おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百九話】見えざる敵と、空気を喰らう石

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春が深まり、初夏を思わせる暖かな雨が数日間続いた、ある日の朝。
雨上がりの森は、生命力に満ちた、濃い緑の匂いを放っている。拠点の中は、暖炉の火も落とされ、窓から吹き込む風が心地よい。完璧な日常。だが、俺は、その空気の中に、ほんの僅かな、しかし見過ごすことのできない『異変』を感じ取っていた。
工房の棚に置いてあった、数日前のパンの切れ端に、よく見なければ分からないほどの、小さな青い点が一つ。岩塩を入れていた翡翠の壺の縁が、湿気でわずかに白く変色し、ざらついている。
そして、母屋では、リディアが革製の剣帯の手入れをしながら、深く眉をひそめていた。
「むぅ…この湿気は、武具の大敵だな。手入れを怠ると、すぐに錆が浮いてしまう」
彼女のその呟きが、俺の胸の内の小さな不安を、確信へと変えた。
「リディアさん。俺たちの城に、見えない敵が侵入を始めています。敵の名は、『湿気』です」

俺は、暖かさと雨がもたらす高い湿度が、カビや腐敗の原因となり、俺たちがこれまで蓄えてきた、かけがえのない食料や道具を、内側から静かに蝕んでいく危険性を、リディアに分かりやすく解説した。
「この敵は、剣では倒せません。城壁を乗り越えるのではなく、霧のように、壁の隙間から染み込んでくる、静かなる侵略者です。ですが、この敵を『喰らって』くれる、頼もしい味方がいるんですよ」
俺は、この見えざる敵を討伐するため、科学の知恵が詰まった、最高の防衛兵器をDIYする。
このプロジェクトの心臓部となる、魔法の石を召喚した。

ポンッ!
【創造力:112/150 → 87/150】
Bランクの『タンクタイプの除湿剤』。コストは25。
「この白い石(塩化カルシウム)が、空気中の水分を捕まえて、水に変えてしまうんですよ」
だが、タンクタイプだけでは数が足りない。俺は、除湿剤の『量産』に取り掛かった。

ポンッ!
【創造力:87/150 → 77/150】
Dランクの『重ねられるカゴ』と『水切りネット』のセット。コストは10。
召喚した除湿剤の中身の白い石だけを取り出し、『水切りネット』を敷いたカゴの上段に入れる。下段の受け皿に、水が溜まる仕組みだ。
その、単純で、しかしあまりにも合理的な構造に、リディアは感心していた。
「これは…水を捕らえる、一種の『罠』なのだな!」
彼女は、俺の指示通り、寸分の狂いもなく、除湿ユニットを組み立てていく。
その横で、白くて丸い塩化カルシウムの粒が、シラタマにとって最高の遊び道具にならないはずがなかった。リディアが組み立てているそばから、その白い石を、肉球でちょい、と転がしてしまう。
「こら、シラタマ!それは、聖域を守るための魔法の石だぞ!」
本気で叱られながらも、シラタマは不思議そうに首を傾げている。
そして、俺が、特に湿気がこもりやすい食糧庫の隅に、完成した除湿ユニットを置くと、つちのこが、どこからか、乾燥した、爽やかな香りを放つ、不思議な苔を運んできてくれた。それは、カビの発生を抑える、天然の『防カビ剤』。神様からの、最高の援軍だった。

数日後。俺とリディアは、拠点内の各所に設置した、除湿ユニットの点検に回った。
上のカゴに入れた白い石は、水分を吸って宝石のようにキラキラと輝き、少しずつ溶け始めている。そして、下のカゴには、確かに、水が溜まっていた。
「ユキ殿…!これは…!この水は、全て、空気の中から…!?」
目には見えなかったはずの『湿気』という敵が、水という、目に見える形で捕らえられている。その、あまりにも不可思議で、しかし確かな結果に、リディアは息をのんだ。工房の空気は、からりとして、心地よく、岩塩も、サラサラの状態を保っていた。

この、見えざる敵との戦いに勝利したことを祝して、俺は、最高の『ご褒美』を用意した。それは、湿気が大敵である、究極の焼き菓子…**『メレンゲクッキー』**だった。

ポンッ!
【創造力:77/150 → 73/150】
Dランクの『ハンドミキサー(手動タイプ)』を召喚。コストは4。
卵白を、ひたすら泡立て、蜂蜜を加えて、角が立つほどの、雲のように白いメレンゲを作る。それを、登り窯の余熱で、じっくりと、水分を飛ばすように焼き上げる。
完成したクッキーは、まるで雪の結晶のように、白く、儚い。
サクッ、という軽やかな音。そして、口に入れた瞬間、シュワ…と、淡雪のように溶けてなくなる、優しい甘さ。リディアは、その、あまりにも儚く、そして美味しい、初めての食感に、目を丸くした。
「ユキ殿…あなたは、見えざる敵を打ち破るだけでなく、その勝利さえも、これほど甘い菓子に変えてしまうのか…」
俺たちが手に入れたのは、ただの快適な環境ではない。どんな状況でさえも、最高の豊かさに変えてしまう、揺るぎない知恵と、仲間との絆。
俺たちの聖域は、また一つ、目に見えない脅威からも守られる、完璧な城へと進化したのだった。
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