おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第九十三話『未来を映す器と、ガラスの夢』

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長く、厳しく、しかしどこまでも温かかった冬が終わりを告げ、俺たちの聖域に、春の陽気が訪れた。軒先の氷柱は水晶の涙のように光る雫を落とし、木々の芽は固い殻を破ろうと力強く膨らんでいる。
しかし、その雪解けは、俺たちに新たな、そして非常に厄介な『洗礼』をもたらした。
それは、『泥』だ。
拠点周りの道は、雪解け水で、ずぶずぶと音を立てる沼のようになり、一歩歩くごとに、長靴がねっとりと吸い付いてくる。洗濯物を干しに行くだけで、ブーツは泥の鎧を纏ってしまう。
そして、この春の洗礼の、一番の被害者がシラタマだった。彼は、自慢の真っ白な毛皮が汚れるのを極端に嫌がり、泥のない場所を探して、ぴょんぴょんと蟹のように横歩きしている。時折、足が滑って泥が跳ねると、「キュン!」と悲鳴のような声を上げていた。
「むぅ…!冬の雪よりも、春の泥の方が、よほど厄介な敵だな…!」
ブーツについた泥を、木の枝でこそげ落としながら、リディアが心底うんざりしたように呟いた。その一言が、俺たちの新たなインフラ整備の始まりを告げた。

「この泥の敵と戦うには、まず、水の流れを支配する必要があります」
俺は、拠点周りに『排水路』を掘り、ぬかるみの原因である雪解け水を拠点から離れた場所へと導く計画を立てた。さらに、母屋や工房を繋ぐメインの通路には、作り溜めておいた『レンガ』を敷き詰め、雨の日でも快適に歩ける、美しい『煉瓦の小道』を作ることを提案した。

排水路を掘り進めていた、その時だった。俺のシャベルが、これまでとは違う、ねっとりと、そして驚くほど滑らかな感触の地層を掘り当てた。シャベルの先には、赤みがかった、美しい粘土が、まるで上質なバターのように乗っている。
「リディアさん、見てください!これは、とんでもない宝物ですよ!この粘土があれば、俺たちの食器は、次のステージへ行けます!」
俺の、まるで黄金でも掘り当てたかのような興奮ぶりに、リディアも目を輝かせる。
俺は、この大地の宝物を精製するため、スキルを発動した。

ポンッ!
【創造力:150/150 → 120/150】
Bランクの大型アイテム、『プラスチック製の衣装ケース』だ。コストは30。
俺はその中に粘土と水を入れ、泥水を作る。そして、その、ただの泥水を、もう一つの100均グッズで、最高の素材へと昇華させる。

ポンッ!
【創造力:120/150 → 115/150】
Dランクの調理器具、『ステンレス製のふるい』。コストは5。
俺は、その泥水を、ふるいで、辛抱強く、何度も、何度も濾していく。
すると、どうだ。小石や木の根といった不純物が取り除かれるたびに、残った粘土は、その純度を増していく。そして、俺たちの目の前には、シルクのようになめらかで、指に吸い付くような、最高品質の粘土だけが残った。
その時、いつの間にかそばに来ていたつちのこが、その粘土に、そっと小さな手を触れた。すると、粘土が、まるで生き物のように、より一層輝きを増し、滑らかになる。それは、この聖域の神様からの、最高の『祝福』だった。

この土木作業と粘土作りは、仲間たちの独壇場だった。
リディアは、騎士の膂力を活かし、排水路を驚異的なスピードで掘り進めていく。彼女にとって、シャベルはもはや剣と同じくらい、手足の一部となっていた。
そして、シラタマ。あれほど泥を嫌がっていた彼だが、俺たちが泥だらけになりながら、笑い合って作業するのを見て、ついに我慢の限界が来たらしい。「キュイッ!」という決意の雄叫びと共に、彼は泥の中に華麗にダイブ!自慢の白い毛皮は、あっという間に茶色に染まったが、そんなことはお構いなしだ。全身泥まみれになりながら、リディアが掘った土の山に、何度も楽しそうにタックルをかましていた。手伝いになっているかは、甚だ疑問だが。

その日の夕方。拠点には、ぬかるんだ沼地の代わりに、美しいレンガの小道が完成していた。もう、雨を恐れる必要はない。
そして、俺の手元には、精製され、神様の祝福を受けた、最高品質の粘土の塊が。
俺は、その粘土で、一つの小さな『湯呑み』を成形してみせた。それは、これまでの素焼きの器とは明らかに違う、気品と、無限の可能性を秘めた、薄く、美しい形をしていた。
俺は、そのまだ乾いていない湯呑みを、沈みゆく夕日にかざす。すると、その薄い壁を、赤い光が、まるでガラスのように透過した。
「見てください、リディアさん」
俺は、その光景に息をのむ彼女に、言った。
「この粘土と、俺たちのレンガ窯の火力があれば、ただの陶器じゃない。表面がガラスのように輝く、『釉薬』を使った、本物の『磁器』だって、夢じゃないかもしれません」
それは、俺たちの食卓に、さらなる革命が訪れることを予感させる、希望に満ちた、ガラス色の夢だった。
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