おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第二十三話『目覚めのお粥と、不器用な自己紹介』

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最初に感じたのは、温かさだった。
冷たい森の土の上で、死を待っていたはずの体。それが、柔らかな毛布(フリースブランケット)に包まれ、背中からは、かまどの穏やかな熱が伝わってくる。
次に感じたのは、香り。
何か……穀物が、ことことと煮える、優しい香り。それは、戦場で嗅ぐ血の匂いとも、祝宴で出される肉の匂いとも違う、心を落ち着かせる香りだった。

リディアは、ゆっくりと瞼を開いた。
見慣れない、木の壁と、屋根。小さな棚には、奇妙な、しかし整然と道具が並んでいる。
そして、目の前。
大きな、真っ白な熊の魔獣(シラタマ)が、心配そうに、しかし好奇心たっぷりに、自分の顔を覗き込んでいた。

「キュ?」
「……っ!?」

咄嗟に、リディアの体は戦士として反応した。身を起こし、剣を探す。
だが、体には全く力が入らない。鎧も、ほとんどが外され、体には清潔な布が巻かれていた。

「あ、起きましたか。おはようございます」

声のした方を見ると、一人の男が、かまどの前で土鍋をかき混ぜながら、こちらを振り返っていた。
昨夜、自分を助けた男。ユウキ。

「貴様……!ここはどこだ!私に何をした!」
「落ち着いてください。ここは俺の家です。あなたは何日も食べていなかったから、気を失っていただけですよ」

ユウキは、慌てる様子もなく、ただ穏やかに言った。
その態度に、リディアは逆に戸惑う。
「話は、これを食べてからにしましょう。いきなり固形物を食べると、胃が驚いてしまう。まずは、胃に優しいものからです」

彼は、土鍋から、湯気の立つ白い何かを木の器によそい、彼女の前にそっと置いた。
米を、とろとろになるまで煮込んだ、『おかゆ』だった。
そこには、滋養のある香草と、細かくほぐした干し肉が、彩りよく添えられている。

「……毒見は、済んでいるのか」
「はは、心配なら、俺が先に食べますよ」

ユウキはそう言って、別のスプーンで一口食べ、「うん、いい塩加減だ」と頷いた。
抗いがたい、優しい香り。そして、腹の底からの、猛烈な空腹感。
リディアは、屈辱と空腹の間で葛藤しながらも、震える手でスプーンを握り、おかゆを一口、口に含んだ。

「…………」

言葉を、失った。
米の、どこまでも優しい甘み。干し肉から溶け出した、深い出汁の味わい。
その温かい一食が、空っぽの胃袋に、そして、絶望で凍てついていた心に、じんわりと、じんわりと染み渡っていく。

「(温かい……。ただ、温かい。戦場の糧食でも、祝宴の馳走でもない。誰かが、私のために作ってくれた、ただ温かいだけの食事が、こんなにも……魂に沁みるのか……)」

彼女は、気づけば、夢中で器を空にしていた。

少し落ち着きを取り戻したリディアは、騎士として、改めてユウキに向き合った。

「……命を救われたこと、感謝する。私はリディア。見ての通り、騎士だ。して、ユウキ殿。望みを言え。金か?名誉か?騎士は、受けた恩には、必ず報いねばならん」

それが、彼女の世界の、絶対的な常識だった。
しかし、ユウキは、本気で困った顔で、ぶんぶんと手を横に振った。

「ええ!?いやいや、いいですよそんなの!倒れている人を助けるのに、見返りなんて……。そういうのは、本当にいいですから」
「なっ……!?」

金や名誉に、一切の価値を見出していないような、その反応。
リディアは、今まで出会ったことのない人種を見るような目で、さらに混乱する。

「(この男、一体何者なのだ……?彼の使う道具、彼の作る食事、彼の振る舞い……その全てが、私の知る世界の理(ことわり)から、外れている……)」

ユウキは、リディアの体の傷と、ボロボロの鎧を一瞥して言った。
「あなたの体力が完全に回復して、その鎧がちゃんと直るまで、ここにいればいい。出ていけなんて言いませんから」
「……厄介には、なれん!」

誇りが、反射的にそう叫ばせた。だが、立ち上がろうとした体は、まだ力が入らず、ぐらりとよろけてしまう。
そのリディアを、シラタマが、心配そうに「キュゥ……」と見つめていた。

自分の無力さと、この男と魔獣の、混じり気のない優しさ。
その二つを前に、リディアは、ついに観念したように、小さく、しかしはっきりと頷いた。

「……恩に、着る。だが、あくまで……回復するまでの、間だ」

こうして、俺のスローライフに、一人の誇り高い騎士が、「食客(いそうろう)」という形で、仲間入りした。
それは、穏やかで、少しだけ騒がしくなる、新しい日々の始まりだった。
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