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第六十四話『暖炉の前で、手の中の温もり』
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秋の夜長、俺たちの拠点には、新しい日常の音が生まれていた。
暖炉の中でパチパチと薪がはぜる音。そして、卓上機織り機が奏でる、カタン、トン、という心地よいリズム。俺とリディアは、交代で機に向かい、自分たちが紡いだ毛糸が、少しずつ、しかし確実に、一枚の大きな布へと姿を変えていく様を、静かな感動と共に楽しんでいた。シラタマは、暖炉の前の一番の特等席で、幸せそうな寝息を立てている。
数日後、ついに大きな一枚の布が織り上がった。生成り色の、素朴で温かい布だ。
「このままでも素敵ですが、せっかくですから、この森の色を少しだけ、分けてもらいましょう」
俺が提案したのは、『草木染め』への挑戦だった。
秋の森は、最高の染料の宝庫だ。俺たちは、燃えるような赤に色づいたカエデの落ち葉や、硬い殻に豊かな色素を秘めたクルミの実を拾い集めた。
「ユキ殿、最高の染料になりそうな根を見つけたぞ!」
いつの間にか現れたつちのこが、リディアの手を引いて、ひときわ美しい緋色を生み出す不思議な木の根っこを教えてくれた。
拠点に戻り、染色の準備を始める。まずは道具からだ。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 130/150】
Cランクの『ステンレス製の寸胴鍋』と、Eランクの『ゴム手袋』や『トング』のセットを召喚する。
そして、色を布に定着させる『媒染剤』作り。俺が取り出したのは、以前作った『果実酢』と、100均で召喚した『スチールウール』。
「この鉄の塊を、酢に…?ユキ殿…もはや、森の錬金術師だな」
リディアが感嘆する中、俺は鉄分が溶け出した『鉄媒染液』を完成させた。
鉄の大鍋で、つちのこが見つけてくれた木の根を煮出すと、赤黒い、濃厚な染料ができた。
まず、媒染液に浸しておいた布を、その染料の鍋に沈める。しばらくして引き上げると、布は、少しだけくすんだ、茶色のような色に染まっていた。リディアが、少しだけ残念そうな顔をした、その瞬間だった。
布が、冷たい秋の空気に触れた途端、魔法のように、その色を変え始めたのだ。
くすんだ茶色が、見る見るうちに鮮やかな、燃えるような緋色へと変化していく。
「な…!色が、生きているようだ…!」
酸化という化学反応が生んだ、色の錬金術。その神秘的な光景に、俺たちはただ息をのんだ。
染め上がった布を川ですすぐ。冷たい水にも構わず、布が流されないようにシラタマが押さえてくれるのが、頼もしかった。
乾いた布を、それぞれのショールへと仕立てていく。リディアは、自分でフリンジをつけようと、悪戦苦闘していた。その、少し不格好な出来栄えに、俺が「手伝いましょうか?」と声をかける。
だが、彼女は、誇らしげに首を横に振った。
「いや、いい。この不格好さこそが、私の手で作ったという、何よりの証なのだから」
完璧ではない自分の仕事を、誇りをもって受け入れる。彼女は、本当の意味で「創造する者」になったのだ。
その夜、冷たい風が拠点の壁を撫でる。
俺たちは、完成したばかりの暖炉の前に集まり、それぞれが、自分たちの手で作り上げた、世界に一つだけのショールにくるまっていた。
俺のは、クルミで染めた落ち着いた茶色。リディアのは、つちのこが見つけた、鮮やかな緋色。シラタマの首には、小さなネックウォーマーが巻かれ、その端には、つちのこがお礼とばかりに飾り付けた、美しい葉っぱが揺れている。
じんわりと伝わる、手作りの布の温かさ。揺れる炎。
俺は、リディアが纏う、その美しい緋色を眺めながら、ふと、前世の記憶を思い出していた。
(前世で扱っていた『色』は、いつだって、カラーチャートの中の無機質な『記号』だった。クライアントに指示され、ただ正確に再現するだけの、感情のない色…。でも、今、目の前にあるこの色は違う。つちのこがくれた奇跡と、秋の森の恵み、そして、リidiaと、シラタマと、みんなで過ごした時間そのものが、この色を織り上げているんだ…)
