33 / 185
第三十三話『一番風呂と、小麦の初仕事』
しおりを挟む
翌朝。俺たちの前には、最高の舞台が整っていた。
あとは、この舞台に主役である「お湯」を招き入れるだけだ。
「最後の仕上げをしますよ!」
俺は、温泉の源泉と、完成した湯船を繋ぐ「湯路(ゆのみち)」作りに取り掛かった。竹をくり抜くのも風情があるが、もっと効率的な方法を選ぶ。
俺がスキルで召喚したのは、園芸コーナーの隅に必ずある、あのアイテム。
ポンッ!
【創造力:80/120 → 70/120】
現れたのは、プラスチック製の『連結式・雨どい』と、それを固定するための『サドルバンド』。
これを木の杭に打ち付け、源泉から湯船まで、緩やかな傾斜をつけて繋いでいく。
「ユウキ殿、その…プラスチック?とかいう素材は、湯の熱で溶けたりはしないのか?」
「大丈夫です。この世界の温泉が、俺の知る常識的な温度なら、ですけどね」
俺が湯路の出口を湯船に固定すると、ゴポゴポという音と共に、源泉から引かれたばかりの新鮮な湯が、勢いよく流れ込み始めた。湯船が、見る見るうちに透明な湯で満たされていく。立ち上る湯気と、ほのかな硫黄の香り。
俺は川の水を少しずつ足しながら、指先の感覚を頼りに、完璧な湯加減へと調整していく。
「よし、完成だ!最高の露天風呂です!」
湯けむりの向こうに広がる、完璧な癒やしの空間。
さて、一番風呂は誰の手に。
俺が「一番の功労者であるリディアさんからどうぞ」と言うと、彼女は「いや、全てを設計し、作り上げたユウキ殿こそが!」と固辞する。
そんな俺たちの、どこか微笑ましい譲り合いを破ったのは、待ちきれない白い毛玉だった。
「キュイッ!」
ザブーーーン!
シラタマが、見事なダイブで一番風呂の権利を獲得した。
以前、冷たい川の水をあれほど嫌がっていたのが嘘のように、温かい湯の中で手足を伸ばし、「キュゥ~…」と、至福のため息を漏らしている。気持ちよすぎて、白熊からトドにジョブチェンジしてしまいそうだ。
「はは、シラタマに先を越されましたね。さあ、リディアさんもどうぞ」
促され、リディアは少し照れくさそうに、そっと湯船に足を入れた。
騎士としての彼女が、野営の沐浴とは全く違う、心からリラックスできる入浴を初体験する瞬間だ。
肩まで浸かった、その時。
「…………ふぅぅぅぅぅ…………」
普段の彼女からは想像もつかない、魂の底から絞り出したような、甘い吐息が漏れた。その顔は、厳しい騎士のそれではなく、ただただ幸せに身を委ねる、一人の女性の顔だった。
最後に俺も湯船に浸かり、空を見上げる。
木々の隙間から、見たこともないほど美しい、満天の星が輝いていた。
隣には、幸せそうに目を細める仲間たちがいる。
ああ、この世界に来て、本当によかった。心の底から、そう思った。
最高の風呂上がりには、最高の「湯上がりメシ」が待っている。
俺は、この日のためにとっておいた、バロンから譲り受けた『小麦』の袋を開けた。
石臼で丁寧に挽いた、真っ白で香り高い小麦粉。これに岩塩と水を加えてこね、薄く伸ばしていく。
そして、その生地を、余熱が残る石窯の中へ。
プクーッと、魔法のように生地が膨らんでいく。
数分後、窯から取り出したのは、表面に美しい焦げ目がついた、熱々の『フラットブレッド』だ。
俺たちは、湯上がりで火照った体のまま、焚き火を囲む。
焼きたてのパンをちぎり、燻製肉とベリーソースを乗せて、頬張った。
噛みしめるほどに広がる、小麦の優しい甘みと、豊かな香り。
それは、俺たちが、自分たちの手で、この世界の生活を、一歩、また一歩と、豊かにしてきた証の味がした。
温かい風呂と、温かい食事。そして、温かい仲間たち。
俺たちのスローライフは、これ以上ないほどの、幸せな湯気に包まれていた。
あとは、この舞台に主役である「お湯」を招き入れるだけだ。
「最後の仕上げをしますよ!」
俺は、温泉の源泉と、完成した湯船を繋ぐ「湯路(ゆのみち)」作りに取り掛かった。竹をくり抜くのも風情があるが、もっと効率的な方法を選ぶ。
俺がスキルで召喚したのは、園芸コーナーの隅に必ずある、あのアイテム。
ポンッ!
