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第三十八話『森のキャンドルと、夜の読書会』
しおりを挟む新設したダイニングテーブルを囲む夜の時間は、以前よりもずっと豊かになった。
だが、俺は一つだけ、物足りなさを感じていた。天井から吊るされた『LEDランタン』が放つ、白く均一な光。それは作業をするには十分だが、穏やかな夜を過ごすには、少しだけ無機質すぎた。
「もっと、温かみのある、心安らぐ『灯り』が欲しいですね」
俺の呟きが、次なるプロジェクトの始まりだった。目指すは、『手作りアロマキャンドル』だ。
その主原料である蜜蝋を手に入れるため、俺は日中、森を飛ぶ蜂の軌跡を辛抱強く追った。そして、大きな樫の木に、立派な野生の蜂の巣を発見した。
「ユウキ殿、どうするのだ。力任せに木を倒せば、蜂の逆襲は免れんぞ」
「いえ、こういう時は、知恵を使います」
俺はスキルで100均の『スチール缶』を召喚し、中に湿った枯れ葉を詰めて火をつけた。缶から立ち上る煙を、これまた召喚した『うちわ』でそっと扇ぎ、巣の入り口へと送る。簡易燻煙器だ。煙で穏やかになった蜂たちが巣から離れた隙に、俺は巣の一部を、感謝と共に少しだけ分けてもらった。
拠点に戻り、いよいよキャンドル作りだ。
ポンッ!ポンッ!ポンッ!
【創造力:58/120 → 50/120】
芯にするための『木綿の凧糸』、容器となる『ガラスの小瓶』をいくつか召喚。
大鍋で蜜蝋をゆっくりと溶かし、森で摘んできた、リラックス効果のあるハーブを数種類加える。拠点中に、蜂蜜の甘い香りと、ハーブの爽やかな香りが混じり合った、最高の香りが満ちていった。
溶けたロウを、芯を垂らした小瓶に一つ一つ注いでいき、冷えて固まるのを待つ。
その日の夜。
完成したばかりのキャンドルに、俺は火を灯した。
LEDランタンを消すと、そこには全く違う世界が広がった。オレンジ色で、ゆらゆらと揺れる炎の光が、俺たちの家を優しく、そして温かく照らし出す。ふわりと漂う、森のハーブの香り。シラタマも、その穏やかな光と香りが気に入ったのか、うっとりと目を細めている。
その、どこまでも穏やかな光の中で、リディアが、おずおずと口を開いた。
彼女は懐から、革の表紙が擦り切れた、一冊の古い本を取り出す。
「…ユウキ殿。もしよければ、一節、聞いてもらえないだろうか」
それは、彼女が騎士になる前から、ずっと大切にしてきた英雄の物語が綴られた本だった。
俺とシラタマが頷くと、彼女は、キャンドルの灯りに本をかざし、その優しい光を頼りに、少しだけ恥ずかしそうに、しかし澄んだ声で、物語を読み始めた。
英雄の冒険譚が、リディアの静かな声に乗って、温かい光の中に溶けていく。
俺たちの夜は、ただ眠るだけの時間から、物語を分か-ち合う、豊かで文化的な時間へと、静かに進化を遂げていた。
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