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第二十一話『奇跡のコロッケと、黄金の秘密』
しおりを挟むフライドポテトという最高の「前菜」を平らげ、俺たちの胃袋は、すっかりメインディッシュを迎える準備ができていた。
俺は、不敵に笑う。
「さて、二人とも。本当のご馳走の時間だ」
俺は、調理台の上に、主役となる食材を並べていく。
丁寧に裏ごしし、シルクのように滑らかになったマッシュポテト。
燻製にして、旨味を極限まで凝縮させた、キバいのししのひき肉。
そして――つちのこがくれた、あの『黄金の豆』。
「(この豆、一体どんな味がするんだ……?)」
期待に胸を膨らませながら、全ての具材をボウルの中で混ぜ合わせていく。黄金の豆が、マッシュポテトの中で、キラキラと輝いて見えた。
次に、衣の準備だ。
「(小麦粉、卵、パン粉……。パン粉なんて、あるわけが……いや、待てよ)」
俺はスキルで、非常食の定番**『乾パン』**を召喚。これを厚手のビニール袋に入れ、金槌の裏で叩いて、粉々にする。
これで、即席のパン粉の完成だ。
俺は、混ぜ合わせた具材を小判型に成形し、『小麦粉』、『森で採れた鳥の卵』、そして『自家製パン粉』の順に、丁寧に衣をつけていく。
準備は、整った。
かまどの安定した火力で、完璧な温度に熱せられた自家製オイル。
俺は、衣を纏ったタネを、その黄金色の海へと、そっと滑り込ませた。
**ジュワワワワワッ……!**
最高の音が、森に響き渡る。
フライドポテトの時とは違う、衣が油を吸い、花咲くように広がっていく、香ばしい音と香り。
コロッケは、焦げることなく、ゆっくり、ゆっくりと、完璧なきつね色に揚がっていく。
「……よし!」
俺は、最高のタイミングでコロッケを油から引き上げた。
ついに、完成だ。
**『つちのこの黄金豆入り・特製燻製肉コロッケ』**!
俺は、揚げたてのコロッケの一つを、ナイフで半分に割ってみる。
サクッ!という小気味よい音。
割れた断面からは、湯気と共に、黄金色の豆がキラキラと輝いて見えた。
「さあ、熱いから、気をつけて食べろよ」
まず、シラタマが、その熱気にも構わず、大きな口でガブリと食らいついた。
サクサク、ホクホク、トロリ……!
様々な食感と、味が複雑に絡み合った、未知との遭遇。
シラタマは、そのあまりの美味しさに、白目を剥いて、その場にお腹を出してゴロリと転がってしまった。幸せのあまり、気絶しているらしい。
つちのこも、小さく切ったものをもらうと、その頭の花を、今までで一番大きく、そして誇らしげに満開にした。
最後に、俺も一口。
「…………っ!」
言葉を、失った。
サクサクの衣。ホクホクで甘い芋。燻製肉の塩気と旨味。
そして、何だ、これは。
黄金の豆を噛み砕いた瞬間、口の中に、まるで濃厚なチェダーチーズと、香ばしいローストナッツを混ぜ合わせたような、豊かで、クリーミーなコクが溢れ出した。
全ての食材が、この豆によって、完璧な一つの料理として結びついている。
「(……すごい。この豆、ただものじゃない。料理の次元を、一つ上に引き上げる力がある……!)」
最高のコロッケと、自家製の果実酒。
俺たちは、最高の収穫祭の夜を、心ゆくまで堪能した。
この幸せな時間が、ずっと続けばいい。俺は、心の底から、そう願っていた。
――だが、俺たちはまだ知らない。
この日、俺たちが作り上げた最高のコロッケの香りが、風に乗り、森の、ほんの少しだけ外側まで届いていたことを。
そして、それが、一人の腹ぺこな騎士を、奇跡へと導く、道しるべになっていたことを。
(幕間へつづく)
---
### **幕間:飢えた獅子と、天上の香り**
リディアは、もう限界だった。
鎧は泥にまみれ、あちこちが歪み、その重さだけが、鉛のように体にのしかかる。
三日前、ゴブリンの群れとの戦いで部隊とはぐれてから、まともな食料は口にしていない。湧き水をすすり、木の皮をかじって、かろうじて命を繋いできた。
(……ここまで、か……)
巨大な木の根元に、ずるずると体を預ける。
主君の顔が、脳裏に浮かんで、消えた。
申し訳ありません、と、声にならない謝罪が、乾いた唇から漏れる。
もう、一歩も動けない。意識が、遠のいていく。
その、時だった。
ふわり、と。
風に乗って、信じられないほど「美味しい香り」が、彼女の鼻をかすめた。
(……幻か……?腹が、減りすぎたせいで……)
だが、その香りは、一瞬では消えない。
それどころか、ますます強く、鮮明になっていく。
ただの肉が焼ける匂いではない。もっと、ずっと複雑で、香ばしくて、甘くて、そして温かい。
この原始的な森にあるはずのない、手間暇をかけた「料理」の香り。
温かい「家庭」の香りだ。
**ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~っ……。**
彼女の腹の虫が、最後の力を振り絞るように、悲鳴を上げた。
リディアの瞳に、再び、光が宿る。
(……匂いが、する)
(匂いがするということは、そこに、誰かがいる)
(これほどの料理を作れる者が、いる……!)
それは、もはや騎士としての理性ではなかった。
ただ、生きたい、という、生命としての本能。
あの香りのするものを、一口、食べたい。
その香りは、天から差し伸べられた蜘蛛の糸。
彼女は、ボロボロの剣を杖代わりに、最後の力を振り絞って、よろめきながら立ち上がった。
そして、その奇跡の糸を、ただひたすらに手繰り寄せるように、匂いのする方角へと、一歩、また一歩と、歩き始めた。
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