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第十九話『最高の調理場(キッチン)を求めて
しおりを挟む黄金色の自家製油。山と積まれた、収穫したての芋。
役者は、揃った。
「よし、二人とも!今日こそ、あの最高の揚げ物、『フライドポテト』と『コロッケ』を作るぞ!」
俺の宣言に、シラタマは「キュイッ!」と歓声を上げ、つちのこも、家の入り口で嬉しそうに双葉を揺らしている。
俺は、意気揚々と土鍋を火にかけ、完成したばかりの自家製油を注ごうとして――
ぴたり、とその動きを止めた。
目の前にあるのは、地面に石を組んだだけの、不安定な焚き火。
炎は、風が吹くたびに大きさを変え、パチパチと火の粉を撒き散らしている。
「(……待てよ。ダメだ)」
フードコーディネーターとしての、プロの血が警鐘を鳴らす。
「(こんな不安定な火で、揚げ物なんてできるわけがない!)」
揚げ物の命は、**「油の温度管理」**だ。
温度が低ければ、衣が油を吸ってベチャベチャになる。高すぎれば、中まで火が通る前に表面だけが真っ黒に焦げる。
焚き火のような、火力が常に変動する熱源では、完璧な温度管理など不可能だ。何より、万が一、鍋が倒れて熱い油が撒き散れでもしたら……大火事どころか、大火傷では済まない。
「……ごめん、二人とも。揚げ物パーティーは、もうちょっとだけ、お預けだ」
俺の言葉に、シラタマが「キュゥ……ン」と、がっかりした声を出す。
俺は、そんな相棒たちの頭を撫でて、力強く宣言した。
「最高の揚げ物を作るには、最高のキッチンが必要なんだ。だから、作ろう!俺たちの、最初のキッチンスタジオを!」
俺が作るべきは、火力を安定させ、安全に調理できる、専用の調理場――すなわち**『かまど』**だ。
プロジェクトの第一歩は、材料探し。
俺は、川の近くで、しっとりと滑らかな、かまど作りに最適な**『粘土』**が採れる場所を見つけ出した。
「よし、最高の土だ!」
拠点に粘土を運ぶと、さっそくDIYを開始する。
召喚するのは、専門的な道具たち。
「(土をこねるための**『バケツ』**と、形を整えるための**『レンガごて』**!それから、火格子になる**『バーベキュー網』**!)」
**ポンッ!ポンッ!ポンッ!**
**【創造力:120/120 → 90/120】**
Bランクのバケツと、Dランクのこて、網で合計30消費。
俺はまず、平らな石を並べて、かまどの土台を作った。
次に、バケツの中で粘土と水をこね始める。強度を高めるため、現地調達した枯れ草を細かく刻んで混ぜ込む。これは、前世のブッシュクラフトで学んだ、原始的な建築技術だ。
「キュ?キュイ!(面白そう!)」
俺が泥だらけになって作業しているのを見て、シラタマが目を輝かせながら、粘土をこねるバケツの中に、その白い体をダイブさせた。
「あ、こらシラタマ!遊ぶな!」
あっという間に、白い熊から、茶色い熊へと変わり果てたシラタマ。だが、本人は手伝っているつもりなのか、満足げに泥の中で転げ回っている。
一方、つちのこは、俺が持ってきた粘土の質を吟味するように、小さな手でそっと触れると、「……♪(これ、いい土!)」と、双葉を嬉しそうに揺らした。
そんな微笑ましい共同作業(?)を経て、俺は粘土をレンガのように積み上げていく。
燃料をくべるための入り口と、土鍋がぴったりはまる円い排熱口を、慎重に形作っていく。
数時間後。
俺たちの前には、不格好だが、どこか愛嬌のある、粘土でできた小さな「かまど」が完成していた。
「キュイ!(できた!これで揚げ物が食べられる!)」
泥だらけのシラタマが、期待に満ちた目で俺を見上げる。
だが、俺は、申し訳なさそうに首を横に振った。
「いや、まだなんだ。こいつが本当の『かまど』になるには、ここから、**じっくりと乾燥させる時間**が必要なんだ」
「キュゥ……?(なんで?)」
「今、慌てて火を入れたら、粘土に含まれている水分が急に蒸発して、全部にひびが入って、壊れてしまう。ゆっくり、ゆっくり、乾かしてやらないと」
最高の揚げ物を食べるためには、最高の「我慢」も必要。
料理は、科学なのだ。
俺は、完成したばかりの濡れた粘土のかまどを前に、しょんぼりと肩を落とすシラタマと、静かに完成を待つつちのこを、優しい目で見つめていた。
「(最高の揚げ物のためには、最高の我慢も必要、か……)」
俺たちの食卓が、また一つ、次のステージへ進むための、静かで、豊かな時間が、ゆっくりと流れ始めた。
(つづく)
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