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第二十九話『安物シャベルと、最高の柄』
しおりを挟むリディアが仲間になってからというもの、俺たちの朝は、少しだけ騒がしく、そして、どこまでも平和だった。
俺が目を覚ますと、リディアは既に拠点の前で、まるで城門を守る衛兵のように、ピシッとした姿勢で立っている。
「おはようございます、ユウキ殿!昨夜からの警備任務、異常ありません!当聖域(サンクチュアリ)は、リスによる侵入の兆候もありませんでした!」
「(聖域……!?それに、リス……?)あ、はい、おはようございます……。お疲れ様です」
彼女の、あまりにも真面目で、少しズレた任務報告で、俺の一日は始まる。
朝食のパンケーキを食べ終え、俺は改めて、正式に次のプロジェクトを提案した。
「この最高のピザを、いつでも食べられるようにするために、俺たちの畑を、もっと大きくしませんか?そして、小麦や、ピザソースに使える野菜を育てるんです!」
「なるほど!兵站(へいたん)の確保は、拠点防衛の基本!素晴らしい計画だ、ユウキ殿!」
こうして、俺たちの新たなプロジェクト、『農地拡大計画』が、満場一致で可決された。
俺たちは、拠点の近くにある、日当たりの良い、しかし雑草や木の根が残る荒れ地を、新たな畑の候補地として選んだ。
だが、その広大な土地を前に、俺は腕を組んだ。
「(小さな移植ごてだけじゃ、話にならないな……)」
もっと、腰を入れて土を掘り起こせる、本格的な農具が必要だ。だが、鍬(くわ)や鋤(すき)なんて、100均にあるわけがない。
俺は、頭の中のカタログから、100円で買える、最も頑丈で、土を掘るのに適した道具を探し出した。
「(……これだ!)」
俺が召喚したのは、**『園芸用のショベル(大きめ)』**。鉄板をプレスして作られた、一体成型のショベルだ。
**ポンッ!**
**【創造力:120/120 → 105/120】**
Cランク。15消費。
だが、俺はそのショベルを手に取ると、プロの目で、その道具の**弱点**を即座に見抜いた。
「……ユウキ殿、それが我々の新たな武器か?」
「いえ、武器じゃありません。**『素材』**です」
「素材?」
俺は、リディアに説明する。
「見てください。この刃先の鉄は、まあまあ使えそうです。ですが、この柄。短すぎるし、細すぎる。こんなもので本格的な開墾作業をしたら、一時間もしないうちに曲がって、腰を痛めるだけですよ」
「……なるほど」
「だから、こいつを、**魔改造**します」
俺はまず、ショベルについている、頼りない鉄パイプの柄を、金槌で叩いて外してしまった。残ったのは、刃先の金属部分だけだ。
次に、俺は森に入り、柄に最適な木を探した。ブッシュクラフトの知識が、硬くて、しなりがあり、そして、俺の身長と力に合った、完璧な一本の枝を選び出させてくれる。
拠点に戻り、ナイフでその枝を丁寧に削り、ショベルの刃先がついていたソケット部分に、隙間なく、完璧にフィットするように加工していく。
その職人のような手際に、リディアはただただ感心したように見入っている。
「(仕上げは、これだな……)」
俺は、最後の固定のために、いくつかの道具を召喚した。
「(**『手動ドリル』**と、**『太めの木ネジ』**セット!)」
**ポンッ!ポンッ!**
**【創造力:105/120 → 90/120】**
二つともDランク。合わせて15消費。
俺は、手動ドリルで、柄と刃先のソケット部分に、見事な下穴を開ける。そして、そこに、太い木ネジを、力の限りねじ込んでいった。
これで、もう、刃先が抜けることは絶対にない。
「よし、完成だ!」
俺の目の前にあったのは、もはや市販の安物とは比較にならない、世界に一本だけの、俺の体に完璧にフィットした、**『ユウキ・スペシャル・ロングハンドルスペード』**だった。
「……ただの安物のショベルが、一流の職人が作ったかのような、見事な道具に生まれ変わった……。これが、貴様の『知恵』か」
俺は、完成したばかりの相棒を手に、にやりと笑った。
「道具なんて、使う人間の発想次第ですよ」
そして、俺は、その新しい武器(農具)を手に、開墾すべき広大な土地へと向き直った。
隣には、最強の土木作業員(ナイト)と、最高の応援団(シロクマともふもふ)がいる。
「さて、と」
俺は、深く息を吸い込んだ。
「始めますか、俺たちの、最初の大仕事を!」
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