おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第七十一話『新たなる約束、史上最高のカルボナーラ』

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チーズが完成した翌朝、拠点全体が、祝祭のような、しかしどこか神聖な高揚感に包まれていた。
俺は、暖炉の前に仲間たちを集めると、厳かに宣言した。
「今日は、ただの食事を作る日じゃありません。俺たちが、この森で出会い、共に笑い、共に作り上げてきた、この旅の、一つの目的地です。史上最高のカルボナーラを、最高の舞台で味わいましょう」

その「最高の舞台」を演出するため、俺はまず、食卓の準備から始めた。
スキルで召喚したのは、温かみのある色の『フェルト生地』。
ポンッ!
【創造力:108/150 → 105/150】
Eランクの素材だから、コストは3。称号効果で少しだけ引かれているか。
「ユキ殿、これは…?」
「ランチョンマットです。皿の下に敷くだけで、食事が、もっと特別で、温かいものになるんですよ」
俺は『デザインナイフ』で、一枚一枚、丁寧に切り出していく。その作業を、リディアが、機織り機で培った驚くべき精密さで手伝ってくれた。彼女の、かつては剣しか知らなかった不器用な指先が、今や、食卓を彩るための、繊細な創造の道具を完璧に操っている。その事実が、何よりも雄弁に、俺たちの旅路を物語っていた。

そして、カルボナーラの調理を始める直前、俺は、アニカから貰ったスパイスの袋を、まるで古文書でも開くかのように、恭しく開いた。中から出てきたのは、黒く、皺の寄った、小さな木の実に似た粒。
「リディアさん、シラタマ。心の準備はいいですか?俺たちの料理が、次の次元へ覚醒します」
俺は、その黒い粒を100均の『ごますり器』に入れ、ミルを回した。
カリカリカリッ…という小気味よい音と共に、工房中に、今まで誰も経験したことのない香りが、爆発した。
それは、香りではなかった。雷鳴だ。
目が覚めるように鮮烈で、鼻腔の奥を突き抜け、脳を直接揺さぶるような、スパイシーな衝撃。リディアは「なっ…!?」と息をのみ、シラタマはその未知の刺激に驚いて「クシュン!」と可愛らしいくしゃみを一つした。だが、その衝撃の後には、抗いがたいほどの食欲をそそる、野性的で、高貴な香りが残る。
「これが、『黒胡椒』。濃厚な料理を、キリリと引き締める、最高の相棒です」
彼らは、まだ見ぬカルボナーラの味が、今この瞬間、想像を絶する高みへと引き上げられたことを、確信した。

ついに、全ての役者が舞台に揃った。
鉄鍋の上で、厚切りの自家製ベーコンが、パチパチと音を立てながら、そのスモーキーな脂を黄金色の海へと解き放っていく。
隣の大鍋では、手打ちの生パスタが、完璧なアルデンテの瞬間を、今か今かと待っている。
そして、聖杯のごとき陶器のボウルの中。森の卵の、太陽のように輝く黄身と、淡雪のように削られたチーズの王が、その運命の出会いを待っている。
全ては、一瞬の芸術。
茹で上がったパスタを、湯切りもそこそこに、ベーコンの脂が待つ鍋へ。そして、その熱々の鍋を、火から下ろす。一拍、間を置いてから、卵とチーズの海へ、全てを注ぎ込む!
ジュワッという音と共に、ボウルの中で、奇跡が起きる。
パスタの熱が、卵に絶妙な火を入れ、溶けたチーズと、ベーコンの脂、パスタの茹で汁に含まれた塩分と小麦の旨味が、一つに溶け合う。ただの素材の集まりが、黄金色に輝く、とろりとした、完璧な一つのソースへと『乳化』する。
それは、料理ではなかった。俺たちが、この森で積み重ねてきた全ての時間が、一つの生命体へと昇華する、神聖な儀式だった。

完成したカルボナーラが、俺たちの手作りの陶器の皿に盛られる。手作りのランチョンマットの上に置かれ、手作りのキャンドルの光に照らされる、まさに俺たちの世界の全てが詰まった一皿。仕上げに、挽きたての黒胡椒を、もう一度だけ。
一口食べた瞬間、時が止まった。
驚愕の声も、感嘆のため息すらも、ない。ただ、沈黙。
(ああ、そうだ。この味だ…)
俺は、目を閉じた。一口ごとに、物語が蘇る。ヤギを助けた、あの雨の日。チーズの成長を、我が子のように見守った、リディアの真剣な横顔。黄金色の小麦が、風に揺れていた、あの収穫の日の高揚感。そして、全ての味を一つに束ね、新たな世界を見せてくれる、黒胡椒の鮮烈な衝撃。
この一皿は、ただ美味しいだけじゃない。俺たちが、この森で生きてきた、その時間の味がする。

やがて、リディアが、静かにフォークを置いた。その瞳には、穏やかな光の湖が、静かに広がっていた。彼女は、涙を流すでもなく、ただ、満ち足りた、最高の笑顔で、俺に言った。
「…ユキ殿。我々は、たった今、この世界で最も幸福な場所に、たどり着いたのだな」
その言葉は、俺たちの旅が、最高の形で目的地に到達したことを告げる、何より優しい鐘の音のように、暖炉の炎の中に、静かに、溶けていった。
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