【創造力:80/120 → 70/120】
現れたのは、プラスチック製の『連結式・雨どい』と、それを固定するための『サドルバンド』。
これを木の杭に打ち付け、源泉から湯船まで、緩やかな傾斜をつけて繋いでいく。
「ユウキ殿、その…プラスチック?とかいう素材は、湯の熱で溶けたりはしないのか?」
「大丈夫です。この世界の温泉が、俺の知る常識的な温度なら、ですけどね」
俺が湯路の出口を湯船に固定すると、ゴポゴポという音と共に、源泉から引かれたばかりの新鮮な湯が、勢いよく流れ込み始めた。湯船が、見る見るうちに透明な湯で満たされていく。立ち上る湯気と、ほのかな硫黄の香り。
俺は川の水を少しずつ足しながら、指先の感覚を頼りに、完璧な湯加減へと調整していく。
「よし、完成だ!最高の露天風呂です!」
湯けむりの向こうに広がる、完璧な癒やしの空間。
さて、一番風呂は誰の手に。
俺が「一番の功労者であるリディアさんからどうぞ」と言うと、彼女は「いや、全てを設計し、作り上げたユウキ殿こそが!」と固辞する。
そんな俺たちの、どこか微笑ましい譲り合いを破ったのは、待ちきれない白い毛玉だった。
「キュイッ!」
ザブーーーン!
シラタマが、見事なダイブで一番風呂の権利を獲得した。
以前、冷たい川の水をあれほど嫌がっていたのが嘘のように、温かい湯の中で手足を伸ばし、「キュゥ~…」と、至福のため息を漏らしている。気持ちよすぎて、白熊からトドにジョブチェンジしてしまいそうだ。
「はは、シラタマに先を越されましたね。さあ、リディアさんもどうぞ」
促され、リディアは少し照れくさそうに、そっと湯船に足を入れた。
騎士としての彼女が、野営の沐浴とは全く違う、心からリラックスできる入浴を初体験する瞬間だ。
肩まで浸かった、その時。
「…………ふぅぅぅぅぅ…………」
普段の彼女からは想像もつかない、魂の底から絞り出したような、甘い吐息が漏れた。その顔は、厳しい騎士のそれではなく、ただただ幸せに身を委ねる、一人の女性の顔だった。
最後に俺も湯船に浸かり、空を見上げる。
木々の隙間から、見たこともないほど美しい、満天の星が輝いていた。
隣には、幸せそうに目を細める仲間たちがいる。
ああ、この世界に来て、本当によかった。心の底から、そう思った。
最高の風呂上がりには、最高の「湯上がりメシ」が待っている。
俺は、この日のためにとっておいた、バロンから譲り受けた『小麦』の袋を開けた。
石臼で丁寧に挽いた、真っ白で香り高い小麦粉。これに岩塩と水を加えてこね、薄く伸ばしていく。
そして、その生地を、余熱が残る石窯の中へ。
プクーッと、魔法のように生地が膨らんでいく。
数分後、窯から取り出したのは、表面に美しい焦げ目がついた、熱々の『フラットブレッド』だ。
俺たちは、湯上がりで火照った体のまま、焚き火を囲む。
焼きたてのパンをちぎり、燻製肉とベリーソースを乗せて、頬張った。
噛みしめるほどに広がる、小麦の優しい甘みと、豊かな香り。
それは、俺たちが、自分たちの手で、この世界の生活を、一歩、また一歩と、豊かにしてきた証の味がした。
温かい風呂と、温かい食事。そして、温かい仲間たち。
俺たちのスローライフは、これ以上ないほどの、幸せな湯気に包まれていた。
90
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。
kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。
桜は、目立たず生きることを決意したが・・・
初めての投稿なのでよろしくお願いします。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる