おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第九十四話『大地の錬金術と、初めての釉薬』

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拠点に美しいレンガの小道が完成してから数日が過ぎた、穏やかな春の午後。
俺は、あの日見つけた祝福の粘土で成形し、乾燥させておいたいくつかの器を、日の当たる窓辺に並べていた。その、白く滑らかな肌を、リディアが感心したように指でなぞる。
「ユキ殿、これはもう完成ではないのか?これだけでも、十分に美しいが…」
俺は、その中の一つ、小ぶりな湯呑みを手に取り、春の陽光にかざした。その薄い壁を、光が、まるで和紙のように柔らかく透過する。
「いえ。これは、まだ魂を吹き込まれる前の、眠れる器です。形はありますが、まだ声がない。叩いても、鈍い音しかしないでしょう?」
俺は、その器を指で軽く弾いてみせる。コン、コン、という、どこか寂しげな、土の音。
「リディアさん、今日はこの器に、火と石の力で、永遠の輝きと、澄んだ歌声を与える『釉薬(ゆうやく)』という魔法をかけましょう」

「釉薬とは、簡単に言えば、器の表面を覆う、薄いガラスの膜です。これがあることで、器は水を通さなくなり、汚れもつきにくく、そして、宝石のような輝きを手に入れるんですよ」
俺は、釉薬の基本原料が、『木の灰』と『岩石の粉』であることを、リディアに分かりやすく解説した。
「使う灰の種類、岩石の種類、そして火の温度。その組み合わせで、生まれる色は無限に変わる。まさに、大地の錬金術です」
その、あまりにも壮大で、ロマンのある話に、リディアは騎士の心を忘れ、一人の職人のように、目を輝かせていた。

最高の釉薬には、最高の『灰』が必要だ。俺は、森の木々の中から、釉薬作りに最も適した、樫(かし)の木を選び出し、レンガ窯で丁寧に燃やして、大量の灰を作った。
だが、このままでは使えない。不純物を取り除く、地道な作業が待っていた。

ポンッ!
【創造力:115/150 → 105/150】
俺が召喚したのは、Dランクの調理器具『ステンレス製の大きなザル』。コストは10。
俺は、そのザルで、何度も、何度も灰をふるいにかけ、炭のかけらや燃え残りを丁寧に取り除いていく。そして、俺たちの目の前には、雪よりも白く、シルクよりもなめらかな、最高品質の木灰の山ができた。
その、あまりにも完璧なフワフワの山を、一匹のもふもふが見逃すはずもなかった。雪遊びの興奮が冷めやらぬシラタマが、助走をつけて、その純白の山にダイブしようと猛然と突進してくる!
「こら、シラタマ!それは雪ではない!これから宝石になる、聖なる粉だぞ!」
リディアが、騎士にあるまじき俊敏さで、寸でのところでその首根っこ(?)を捕まえる。シラタマは、不満げに「キュン!」と鳴きながらも、自分の鼻先に少しだけついた灰を、ぺろりと舐めて、不思議そうな顔をしていた。

次に必要なのは、釉薬のガラス質となる、石英(せきえい)を多く含んだ岩石だ。
ポンッ!
【創造力:105/150 → 104/150】
Eランクの文房具、『虫眼鏡』を召喚。
俺は、川の上流で拾い集めた石を、虫眼鏡で一つ一つ、真剣な表情で鑑定していく。「この、キラキラと光る、ガラスの粒のようなものが、星屑の正体です」
なかなか理想の石が見つからず、一同が途方に暮れかけた、その時。俺の肩に乗っていたつちのこが、おもむろに俺の袖をくい、と引っ張った。そして、俺の手から降りると、てちてちと歩き出し、数ある岩の中から、なんの変哲もない、一つの中くらいの岩の前でぴたりと止まり、その表面を、小さな手で「ここ、ここ」と、ぽんぽんと叩いた。
「…この岩か?」
俺が半信半疑でその岩を金槌で割ってみると、その場にいた全員が、息をのんだ。
岩の内部は、石ではなかった。まるで、神様が夜空のかけらを、戯れに閉じ込めたかのような、無数の水晶の結晶が、空洞いっぱいに、キラキラと、眩いほどに輝いていたのだ。

拠点に戻り、リディアがその怪力で『星屑の岩』を粉々に砕き、俺が『聖なる灰』と、祝福の粘土を混ぜ合わせ、神秘的な乳白色の液体…『釉薬』が完成した。
俺は、素焼き前の器に、その釉薬を、祈るように、均一にかけていく。そして、それらを、これまでで最も高い温度に熱したレンガ窯の中へ。俺たちは、祈るように、その扉を閉じた。
一昼夜の後。窯がゆっくりと冷えるのを待ち、俺は、震える手で、その扉を開いた。
窯の中から現れた器を見て、一同は、言葉を失った。
それは、もはやただの土の器ではなかった。
表面は、滑らかなガラスの膜で覆われ、春の朝日を浴びて、濡れたように、キラキラと輝いている。そして、その色は、ただの白ではない。俺たちが集めた樫の木の灰と、つちのこが見つけてくれた星屑の岩が、炎の中で奇跡の化学反応を起こし、どこまでも深く、そして澄み切った、翡翠(ひすい)のような、淡い、淡い青緑色に染まっていたのだ。
コン、と指で弾くと、カーン、という、金属音にも似た、高く、澄んだ音が響く。
「…美しい…」
リディアが、震える声で呟いた。それは、俺たちが、自分たちの手で、ただの土と灰から、永遠の美しさを持つ『宝石』を生み出した、錬金術の成功の瞬間だった。

その日の午後、俺たちは、完成したばかりの、翡翠色の湯呑みで、温かいお茶を飲んだ。
唇に触れる、驚くほど滑らかな感触。湯呑みの中で揺れるお茶の色は、これまでよりもずっと鮮やかに見える。
リディアは、その湯呑みを、まるで宝物のように両手で包み込みながら、その翡翠の輝きの中に、まだ見ぬ未来の、彩り豊かな食卓の光景を、確かに見ていた。
俺たちの『ガラス色の夢』は、今、確かな形となって、その手の中にあったのだ。
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