おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第三十三話『一番風呂と、小麦の初仕事』

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翌朝。俺たちの前には、最高の舞台が整っていた。
あとは、この舞台に主役である「お湯」を招き入れるだけだ。

「最後の仕上げをしますよ!」

俺は、温泉の源泉と、完成した湯船を繋ぐ「湯路(ゆのみち)」作りに取り掛かった。竹をくり抜くのも風情があるが、もっと効率的な方法を選ぶ。
俺がスキルで召喚したのは、園芸コーナーの隅に必ずある、あのアイテム。

ポンッ!

【創造力:80/120 → 70/120】

現れたのは、プラスチック製の『連結式・雨どい』と、それを固定するための『サドルバンド』。
これを木の杭に打ち付け、源泉から湯船まで、緩やかな傾斜をつけて繋いでいく。

「ユウキ殿、その…プラスチック?とかいう素材は、湯の熱で溶けたりはしないのか?」
「大丈夫です。この世界の温泉が、俺の知る常識的な温度なら、ですけどね」

俺が湯路の出口を湯船に固定すると、ゴポゴポという音と共に、源泉から引かれたばかりの新鮮な湯が、勢いよく流れ込み始めた。湯船が、見る見るうちに透明な湯で満たされていく。立ち上る湯気と、ほのかな硫黄の香り。
俺は川の水を少しずつ足しながら、指先の感覚を頼りに、完璧な湯加減へと調整していく。

「よし、完成だ!最高の露天風呂です!」

湯けむりの向こうに広がる、完璧な癒やしの空間。
さて、一番風呂は誰の手に。
俺が「一番の功労者であるリディアさんからどうぞ」と言うと、彼女は「いや、全てを設計し、作り上げたユウキ殿こそが!」と固辞する。
そんな俺たちの、どこか微笑ましい譲り合いを破ったのは、待ちきれない白い毛玉だった。

「キュイッ!」

ザブーーーン!
シラタマが、見事なダイブで一番風呂の権利を獲得した。
以前、冷たい川の水をあれほど嫌がっていたのが嘘のように、温かい湯の中で手足を伸ばし、「キュゥ~…」と、至福のため息を漏らしている。気持ちよすぎて、白熊からトドにジョブチェンジしてしまいそうだ。

「はは、シラタマに先を越されましたね。さあ、リディアさんもどうぞ」

促され、リディアは少し照れくさそうに、そっと湯船に足を入れた。
騎士としての彼女が、野営の沐浴とは全く違う、心からリラックスできる入浴を初体験する瞬間だ。
肩まで浸かった、その時。

「…………ふぅぅぅぅぅ…………」

普段の彼女からは想像もつかない、魂の底から絞り出したような、甘い吐息が漏れた。その顔は、厳しい騎士のそれではなく、ただただ幸せに身を委ねる、一人の女性の顔だった。

最後に俺も湯船に浸かり、空を見上げる。
木々の隙間から、見たこともないほど美しい、満天の星が輝いていた。
隣には、幸せそうに目を細める仲間たちがいる。
ああ、この世界に来て、本当によかった。心の底から、そう思った。

最高の風呂上がりには、最高の「湯上がりメシ」が待っている。
俺は、この日のためにとっておいた、バロンから譲り受けた『小麦』の袋を開けた。
石臼で丁寧に挽いた、真っ白で香り高い小麦粉。これに岩塩と水を加えてこね、薄く伸ばしていく。
そして、その生地を、余熱が残る石窯の中へ。

プクーッと、魔法のように生地が膨らんでいく。
数分後、窯から取り出したのは、表面に美しい焦げ目がついた、熱々の『フラットブレッド』だ。
俺たちは、湯上がりで火照った体のまま、焚き火を囲む。
焼きたてのパンをちぎり、燻製肉とベリーソースを乗せて、頬張った。
噛みしめるほどに広がる、小麦の優しい甘みと、豊かな香り。
それは、俺たちが、自分たちの手で、この世界の生活を、一歩、また一歩と、豊かにしてきた証の味がした。

温かい風呂と、温かい食事。そして、温かい仲間たち。
俺たちのスローライフは、これ以上ないほどの、幸せな湯気に包まれていた。
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