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第四十八話『真夏の氷室と、テラコッタの知恵』
しおりを挟むうだるような暑さが続く、夏の盛り。俺は、日陰でぐったりしているシラタマと、額の汗を拭うリディアを見て、この季節ならではの課題に直面していた。
「せっかく釣った魚も、この暑さだとすぐに傷んでしまいますね。ああ…冷たい飲み物が飲みたい…」
その言葉に、リディアは「夏に涼を得るのは、王侯貴族でもなければ難しいからな」と肩をすくめる。だが、俺の頭の中には、電気も氷も使わずに涼を生み出す、古代の知恵が眠っていた。
「リディアさん。今日は、食べ物を冷やす魔法をお見せします」
俺が作るのは、『気化熱式冷蔵庫』。その心臓部となる材料を、スキルで召喚した。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:123/150 → 115/150】
現れたのは、園芸コーナーでお馴染みの、『素焼きの植木鉢』の大と中。
俺は、大きな鉢の中に小さな鉢を入れ子のようにセットし、その隙間に川砂をぎっしりと詰めていく。
「ユキ殿、これは一体…?」
「水が蒸発する時、周りの熱を奪うんです。その力を利用して、中の物を冷やすんですよ」
俺は砂がひたひたになるまで水を注ぎ、最後に濡らした『綿のふきん』を蓋のように被せた。
「よし、完成です。これを、家の北側にある、一番風通しの良い日陰に置きましょう」
俺が装置を慎重に運ぶと、リディアは「日陰にか?てっきり、太陽で水を乾かすのかと思っていたが」と不思議そうな顔をした。
「逆です。この装置は水分が蒸発する力で冷えるので、直射日光を避けた方が効率がいいんです。風通しが良いほど、効果も上がりますしね」
俺は、完成した冷蔵庫を設置しながら続けた。
「この森の夏は湿度が高いので、そこまで劇的には下がりませんが、この条件なら外の気温より5℃から7℃は低くなるはずです。それだけでも、食べ物の鮮度は、数日から数週間へと延ばせるんですよ」
「数週間…!それは、もはや魔法ではなく、実用的な戦術だな…!」
リディアは、俺の知識に改めて感嘆していた。
性能を試すため、俺はとっておきのご褒美を用意した。キバいのししの骨から煮出したゼラチンと、ベリーの搾り汁、蜂蜜を混ぜて作った『森のベリーゼリー』だ。まだ温かい、液体のゼリーを陶器の器に入れ、俺たちの新しい冷蔵庫の中にそっと収める。
数時間後。一番暑い時間帯に、俺たちは再び冷蔵庫の元へ。
外側の鉢は生暖かく、砂は少し乾いている。だが、濡れたふきんを取って、中の鉢に手を入れると、ひんやりとした空気がそこにはあった。そして、中に入れたゼリーは、ぷるぷると完璧に冷え固まっている。
俺たちは木陰に座り、ひんやりと冷たいベリーゼリーを味わった。
夏の暑さの中で、冷たいデザートを食べるという初体験。その、舌の上でとろける甘酸っぱさと涼やかさは、まさに奇跡の味だった。
シラタマは、冷たさに驚きながらも、夢中でゼリーを舐めている。
リディアは、その未知の感覚に衝撃を受け、畏敬の念を込めて、ぽつりと呟いた。
「ユキ殿…貴殿は、夏さえも支配するのか…」
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