おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第九十六話『旅人の嘆きと、春風の伝説』

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春本番。雪解け水が小川のせせらぎを力強い歌声へと変え、森の木々が一斉に芽吹く、生命力に満ちた季節。俺たちの聖域にも、懐かしい友人が、春風と共にやってきた。
チリン…チリン…。
その鈴の音に、畑仕事の手を止めた俺たちが顔を上げると、森の小道から、行商人バロンが満面の笑みで手を振っていた。
「ユキ殿!リディア殿!シラタマも、息災であったか!」
彼は、まるで故郷に帰ってきたかのように、心底嬉しそうな顔で、俺たちとの再会を喜んだ。そして、俺が振る舞った、焼きたてのパンと温かいスープを、涙を流さんばかりの勢いでかき込む。その食べっぷりだけで、彼が越えてきた冬の厳しさが伝わってくるようだった。

だが、食事が一段落し、暖炉の前でハーブティーを飲んでいる時、彼の顔には、深い、深い疲労の色が浮かんでいた。
「あんたたちの聖域で味わうものは、何もかもが天国の味だ。だが、一歩外へ出て、旅の道に戻れば、待っているのは、石のように硬く、味のしない堅パンと、塩辛いだけの干し肉…。正直、日が暮れて、食事の時間になるのが、苦痛でならんよ」
その、全ての旅人が抱える切実な悩みに、俺は、フードコーディネーターとしての魂を揺さぶられた。
「バロンさん。分かりました。俺が、あなたの旅の食事に、革命を起こします。お湯を注ぐだけで、熱々の、最高の麺料理が食べられる…**『魔法の即席麺』**を作りましょう」

俺が挑むのは、『インスタントラーメン』の創造。
まずは、麺作り。ラーメン独特のコシと風味を生み出す『かん水』を、100均の知恵で生み出す。

ポンッ!
【創造力:150/150 → 149/150】
Eランクの『重曹』だ。
俺は、鉄のフライパンで重曹をじっくりと加熱していく。ただの白い粉が、熱によって、麺に命を吹き込む魔法の粉へと生まれ変わる。化学の錬金術だ。

その魔法の粉(炭酸ナトリウム)を溶かした水で、挽きたての小麦粉をこね、力強く打っていく。そうして出来上がった麺を、『ステンレス製の蒸し器』で一度蒸し上げる。
ポンッ!
【創造力:149/150 → 135/150】
Cランクの調理器具、『ステンレス製の蒸し器』を召喚。コストは15だが、『キャンプシェフ』の効果で14になった。
さらに、自家製のナッツオイルで揚げることで、水分を完全に飛ばし、お湯を注ぐだけで元に戻る、あの独特の多孔質な麺を完成させた。

次に、粉末スープ作り。温室で採れた野菜や、燻製ベーコンを細かく刻み、『魚干し網』で数日間、天日で乾燥させる。つちのこの祝福を受け、太陽の恵みを凝縮させたそれらを、石臼で丁寧に挽き、岩塩や、アニカがくれた『黒胡椒』をブレンドする。この一握りの粉末には、俺たちの聖域の、全ての仲間との絆が詰まっている。

そして、最後の魔法。『真空パック』だ。
ポンッ!
【創造力:135/150 → 104/150】
Bランクの300円商品、『手動式の真空ポンプと、専用保存袋』。コストは31。
俺は、揚げたての麺と、秘伝の粉末スープを袋に入れ、ポンプで中の空気を抜いていく。すると、袋はぴたりと中身に密着し、まるで琥珀の中に閉じ込められた虫のように、その時間を永遠に封じ込めた。
「な…!中の時間が…止められた…!?」
バロンとリディアは、その、あまりにも常識を超えた光景を前に、もはや魔法以外の言葉を知らなかった。

試食の時間。
俺は、完成したばかりの即席麺を、翡翠の器に入れ、熱湯を注ぎ、木の蓋をして待つこと三分。
蓋を開けると、立ち上る湯気と共に、この世のものとは思えぬ、深く、複雑で、そしてどこまでも懐かしい香りが、あたりを満ちした。それは、故郷の食卓の香り。温かい『家庭』の香りそのものだった。
バロンは、震える手でレンゲを口に運び、まずスープを一口。
その瞬間、彼の目から、一筋、涙がこぼれ落ちた。
何も言わず、彼は、ただ麺をすする。ずる、ずるる、と。無心で、夢中で。それは、ただ空腹を満たすための行為ではなかった。長年の旅で、乾ききって、凍てついていた彼の魂が、一杯の温かいスープによって、優しく、優しく溶かされていく、救済の儀式だった。
「……う…うまい……美味すぎる…!なんだこれは…!?旅の途中で、こんな温かいものが食えるなんて…!これがあれば、あと10年は、いや、一生、行商人を続けられるぞ…!」
彼は、子供のように、声を上げて泣きじゃくりながら、それでも、麺をすする手を、止めようとはしなかった。その横で、おすそ分けをもらったシラタマも、フーフーと冷ましながら、人生初のラーメンに、その白い顔を突っ込んでいた。

数日後。バロンは、お礼にと、町で仕入れた貴重な『鉄製の農具』をいくつか俺に渡し、そして、宝物のように、数食分の『魔法の即席麺』を携えて、旅立っていった。
「この麺のことは、誰にも言わん!わしだけの、秘密の楽しみにする!」
そう固く誓って。
彼が去った後、リディアは、彼が消えていった森の小道を、どこか遠い目をして見つめていた。
「…ユキ殿。あの味は、一つの伝説となる」
彼女は、静かに、しかし確信を込めて言った。
「騎士である私は知っている。伝説とは、王侯貴族の偉業だけで作られるものではない。時に、一杯の温かいスープが、戦場の兵士たちの心を支え、歴史を動かすことさえある。バロン殿がどれだけ隠そうとも、あの『魔法の麺』の噂は、いずれ、春風に乗って、この森の外へと広がっていくやもしれんな…」
その言葉が、俺たちの穏やかな聖域に、新しい物語の風が吹き始めることを、静かに予感させていた。
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