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第三十話『最強の土木作業員と、最高の埋蔵物』
しおりを挟む俺の宣言を合図に、『農地拡大計画』の幕が上がった。
俺が魔改造した『ユウキ・スペシャル・ロングハンドルスペード』を手に、体重を乗せて地面に突き立てる。ザクッ、という確かな手応え。前世の安物とは比較にならない、最高の使い心地だ。
「ユウキ殿、指示を!この荒れ地を、一日で耕作地に変えてみせよう!」
「はは、そんなに焦らなくても。まずは、邪魔な木の根を掘り起こすことから始めましょう」
リディアは、もはや剣を振るうのと同じくらい自然な動きで、巨大な木の根をその怪力で引っこ抜いていく。俺が半日かかりそうな作業を、彼女はほんの数分で片付けてしまう。まさに、最強の土木作業員だ。
シラタマは、俺たちが掘り起こした土の山に駆け登り、「キュイ!」と勝利の雄叫びを上げては、勢いよく滑り降りるという遊びに夢中になっている。時々、リディアが引っこ抜いた木の根を敵と見なして、タックルをかましているが、それはご愛嬌だ。
開墾作業は、驚くほど順調に進んだ。
だが、表土を剥がし、深く耕し始めると、新たな問題が俺たちの前に立ちはだかった。
「……うわ、なんだこれ。石ころだらけだ」
掘り起こした土は、大小様々な石を含んでおり、このままでは作物の根がうまく張れない。
「ユウキ殿、問題ない。一つ一つ、手で拾い出せばよかろう!」
「いや、リディアさん、それでは日が暮れてしまう。こういう時は、道具の力ですよ」
俺は、まず『バーベキュー網』を数枚召喚し、木の枝で組んだ枠に固定して、即席の「ふるい」を作った。
だが、これだけでは、一度に処理できる量が少ない。もっと効率を上げたい。
フードコーディネーターとして、食材の「サイズ分け(キャリブレーション)」にはこだわりがあった。
「(そうだ、あれを使おう……!)」
俺が次に召喚したのは、主婦の知恵の結晶ともいえる、あのアイテムだった。
**ポンッ!ポンッ!ポンッ!**
俺の目の前に現れたのは、目の粗さが違う、**『円筒型の洗濯ネット(ランドリーネット)』**が3種類。
「……洗濯、網?」
リディアが、人生で初めて見るであろうその物体に、困惑の声を上げる。
俺は、にやりと笑った。
「見ててください。これが、俺たちの作業効率を劇的に上げる、秘密兵器です」
俺は、三種類の洗濯ネットを、目の粗い順に少しずつ高さを変えて、木の杭に固定する。
一番上は、大きな石を取り除くための、目の粗いネット。
真ん中は、中くらいの石を取り除くネット。
一番下は、小石を取り除くための、目の細かいネットだ。
「さあ、リディアさん!この一番上のネットに、石混じりの土を放り込んでください!」
「お、おう!」
リディアが、半信半疑のまま、シャベルで土を投げ入れる。
すると、どうだ。
土と砂だけが下のネットへと落ちていき、大きな石だけが、見事に選別されていく。そして、その下のネットでも同じことが繰り返され、最終的に、一番下の地面には、石が完全に取り除かれた、ふかふかの土だけが残るのだ。
「な……!これは、なんという効率的な陣形だ……!まるで、城の防衛網ではないか!」
「名付けて、『三段式・石ころ選別システム』です!」
この発明に、リディアは感動し、シラタマは洗濯ネットの上でトランポリンのように跳ねて遊び始め、つちのこは、ふかふかになった土の上で、嬉しそうにでんぐり返しをしていた。
昼休憩。
汗を流した後の体には、甘いものが必要だ。
俺は、収穫しておいた芋と、自家製ナッツオイル、そして先日見つけた野生の蜜を使って、『大学芋』を作った。
カリカリの飴と、ホクホクの芋。その悪魔的な組み合わせに、リディアは、最初の一口で完全に心を奪われた。
「こ、これは……っ!戦略級の美味さだ……!疲労した兵の士気を、一瞬で回復させる力がある……!ユウキ殿、この製法、我が騎士団の正式採用とすべく、レシピの献上を……!」
「ははは、まあまあ、たくさんありますから、落ち着いて食べてください」
目を輝かせて大学芋を頬張るリディアの姿は、もはや国の騎士ではなく、ただの食いしん坊な女の子だった。
その日の午後。
開墾作業の最終盤で、俺のシャベルが、ゴツン、と少し湿った岩盤のようなものに当たった。
「ん?なんだろう、この岩」
リディアがその怪力で岩の周りの土をどかすと、そこには亀裂の入った、湯気で少し湿っているように見える岩盤が広がっていた。
俺が不思議に思って、その亀裂に手をかざしてみると――
「わ、温かい……!」
じんわりと、心地よい熱が伝わってくる。
そして、亀裂の隙間から、硫黄の香りが、かすかに、しかし確かに漂ってきた。
シラタマも、その匂いに気づいたのか、亀裂の周りをクンクンと嗅ぎまわり、気持ちよさそうに「キュゥ……」と喉を鳴らしている。
「ゆ、ユウキ殿……!これは、まさか……!」
リディアが、驚きと期待に満ちた目で俺を見る。
ブッシュクラフトと、前世で巡った温泉地の記憶が、俺の中で確信へと変わる。
「……間違いない。温泉です。俺たちの土地の下に、天然の温泉が眠ってるんですよ!」
その言葉に、リディアはゴクリと喉を鳴らし、シラタマは「お風呂!お風呂!」とでも言うように、その場でぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。以前、水嫌いを発揮した彼だが、温かいお湯の気持ちよさは覚えていたらしい。
最高の畑のすぐ隣に、最高の癒やしが眠っていた。
この発見は、俺たちのスローライフを、また一つ、新たなステージへと押し上げる、温かい予感に満ちていた。
「(最高の畑の次は……最高の**『露天風呂』**作り、か!)」
俺の頭の中に、湯けむりに包まれながら、みんなで星空を眺める、未来の光景が浮かび上がる。
その、どこまでも平和で、温かい達成感に満たされた空気の中。
チリン……。
森の、ずっと遠くから。
風に乗って、微かな、しかし澄んだ鈴の音が、俺たちの耳に届いた気がした。
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