おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百十一話】梅雨の部屋干しと、賢者の物干し竿

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春の長雨が、森を深く、濃い緑色に染め上げていた。
しとしと、と。屋根を打つ雨音は、もう何日も止むことがない。新設された玄関のおかげで、泥の問題は解決した。しかし、その勝利の代わりに、俺たちの城には、最後の、そして最も厄介な敵が、静かに、しかし確実に侵攻を始めていた。
その日の午後、洗濯を終えたリディアが、乾かない洗濯物の山を前に、深く、深く溜息をついた。
「ユキ殿…この湿気では、洗濯物がいつまで経っても乾かん…」
彼女は、暖炉のそばに干していた自分のチュニックを手に取り、その鼻先で匂いを確かめると、騎士にあるままじき、心底うんざりとした顔で眉をひそめた。「それに、なんだか…この、生乾きの匂いは…!ゴブリンの巣穴の臭気にも匹敵する、士気を下げる香りだ…!」
それは、俺の前世でも多くの人々を悩ませた、見えざる最後の敵…**『部屋干し臭』**だった。暖炉のそばに干しても、乾きが悪く、拠点全体に、じっとりとした湿気と、憂鬱な匂いが漂い始めている。

「リディアさん、敵は『湿気』だけではありません。一番の敵は、『動かない空気』です」
俺は、洗濯物を効率よく乾かすには、温度だけでなく、**『空気の通り道』**を作ることが何よりも重要だと、リディアに分かりやすく解説した。暖炉の熱で温められた空気が、自然と上昇していく、母屋の高い天井。俺は、その、これまで見上げるだけだった空間を指さした。
「この家の、一番暖かく、一番空気が動く場所。そこに、俺たちのための、天空の物干し場を作りましょう」

俺は、この問題を、物理学の知恵と100均グッズで、エレガントに解決する。
このDIYの心臓部となるのは、小さな歯車。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 143/150】
天井の梁に取り付けるための、Dランクの『小さな滑車』を数個セットと、ロープの端を固定するためのEランクの『アイストラップ(金具)』。コストは称号効果もあって合わせて7。
俺たちは、木の棒で作った物干し竿の両端を、ロープと『S字フック』で吊るし、そのロープを滑車に通す。そして、ロープの端を、壁に打ち付けたアイストラップに結びつけられるようにした。
魔法の瞬間は、すぐに訪れた。俺がロープを引くと、洗濯物が掛かった物干し竿が、すーっと、まるで魔法のように天井近くまで上がっていく。その、あまりにも画期的な**『昇降式物干し』**の光景に、リディアは子供のようにはしゃいだ。
「ユキ殿…!物干し竿が、飛んだ…!?まるで、天に召されるかのようだ!」

俺は、さらに、プロの『干し方』の極意も伝授する。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:143/150 → 132/150】
Dランクの『アーチ型ハンガー』と『ピンチハンガー』を召喚。コストは称号効果もあって合わせて11。
「厚手の服は、こうしてアーチ状のハンガーにかけると、内側に空間ができて、風が通りやすくなるんですよ」
その、用途ごとに最適化された専門的な道具の数々に、リディアは感心しきりだった。

もちろん、彼が、ぶら下がるロープや、揺れる洗濯物を、最高の遊び道具と見なさないはずがない。シラタマがロープにじゃれつき、物干し竿を勝手に上げ下げしてしまう。
「こら、シラタマ!それは、聖なる洗濯物を天に捧げるための儀式なのだぞ!勝手に天との交信を試みるでない!」
リディアの本気の叱責も、彼にとっては楽しい遊びの一部らしかった。
そして、俺が、洗濯物の下に、以前作った炭の脱臭剤を置くと、つちのこが、どこからか、爽やかな香りを放つ、乾燥した銀色の葉を持つハーブの束を運んできてくれた。神様からの、天然の『柔軟剤』だ。

翌朝。外は変わらず、しとしとと雨が降り続いている。
しかし、家の中は、もう憂鬱な匂いはしない。天井から降ろされた洗濯物は、驚くほどカラリと乾き、それどころか、ハーブと、お日様のような、温かい香りを放っている。
リディアは、乾いたばかりの自分のチュニックを、そっと顔にうずめた。
「…温かいな。外は雨なのに、まるで、春の一番良い日の陽だまりの香りがする…」

一同は、暖炉の前で、温かいお茶を飲んでいた。天井では、次の洗濯物が、静かに出番を待っている。
リディアは、窓の外で降り続く雨を、もう憂鬱な気持ちでは見ていなかった。
「ユキ殿。私は、雨の日は、ただ耐え忍ぶだけの、灰色の時間だと思っていた。だが、今は違う。この雨音さえも、我らの温かい家を彩る、心地よい音楽に聞こえる」
彼女は、俺の目を見て、最高の笑顔で言った。
「あなたは、この長雨の憂鬱さえも、幸福な日常の景色に変えてしまったのだな」
その言葉に、俺は、最高の笑顔で頷いた。
どんな状況でさえも、知恵と工夫で、最高の豊かさに変えてしまう。それこそが、俺たちがこの聖域で手に入れた、何物にも代えがたい魔法だった。
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