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第五十四話『秋支度と、薪小屋の壁』
しおりを挟む俺たちの日常に、新しい仕事が加わった。
朝一番、リディアが気化熱式冷蔵庫の中を覗き込み、先日仕込んだチーズの様子を『温湿度管理日誌』に記録する。そして、俺の元へやってくると、ピシッと背筋を伸ばして報告するのだ。
「ユキ殿、チーズは今日も健在だ! 異常なし!」
その、どこまでも真面目で、少しだけズレた報告を聞くのが、俺のささやかな楽しみになっていた。
報告を受けながら、俺は朝の空気に混じる、澄んだ涼しさに秋の訪れを感じ取っていた。空はどこまでも高く、夏の湿った土の匂いは、乾いた落ち葉の香ばしい香りへと変わっている。
「リディアさん、そろそろ本格的な『秋支度』を始めましょう。まずは、冬を越すための薪集めです」
「任せろ!」と、リディアは森で集めてきた巨大な丸太を前に、自信満々に腕を組んだ。だが、斧はない。彼女は、騎士としての身体能力で、この問題を解決しようとした。
「ふんっ!」
気合一閃、彼女の渾身の蹴りが丸太に叩き込まれる。だが、丸太はびくともしない。
「むぅ…!私の力が、ただの木に劣るというのか!」
悔しがる彼女に、俺は笑いながら言った。
「力だけじゃダメなんですよ、リディアさん。薪作りには、乾燥という大事な工程があります。切ったばかりの生木は水分が多くて、煙ばかりで暖かくならないんです。それに、こういう時は、技を使います」
ポンッ!
【創造力:95/150 → 90/150】
俺が召喚したのは、Dランクの工具『スチールたがね』。金属製の、頑丈なクサビだ。
俺は丸太の亀裂にタガネを当て、自作の巨大な木槌を振り下ろす。カン、カン、という澄んだ金属音と共に、タガネは少しずつ丸太に食い込んでいき、やがて、パキーン!という心地よい音を立てて、巨大な丸太が綺麗に二つに割れた。
力よりも技が勝る。その光景に、リディアは「そうだったのか…!」と目から鱗が落ちたようだった。
薪を効率よく乾燥させるには、雨に濡らさず、風通し良く保管する専用の場所が必要だ。
「よし、『薪小屋』を作りましょう」
俺たちの新たなプロジェクトが始まった。リディアが柱となる木を運び、俺がそれを組んでいく。問題は、大量の薪を地面に直接置かないための土台だ。
ポンッ!
【創造力:90/150 → 70/150】
俺が召喚したのは、Cランクの丈夫な『プラスチック製のコンテナ』を数個。これを地面に逆さにして並べることで、地面からの湿気を防ぎ、下からの風通しも確保できる、完璧な土台を作り上げた。
その日から数日間、俺たちの拠点には新しいリズムが生まれた。
リディアが丸太を押さえ、俺がタガネを当てて木槌を振り下ろす。カン!パキーン!という小気味よい音が、秋の森に響き渡る。飛び散る木片を、シラタマが獲物のように追いかけてじゃれついている。最高の現場監督だ。
割った薪を、完成した薪小屋に、リディアが壁のように高く、美しく積み上げていく。
そして、全ての作業を終えた日の夕暮れ。
俺たちの前には、自分たちの手で作り上げた、冬を越すための熱量を象徴する「薪の壁」が、堂々とそびえ立っていた。
棚には瓶詰めの保存食、冷蔵庫ではチーズが静かに熟成し、そして庭には、山と積まれた薪。俺たちの冬への備えは、万全だった。
リディアはその壁を、感慨深げに見上げ、ぽつりと呟いた。
「…不思議だな。どんな城壁よりも、この薪の壁の方が、私にはずっと心強く、温かく見える」
その横顔は、俺が今まで見た中で、一番穏やかで、幸せそうだった。
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