いくらいか。
 それを拾い、片手で握り、森を走る。

 切り開かれた森の中に、家屋が三件立っていた。
 平屋だが、木材を加工して組み上げた、小屋と呼ぶには立派すぎるものだった。
 まだ夜中ということもあり、皆寝ているのか。

 赤く映る生者は八。

 気配を消し、一件の家屋のドアを開ける。
 鍵などかかっていなかった。
 キッチンを抜け、奥の部屋に入ると木のベッドで口を開け、いびきをかいて寝ている生者がいた。
 騒がれる前に、などと考えていたが、いびきの音と、先ほど生者を逃した怒りにまかせ、その口に木の棒を差し込んだ。
 後頭部まで木の棒は貫通し、あっさりと絶命したが、結構大きな音を立ててしまった。

 隣の部屋の生者は二。
 一人は起きたようだ。
 もういいだろう。
 ドアを蹴破り、起き上がった生者を木の棒で突く。
 生者は後方によろめいて倒れた。
 棒で叩こうと、両手で握る。
 しかし、棒の長さ的に、振り上げると天井にあたる。

「くそ。邪魔なだけだな」

 そうして投げ捨てようとすると、棒は手から離れなかった。

 その棒と、悲鳴を上げる生者に苛立ち、がむしゃらに倒れた生者を蹴る。
 蹴り、踏み、また蹴る。
 頭が半分へこんだ生者は痙攣している。
 そして、もう一人の生者は、今さら起きたようだが、自体が飲み込めず、固まっている。
 おれは、木の棒を握ったまま、その生者を殴る。
 もう片方の手で、指をまっすぐに伸ばし突き立てる。
 胸に当たるが、肋骨を突き破り、肺を裂いたのだろう。
 血を吐いて動かなくなった。
 さて、次の家だ。

 起きた生者の残り五人はこの家の前にいる。
「なんだ?狼でも出たか」
「様子を見て来いよ」
「いや、お前が行けよ。魔物かも」
 あけ放ったままのドアの先から、そんな声が聞こえた。

 俺は木の棒を担いで玄関から飛び出し、やつらを襲う。
 皆素手だ。

「え」と言う表情で固まる頭を叩き割り、その背後にいた顔面を横ぶりに叩く。
 そこで、やっと「うわー」とか「スケルトン」とかいう声が聞こえた。
 一人は反応が早く、走って逃げだした。
 残った二人は、何もできずに頭を叩き割られる。
 逃げた一人を追う。
 まだ日の出までは遠い。
 森に入る前に、転倒していた。
 十分に振り上げた木の棒は、頭を粉剤した。


 屋外ならば、木の棒はいいだろう。
 剣のような技術がなくても、振ってあたれば威力が出る。
 それに、丈夫でヒビも入っていない。

 しかし

「おい、ドライアド」
「はい、ありがとうございます。強いのですね」
 そんなことはどうでもいい。
「木の棒を放せ。狭い所では邪魔なだけだ」
 俺は手を開くが、やはり棒は離れない。

「ああ、なるほど。しかし、無理です」
「なに?お前…」


 俺は知っている
 この感じ
 この感覚


 先ほどまでは感じなかった。
 さっきだ。あの問いかけからだ。
 ルーの洞窟と一緒だ。
 おそらく、この森は、こいつの領域だ。
 俺は怒りで視界が一瞬、赤く染まった。
 周りの木を、木の棒で何度も叩き、折ろうとする。
 しかし、折れない。

「お前に、お前などに支配はされんぞ。俺を縛る事は許さん」

 ドライアドは答えない。

 そうか
 お前の返答はわかった

 俺は人間の家に入る。
 探しているものは、すぐに見つかる。
 油、そして火打石。

 キッチンで火を起こす。
 油をしみ込ませた藁にすぐに点火できた。
 小さな木も準備してあったので、すぐに大きな火種になる。
 家が燃え始めたが、知ったことか。
 屋外には、伐採した木が積み上げられていた。
 他の家屋も周り、油を周囲に巻く。

「なにをしているのです。やめなさい」
「もう遅い。お前は森なのだろう。俺を呪ったお前を滅ぼす」
「待ちなさい」

 俺は返事をすることをやめた。
 燃えた角材を森に投げ込む。
 家は激しく燃え始めていた。
 その燃えた家屋の木材を次々と森に投げる。
 燃え盛る火に差し出した、ドライアドの木の棒はそれでも燃えなかった。

「わかりました。解きます」

 俺は少し考えてから、返答をする。
「不要だ。この森だけで足りないのなら、世界中の森を焼いてやる。謝罪も解呪もいらん。お前はこう考えていた。俺に森の守護を永遠にさせる算段だったのだろう?」

 突然、突風が吹く。
 そして、俺の足に蔦が巻く。
 雨もぽつぽつと降りだした。

「本性を現したな。お前は『生者は攻撃できない』と言った。俺は生者ではないからな。やろうぜ。俺は不死者だ。何度でも蘇る。永遠に森を燃やしつくしてやる」
「あなたは…自然に勝てると思っているのですか?」

 カールが俺の中で囁いている。
「くっく。言ってやれ。不死者は自然に反しているのだ。何故自然の摂理に我々が従う必要があるのかと」
 そうだな、カール。我々は生者を憎むアンデッド。自然の摂理に抗う者だ。
「くっく。我々、不死者は自然の摂理に従わん。貴様の決めた理などお断りだ」
 自然と笑いがでてしまった。だが、気分はいい。

 俺は足の蔦を引きちぎり、走る。
 延焼の広がりだした方向とは違う方へ、燃えた家の残骸や家具を投げ込む。
 身体に絡まる木の枝や草を引きちぎるも、しつこく体内に巻き付く。
 しかし、燃え盛る炎に飛び込むと、草木は一気にしぼむ。
 俺の体も所々焦げたが、かまうものか。

 だんだんと雨脚が強くなってきたな。
 しかし、森を焼く炎は完全には消せないようだ。
 雨の範囲もそれほどは広くないように感じる。

 ドライアドは本来ならもっと強いはずだ。
 だが、森の広範囲の消火と同時に俺の相手は流石に手が足りないのだろう。
 本体があるのかないのか、わからない以上、森を全て焼き払うしかない。

 思案しながら火のついた木片を周囲に撒き散らしている俺の視界は赤く染まる。
 迫る生者の気配、複数、なるほどな。
 自身の他の眷属を俺に当てるのか。
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