それは、俺がこの世界で手に入れた、何物にも代えがたい、温かい色の価値観だった。
暖炉の中でパチパチと薪がはぜる音。そして、卓上機織り機が奏でる、カタン、トン、という心地よいリズム。俺とリディアは、交代で機に向かい、自分たちが紡いだ毛糸が、少しずつ、しかし確実に、一枚の大きな布へと姿を変えていく様を、静かな感動と共に楽しんでいた。シラタマは、暖炉の前の一番の特等席で、幸せそうな寝息を立てている。
数日後、ついに大きな一枚の布が織り上がった。生成り色の、素朴で温かい布だ。
「このままでも素敵ですが、せっかくですから、この森の色を少しだけ、分けてもらいましょう」
俺が提案したのは、『草木染め』への挑戦だった。
秋の森は、最高の染料の宝庫だ。俺たちは、燃えるような赤に色づいたカエデの落ち葉や、硬い殻に豊かな色素を秘めたクルミの実を拾い集めた。
「ユキ殿、最高の染料になりそうな根を見つけたぞ!」
いつの間にか現れたつちのこが、リディアの手を引いて、ひときわ美しい緋色を生み出す不思議な木の根っこを教えてくれた。
拠点に戻り、染色の準備を始める。まずは道具からだ。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 130/150】
Cランクの『ステンレス製の寸胴鍋』と、Eランクの『ゴム手袋』や『トング』のセットを召喚する。
そして、色を布に定着させる『媒染剤』作り。俺が取り出したのは、以前作った『果実酢』と、100均で召喚した『スチールウール』。
「この鉄の塊を、酢に…?ユキ殿…もはや、森の錬金術師だな」
リディアが感嘆する中、俺は鉄分が溶け出した『鉄媒染液』を完成させた。
鉄の大鍋で、つちのこが見つけてくれた木の根を煮出すと、赤黒い、濃厚な染料ができた。
まず、媒染液に浸しておいた布を、その染料の鍋に沈める。しばらくして引き上げると、布は、少しだけくすんだ、茶色のような色に染まっていた。リディアが、少しだけ残念そうな顔をした、その瞬間だった。
布が、冷たい秋の空気に触れた途端、魔法のように、その色を変え始めたのだ。
くすんだ茶色が、見る見るうちに鮮やかな、燃えるような緋色へと変化していく。
「な…!色が、生きているようだ…!」
酸化という化学反応が生んだ、色の錬金術。その神秘的な光景に、俺たちはただ息をのんだ。
染め上がった布を川ですすぐ。冷たい水にも構わず、布が流されないようにシラタマが押さえてくれるのが、頼もしかった。
乾いた布を、それぞれのショールへと仕立てていく。リディアは、自分でフリンジをつけようと、悪戦苦闘していた。その、少し不格好な出来栄えに、俺が「手伝いましょうか?」と声をかける。
だが、彼女は、誇らしげに首を横に振った。
「いや、いい。この不格好さこそが、私の手で作ったという、何よりの証なのだから」
完璧ではない自分の仕事を、誇りをもって受け入れる。彼女は、本当の意味で「創造する者」になったのだ。
その夜、冷たい風が拠点の壁を撫でる。
俺たちは、完成したばかりの暖炉の前に集まり、それぞれが、自分たちの手で作り上げた、世界に一つだけのショールにくるまっていた。
俺のは、クルミで染めた落ち着いた茶色。リディアのは、つちのこが見つけた、鮮やかな緋色。シラタマの首には、小さなネックウォーマーが巻かれ、その端には、つちのこがお礼とばかりに飾り付けた、美しい葉っぱが揺れている。
じんわりと伝わる、手作りの布の温かさ。揺れる炎。
俺は、リディアが纏う、その美しい緋色を眺めながら、ふと、前世の記憶を思い出していた。
(前世で扱っていた『色』は、いつだって、カラーチャートの中の無機質な『記号』だった。クライアントに指示され、ただ正確に再現するだけの、感情のない色…。でも、今、目の前にあるこの色は違う。つちのこがくれた奇跡と、秋の森の恵み、そして、リidiaと、シラタマと、みんなで過ごした時間そのものが、この色を織り上げているんだ…)
それは、俺がこの世界で手に入れた、何物にも代えがたい、温かい色の価値観だった。
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