63 / 185
第六十三話『卓上機織り機と、創造の産声』
しおりを挟む
完成したばかりの、温かい毛糸玉を手に、リディアが不思議そうに尋ねた。
「ユキ殿、この素晴らしい糸で、どうやってショールを作るのだ?一本の紐を、どうやって一枚の布に…?」
「糸を布に変えるための、新しい工房を作りましょう」
俺が地面に描いた設計図は、これまでで最も複雑で、最も精密な道具…**『卓上機織り機』**だった。
「これが、縦糸。そして、これが横糸。この組み合わせが、布になるんです」
俺は、その場で紡いだばかりの糸を数本指に絡め、リディアの目の前で、小さなコースターほどの「ミニチュア織物」を作って見せた。言葉だけでなく、実物で見せることで、彼女の理解は一気に深まったようだった。
その日から、俺たちの拠点には、新しい「工房の音」が響き始めた。
まず、頑丈なフレームを組むための、主要な部材を召喚する。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 137/150】
Dランクの『工作用の木材ブロック』と『木ネジセット』、そしてEランクの『紙やすり』だ。
俺が『手動ドリル』で木の板に穴を開ける「キュルキュル」という音。リディアが、切り出した木材の角を紙やすりで丁寧に磨く「シュッシュッ」という音。
このDIYで求められるのは、ミリ単位の『精密さ』。ここで、リディアの新しい才能が開花した。彼女は、木ネジを締め上げながら、ぽつりと呟く。
「…なるほど。これは、寸分の狂いなく剣の柄を締め上げる感覚や、弓の弦を張り詰める時の指先の力加減と、全く同じだ」
彼女の過去の経験が、今の創造に直接繋がっている。その姿に、俺は「彼女も、すっかり『作る側』の人間になったな」と、心の中で感慨にふけっていた。
横糸を打ち込む『筬(おさ)』には、100均の意外なアイテムを活用する。
ポンッ!
【創造力:137/150 → 135/150】
Eランクの『プラスチック製のクシ』だ。これを木の枠に固定し、完璧な代用品を作り上げた。
数日後、ついに、素朴ながらも機能的な『卓上機織り機』が完成した。
俺たちは、自分たちが紡いだ毛糸を、縦糸として一本一本、丁寧に機に張っていく。
ピンと張られた縦糸を、シラタマがギターの弦のように「ビヨーン」と弾いて遊び、その音に驚いたメイが飛び跳ねる。つちのこも、家の入り口から、その複雑な機械の構造を、不思議そうにじっと見つめていた。
全ての準備が整った。
俺は、横糸を巻いた『杼(ひ)』を、リディアに手渡す。
「リディアさん、最初の一織りを、どうぞ」
リディアは、固唾をのんで頷くと、綜絖を操作して縦糸を上下させる。
カタン、と木の部品が心地よい音を立てる。
開いた縦糸の隙間に、彼女の緊張した手によって、俺たちの歴史で初めて、一本の横糸が通り抜ける。
そして、クシで作った筬で、その糸を自分の方へ引き寄せる。
トン、と柔らかく、しかし確かな音が響いた。
それは、これまでの地道な工房の音の果てに生まれた、俺たちが、ついに『布』という文明を手に入れた、記念すべき創造の産声だった。
「ユキ殿、この素晴らしい糸で、どうやってショールを作るのだ?一本の紐を、どうやって一枚の布に…?」
「糸を布に変えるための、新しい工房を作りましょう」
俺が地面に描いた設計図は、これまでで最も複雑で、最も精密な道具…**『卓上機織り機』**だった。
「これが、縦糸。そして、これが横糸。この組み合わせが、布になるんです」
俺は、その場で紡いだばかりの糸を数本指に絡め、リディアの目の前で、小さなコースターほどの「ミニチュア織物」を作って見せた。言葉だけでなく、実物で見せることで、彼女の理解は一気に深まったようだった。
その日から、俺たちの拠点には、新しい「工房の音」が響き始めた。
まず、頑丈なフレームを組むための、主要な部材を召喚する。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 137/150】
Dランクの『工作用の木材ブロック』と『木ネジセット』、そしてEランクの『紙やすり』だ。
俺が『手動ドリル』で木の板に穴を開ける「キュルキュル」という音。リディアが、切り出した木材の角を紙やすりで丁寧に磨く「シュッシュッ」という音。
このDIYで求められるのは、ミリ単位の『精密さ』。ここで、リディアの新しい才能が開花した。彼女は、木ネジを締め上げながら、ぽつりと呟く。
「…なるほど。これは、寸分の狂いなく剣の柄を締め上げる感覚や、弓の弦を張り詰める時の指先の力加減と、全く同じだ」
彼女の過去の経験が、今の創造に直接繋がっている。その姿に、俺は「彼女も、すっかり『作る側』の人間になったな」と、心の中で感慨にふけっていた。
横糸を打ち込む『筬(おさ)』には、100均の意外なアイテムを活用する。
ポンッ!
【創造力:137/150 → 135/150】
Eランクの『プラスチック製のクシ』だ。これを木の枠に固定し、完璧な代用品を作り上げた。
数日後、ついに、素朴ながらも機能的な『卓上機織り機』が完成した。
俺たちは、自分たちが紡いだ毛糸を、縦糸として一本一本、丁寧に機に張っていく。
ピンと張られた縦糸を、シラタマがギターの弦のように「ビヨーン」と弾いて遊び、その音に驚いたメイが飛び跳ねる。つちのこも、家の入り口から、その複雑な機械の構造を、不思議そうにじっと見つめていた。
全ての準備が整った。
俺は、横糸を巻いた『杼(ひ)』を、リディアに手渡す。
「リディアさん、最初の一織りを、どうぞ」
リディアは、固唾をのんで頷くと、綜絖を操作して縦糸を上下させる。
カタン、と木の部品が心地よい音を立てる。
開いた縦糸の隙間に、彼女の緊張した手によって、俺たちの歴史で初めて、一本の横糸が通り抜ける。
そして、クシで作った筬で、その糸を自分の方へ引き寄せる。
トン、と柔らかく、しかし確かな音が響いた。
それは、これまでの地道な工房の音の果てに生まれた、俺たちが、ついに『布』という文明を手に入れた、記念すべき創造の産声だった。
53
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。
kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。
桜は、目立たず生きることを決意したが・・・
初めての投稿なのでよろしくお願いします。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる