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第八話『一番風呂と、水嫌いの白熊』
しおりを挟む翌朝。
俺は、夜通し絶やさなかった焚き火の中で、真っ赤に熾(おこ)る土鍋を満足げに眺めていた。
鍋の中の石たちは、一晩かけてじっくりと熱を蓄え、今やそれ自体が炎であるかのように、赤い光を放っている。
「よし、最高の温度だ」
俺は、昨日召喚しておいたチェック柄の『鍋つかみ』を両手にはめる。分厚い布越しにも、土鍋が発する凄まじい熱気が伝わってきた。
「いくぞ、シラタマ!」
「キュ!」
気合を入れて、熱々の土鍋を両手で持ち上げる。
ずしりと重い。だが、不思議と力は湧いてきた。何しろ、この先には、最高の「ご褒美」が待っているのだ。
ブルーシートで作った湯船のそばまで慎重に運び、隣に置いた『火ばさみ』を手に取る。
そして、赤熱した石を一つ、火ばさみで掴み、湯船の水の中へと投入した。
**ジュワアアアアアアアアアッッ!!**
盛大な音を立てて、一瞬で水が沸騰し、白い水蒸気がもうもうと立ち上る。
シラタマが「キュ!?」と驚いて、数歩後ずさった。
「はは、すごいだろ?」
俺は笑いながら、次々と焼き石を湯船に放り込んでいく。
そのたびに、ジュワッ!という心地よい音が響き、湯船の水は見る見るうちに温まっていく。
森の冷たい空気に、温かい湯気が混じり合い、あたりには温泉地のような硫黄の香りが立ち込めた。
全ての石を入れ終え、木の棒で湯をかき混ぜて、均一な温度にする。
そっと手を入れて、湯加減を確認した。
「……よし。完璧だ」
まさに、極楽の湯加減。
俺は、三日ぶりに服を脱ぎ捨てると、ついに、完成したばかりの即席露天風呂へと、その足を踏み入れた。
「…………うぉぉぉぉぉぉぉ…………ッ!!」
思わず、魂の底から、声が漏れた。
熱い。熱いお湯が、体の芯まで染み渡ってくる。
泥と汗にまみれた体が、ゆっくりと浄化されていく。凝り固まっていた筋肉が、じんわりとほぐれていく。
前世で通った、どんな高級温泉にも負けない。いや、それ以上だ。
「はぁ~~~……生き返る……」
俺は湯船の縁に頭を乗せ、空を見上げた。
木々の緑が、目に優しい。小鳥のさえずりが、耳に心地よい。
この世界に来て、戦ったり、家を作ったり、必死で生きてきた。その全ての疲れが、お湯の中に溶けていくようだった。
「キュ?」
あまりに気持ちよさそうにしている俺を見て、シラタマが興味津々といった顔で、湯船のそばまでやってきた。
湯気をクンクンと嗅いだり、お湯を覗き込んだりしている。
「はは、シラタマも入るか?最高に気持ちいいぞー」
俺が手招きすると、シラタマはおそるおそる、その白い前足を、ちゃぷん、とお湯につけた。
次の瞬間。
「キュンッ!?」
猫が餅を踏んだみたいに、シラタマがビクッと飛び上がった。
そして、ぶんぶんと前足を振って、濡れた毛を乾かしている。
どうやら、このお湯は、シラタマにとっては熱すぎたらしい。
「なんだ、お前、猫舌ならぬ『猫肌』なのか?」
「グルル……」
拗ねたように、シラタマが俺を睨んでくる。
「大丈夫だって、慣れれば気持ちいいから」
俺はそう言って、シラタマの背中にお湯をかけてやろうとしたが、さっと身をかわされてしまった。
湯船の周りをウロウロしながらも、決して入ろうとはしない。そのコミカルな攻防に、俺は腹の底から笑った。
結局、シラタマは湯船には入らず、湯気のそばで温まるのを選んだようだ。
俺は、極楽の湯を心ゆくまで満喫し、久しぶりに体の芯から温まった満足感と共に、湯船から上がった。
「(……ああ、風呂上がりには、やっぱりアレが欲しいな)」
俺は、残っていた創造力で、最後の仕上げを召喚する。
前世で、銭湯に行くと必ず飲んでいた、あの瓶詰の飲み物。
**ポンッ!**
**【創造力:50/100 → 40/100】**
Dランク。10消費。
手の中に、ひんやりと冷たいガラス瓶が現れた。中身は、懐かしい黄白色。
『フルーツ牛乳』だ。
腰に手を当て、一気にそれを呷(あお)る。
「ぷはーっ!うまい!」
甘いフルーツの香りと、牛乳のまろやかさが、火照った体に染み渡っていく。
最高だ。これ以上の贅沢があるだろうか。
綺麗さっぱりになった体で、ふかふかの苔の上に寝転がる。隣には、湯気でほんのり温まったシラタマが、もぞもぞと寄り添ってきた。
「(体もきれいになったし、次は、食生活の改善だな)」
俺は、シラタマの温かい毛を撫でながら、ぼんやりと考えた。
毎日、森で食べ物を探すのもいい。だが、安定して収穫できる『畑』があれば、俺たちの生活は、もっと、ずっと豊かになるはずだ。
「よし!」
俺は、次なる目標を見つけ、むくりと体を起こした。
最高の風呂の次に待っているのは、最高の「食」への挑戦だ。
(つづく)
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