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第二十話『黄金色の誘惑と、最初のフライドポテト』
しおりを挟むかまどを乾燥させる、もどかしくも豊かな数日間が過ぎた。
そして、運命の朝。
俺は、指でかまどの表面をコンコン、と叩いてみた。カラカラと、乾いた良い音がする。
「よし、完璧だ!」
俺は、この記念すべき最初の火入れを、一つの「儀式」として執り行うことにした。
「いいか、二人とも。今日、このかまどに、命が吹き込まれる」
シラタマとつちのこが、何が始まるのかと、固唾をのんで見守っている。
俺は、かまどの燃料口に丁寧に薪をくべると、『ライター』で火をつけた。
炎は、最初はおずおずと、やがてゴォッという力強い音を立てて、かまどの奥へと吸い込まれていく。煙突からは、きれいに煙が立ち上り、焚き火とは比較にならないほど、安定した美しい炎が燃え上がった。
「すごい……!大成功だ!」
最高の舞台は、整った。
俺は、かまどの上に土鍋を置き、先日作った『自家製ナッツオイル』を、惜しげもなく注ぎ込む。黄金色の油が、かまどの安定した熱で、静かに温められていく。
主役は、もちろん芋だ。
俺は、収穫した芋を、フードコーディネーターの技術で、均一な太さの拍子木切りにしていく。
問題は、油の温度。温度計などないこの世界で、全ては俺の経験と勘が頼りだ。
「(菜箸を入れて、細かい泡が静かに上がるくらい……。よし、今だ!170度前後!最高の温度だ!)」
俺は、カットした芋を、黄金色の油の中へと、そっと滑り込ませた。
**シュワアアアアアアアアアアッッ!!**
心地よい音が、森の静寂に響き渡る。
シラタマとつちのこが、「わあっ!」とでも言うように、目を輝かせてその光景に見入っている。
芋が、油の中で楽しそうに踊っている。最初は鍋の底に沈んでいた芋が、水分が抜けて軽くなり、ぷかっと浮き上がってきた。そして、徐々に、徐々に、食欲をそそる美しい黄金色(きつね色)へと、その姿を変えていく。
香ばしい匂いが、あたりを満たしていく。
もう、我慢の限界だった。
「よし、揚がったぞ!」
完璧なタイミングで油から引き上げたポテトを、召喚した『キッチンペーパー』の上でリズミカルに油を切る。
そして、仕上げに、これまた召喚したピンク色の『岩塩』を、パラパラと振りかけた。
ついに、完成だ。
『異世界産ポテトと自家製オイルで作る、最高のフライドポテト』が!
「さあ、まずは、一番頑張ったお前からだ、シラタマ!」
俺は、熱々のそれを一本、フーフーと冷ましてから、シラタマの口元へ差し出した。
シラタマは、大きな口で、ガブリとそれに食らいついた。
「キュ……アチチチッ!キュフ!キュフゥ!」
熱さに驚き、その場でぴょんぴょんとステップを踏む。だが、その口は、咀嚼をやめない。
カリッ、という軽快な音の次に、ホクッ、という優しい食感。芋の甘みと、ナッツオイルの香ばしさ、そして岩塩のキリリとした塩味。
全ての味が完璧に調和したその衝撃に、シラタマは、ついに言葉を失った。
**「キュイイイイイイイイッッ!!」**
感動のあまり、その場にごろんと寝転がり、幸せそうに手足をバタバタさせている。
最高の賛辞だった。
つちのこにも、小さく切ったものを一切れあげると、頭の花が、今までで一番大きく、そして美しく満開になった。
俺も、一本、口に運ぶ。
「…………うまい…………」
思わず、声が漏れた。
外はカリカリで、中は驚くほどホクホク。芋の甘みが、自家製油のおかげで、極限まで引き出されている。
うまい。うますぎる。
前世で、どんな高級店のポテトも、この一本には敵わないだろう。
俺は、自らの創造した完璧な味に、思わず涙ぐんでいた。
だが、俺は不敵に笑う。
「ははは……だがな、二人とも」
俺は、幸せそうにポテトを頬張る相棒たちに向かって言った。
「フライドポテトは、まだ前菜だ。本当のメインディッシュは、これからだぞ」
俺の視線の先には、茹でて丁寧に裏ごしした芋と、燻製にしたキバいのししのひき肉。
そして、つちのこがくれた、あの**「黄金の豆」**が、キラリと輝いていた。
(つづく)
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