おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第二話『100円グッズで、死線を越えろ』

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「(……あの肉、絶対うまいだろ……)」

死を目前にして、脳裏に浮かんだのはそんな食いしん坊な感想だった。
フードコーディネーターとしての、もはや呪いにも似た性(さが)。
だが、そのあまりに場違いな思考が、恐怖で凍り付いていた脳の回路を、逆に焼き切った。

「(――違う!まだだ、まだ終わってない!)」

グルオオオォォッ!!

キバいのししが、最後の威嚇とばかりに咆哮する。巨体が沈み込み、地面を蹴る寸前。
思考する時間は、ない。

「(思い出せ!趣味のブッシュクラフト!野生動物への対策!)」

熊、猪……鼻が利く大型の獣が嫌うものは?
強烈な匂い!刺激臭!そして、足の裏の痛み!

そうだ。あれだ。100円ショップの、園芸コーナーか、ペット用品コーナーの隅に、いつも置いてあった、アレが!

「(コストは……?プラスチックの塊だ、見た目より絶対に高い!スプレー缶もだ、中身が入ってる!Bか!?Cか!?)」

頭の中のゲージが明滅する。残量は97。下手にAランク級のものを出せば、一発で意識が飛ぶ。
だが、もう賭けるしかない!

「(イメージしろ!あの黒いプラスチックの質感!無数に並んだ、チープで、意地の悪いトゲの感触!)」

まず一つ目!

**ポンッ!**

右手と地面の間に、黒い長方形の物体が出現した。大きさは30センチ×40センチほど。無数のプラスチック製のトゲが上向きに**びっしり**と生えている。
猫よけのトゲトゲシートだ。

**【創造力:97/100 → 77/100】**

「ぐっ……!」

Bランク!一気に20も持っていかれた!
400mを全力疾走したかのような疲労感が全身を襲う。だが、まだだ!

「(次は、スプレーだ!安っぽいミントの香り!いや、ハッカの、ツンと鼻を刺す強烈な刺激!)」

頼む、出てくれ!

**ポンッ!**

左手に、ひんやりとした金属の感触。白いボディに緑のキャップがついた、小型のスプレー缶。

**【創造力:77/100 → 62/100】**

「はぁっ、はぁっ……!」

Cランク!これも15消費!
膝が笑い、視界がかすかに揺れる。だが、手元には揃った。
絶望的な状況を覆すための、たった二つの100円グッズが。

「グルアアアアアッ!」

キバいのししが、ついに地面を蹴った。
一直線に、猛烈な速度で突進してくる。巨体の圧が、空気を震わせた。

「(――今だ!)」

ユウキは狙いを定め、左手に持ったスプレー缶のボタンを全力で押し込んだ。

**プシュウウウウウウッ!!**

白い霧状になった強烈なハッカのミストが、キバいのししの顔面に直撃する。
ミントの爽やかな香り、などという生易しいものではない。粘膜を直接焼くような、暴力的なまでの刺激臭。

「ブモッ!?ブゴオオオッ!?」

突進の勢いはそのままに、しかしキバいのししは明らかに混乱していた。目を開けていられないのか、頭をめちゃくちゃに振り乱す。
その一瞬の隙を、ユウキは見逃さなかった。

「こっちだ、化け物!」

自らを囮にするように叫び、焚き火のすぐ横へ飛びのく。
そして、右手に持っていた猫よけシートを、キバいのししの突進ルートの真上に、放り投げた。

「ブゴッ!」

ハッカの刺激臭に半ばパニックになったキバいのししは、もう前を見ていなかった。ユウキの声に反応し、最短距離で突っ込んでくる。
その巨大な前足が、地面に置かれたプラスチックの罠を踏み抜いた。

**バキィッ!**

シート自体は、キバいのししの体重に耐えきれず砕け散る。
だが、その役割は果たした。
数百本の硬いプラスチックのトゲが、勢いよく踏みつけられたその足の裏――蹄(ひづめ)の柔らかい部分に、深々と突き刺さった。

「ギイイイイイイイイイイッッ!?」

今までとは比較にならない、甲高い悲鳴が森に響き渡る。
鼻には耐え難い刺激臭、足の裏には突き刺すような激痛。
未知の攻撃に完全にパニックに陥ったキバいのししは、もはやユウキのことなど眼中にない。狂ったように方向転換すると、茂みをメチャクチャに破壊しながら、森の奥深くへと猛然と逃げ去っていった。

「…………はぁっ……はぁ……はぁ…………」

遠ざかっていく絶叫を聞きながら、ユウキはその場にへたり込んだ。
心臓が、破裂しそうなほど激しく脈打っている。

「(助かった……のか……?)」

じわじわと、生還した実感が湧いてくる。
100円グッズで。たった、二つの。
あの化け物を、追い払った。

「は、はは……ははははは!」

乾いた笑いが、込み上げてくる。
勝った。生き延びた。
フードコーディネーターとして、クライアントの理不尽な要求に応え続けた日々。あの頃の自分に、こんな達成感があっただろうか。

「(やった……俺は、やったんだ……!)」

安堵と興奮で、全身の力が抜けていく。
そこでふと、頭の中のゲージに目をやった。

**【創造力:62/100】**

まだ、半分以上残っている。
そう思ったのが、間違いだった。
極度の緊張状態から解放された瞬間、スキルコストによる疲労が、利子を付けて一気に全身に襲いかかってきた。

「……あ……れ……?」

視界が、ぐにゃりと歪む。
手足の感覚が、急速に遠のいていく。
燃え盛る焚き火の光が、まるで水の中の景色のようだ。

「(だめだ……意識が……)」

地面に倒れ込みながら、ユウキの思考はそこで途切れた。
静かになった森に、パチパチと薪がはぜる音だけが響いていた。

(つづく)
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