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【第百三話】水道橋と、流れる恵み
しおりを挟む春本番を迎え、『シラタマ農園』の黒々とした畝には、俺たちが蒔いた種が、可愛らしい緑色の双葉を広げ始めていた。その、どこまでも愛おしい光景を、俺はデッキチェアに座って、温かいハーブティーを飲みながら眺めている。
だが、その穏やかな日常の裏で、一つの『戦い』が、毎日繰り広げられていた。
「ふんっ…!てやっ…!」
リディアが、巨大な木の桶に満たした水を、その怪力で軽々と担ぎ上げ、何度も、何度も川と農園を往復する。額には玉の汗を浮かべ、肩で息をしながらも、彼女は決して弱音を吐かない。その、あまりにも健気で、しかしあまりにも非効率な光景。
俺は、静かに立ち上がった。
「リディアさん、もうその戦いは終わりにしましょう。川を、俺たちの聖域まで『招待』するんです」
俺が地面に描いたのは、川の上流から、俺たちの拠点まで、水を自動で運び続けるための壮大な建造物…『水道橋』の設計図だった。
「川の上流は、俺たちの拠点より少しだけ高い位置にあります。ほんの僅かな傾斜をつけるだけで、水は、重力という魔法に従って、ひとりでに流れてきてくれるんですよ」
古代ローマの技術を応用した、壮大な計画。その、あまりにも合理的で、スケールの大きな発想に、リディアは言葉を失っていた。
「川を…動かすのか…!?」
俺は、この古代の奇跡を、100均グッズと、これまでの経験の全てを結集させて実現する。
まずは、水道橋の命である「水路」の材料だ。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:129/150 → 96/150】
Bランクの『連結式・雨どい』を数十メートル分と、Dランクの『防水補修テープ』、そして同じくDランクの『園芸用の防虫ネット』を召喚。コストは称号効果もあって合計33。
リディアが運んできた木材で組んだ橋の上に、俺たちは雨どいを設置し、そのつなぎ目を防水テープで完璧に塞いでいく。
数日間にわたる建設作業。そこには、仲間たちの愛らしい活躍があった。
長くて滑らかな雨どいが、シラタマにとって最高のウォータースライダー(水なし)にならないはずがない。彼は、完成前の水路の中を、きゃっきゃと歓声を上げながら何度も滑り降りては、リディアに呆れ半分、笑顔半分で叱られていた。
「こら、シラタマ!それは、聖なる水を運ぶための道だぞ!」
そして、水道橋の土台となる柱を立てる際、つちのこが、その地面にそっと触れる。すると、まるで神様の祝福のように、その部分の土だけが、コンクリートのように固く、そして完璧に水平になるのだ。
ついに、数十メートルにも及ぶ水道橋が完成した。
俺は、川の上流で、水路の入り口を塞いでいた土嚢を取り除く。
聖域では、リディアとシラタマが、固唾をのんで、拠点に設置された石造りの大きな貯水槽を見守っていた。
最初は、何も聞こえない。一分、二分…焦りが募り始めた、その時。
ちょろちょろ…
雨どいの出口から、頼りない、しかし確かな水音が聞こえ始めた。それはやがて、サラサラ…という心地よいせせらぎに変わり、キラキラと春の光を反射させながら、貯水槽へと注ぎ込み始める!
それは、俺たちが、この世界の自然の法則を支配し、文明の大きな一歩を記した、記念すべき瞬間だった。
その日の夕方。リディアは、もう川まで水を汲みに行く必要がない。貯水槽から、いとも簡単に、新鮮な水を汲み上げ、温室の野菜に水をやっている。
その、あまりにも当たり前で、しかし、あまりにも奇跡的な光景を、彼女は、深い感慨と共に眺めていた。
「…ユキ殿。あなたは、川の流れさえも、我らの日常へと変えてしまうのだな」
その日の夜から、俺たちの聖域には、新しいBGMが加わった。
暖炉のはぜる音、仲間たちの寝息、そして、絶え間なく流れ続ける、命の水のせせらぎ。
俺たちの城は、また一つ、かけがえのない宝物を手に入れたのだった。
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