おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百十三話】自動粉挽き所と、自転車の魂

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水車という新たな心臓が、俺たちの聖域に穏やかな鼓動を刻み始めてから数週間が過ぎた。カラカラ、コロコロ…という、絶え間なく流れ続ける水の力で回るその音は、もはや俺たちの日常に溶け込んだ、心地よいBGMとなっていた。
しかし、その豊かさの裏で、一つの重労働が、変わらず俺たちの肩にのしかかっていた。小麦の製粉だ。

「ふんっ…ぬぅん…!」

その日も、工房からはリディアの気合の入った声と、石と石が擦れ合う、重々しい音が響いていた。手回しの石臼は、確かに最高の小麦粉を生み出してくれる。だが、その作業は、騎士である彼女の怪力をもってしても、半日がかりの重労働だった。額に玉の汗を浮かべ、肩で息をする彼女の姿を見て、俺は静かに立ち上がった。

(そうだ、もう戦うのは終わりだ。この恵みを、もっと楽しまなくちゃ)
俺は、休むことなく力強く回り続ける水車を見つめる。あの尽きることのないエネルギーと、この重労働。俺の頭の中で、二つの点が、一本の線で結ばれた。

「リディアさん、もうその戦いは終わりにしましょう。この聖域に、最初の『工場』を建設します」

俺が提案したのは、水車の力を利用した**『自動粉挽き所』**の建設だった。しかし、そこには、これまでで最も技術的に高度な壁が立ちはだかる。
「問題は、『動力伝達』です。水車の、ゆっくりで力強い回転を、石臼を速く回すための、軽快な回転に変える必要があるんです」
俺は、地面に大小の歯車の設計図を描き、物理法則を熱弁する。その、あまりにも専門的な課題に、リディアは「私の力も及ばぬ領域か…」と、少しだけ悔しそうな顔をした。だが、俺はにやりと笑った。
「ええ。だからこそ、俺たちの『知恵』の出番なんですよ」

俺は、この難題を、誰もが予想だにしなかった100均グッズの組み合わせで解決する。
まず、動力伝達の要となる鎖と歯車。

**ポンッ!ポンッ!**

**【創造力:150/150 → 121/150】**

Dランクの『自転車のチェーンロック』を数個と、同じくDランクの『自転車のペダル』を召喚。コストは称号『クラフトマスター』の効果もあって合わせて29。
「鎖と歯車…?まるで、城の拷問具のようだ…」
その無骨な機構に戸惑うリディアを横目に、俺はチェーンロックを分解して頑丈なチェーンを繋ぎ合わせ、ペダルからは内部のベアリング機構とギザギザの金属部分…完璧な小径の歯車を取り出してみせた。
異なる大きさの歯車をチェーンで繋ぐことで、回転数を増幅させる、原始的でありながら完璧な『変速機構』。その、物理法則の美しさを目の当たりにした時、リディアの瞳が輝いた。
「ユキ殿…!これは、一人の騎士の力を、一個師団の力へと増幅させる、究極の『軍略』ではないか!」

最後の仕上げに、俺は専用の潤滑油を召喚した。

**ポンッ!**

**【創造力:121/150 → 120/150】**

Eランクの『グリス(潤滑油)』。コストは1。
「この一手間が、ただの『からくり』を、長期間安定して稼働する『生産設備』へと昇華させるんですよ」

チェーンに塗られたグリスの匂いが気になるシラタマが、完成した機構にじゃれつこうとして、リディアに本気で叱られる。
「こら!それは聖域の未来を紡ぐ、聖なる鎖だぞ!」
一方、機構の土台を設置する際、つちのこが地面に触れると、その部分だけが振動を吸収する不思議な性質の土に変わる。神様ならではの『免震工事』だった。

ついに、自動粉挽き所が完成した。
俺が水車と繋がる木のレバーを引くと、ゆっくりとした水車の力が、大小の歯車とチェーンを介して、石臼へと伝わっていく。ゴウン、ゴウン…という重々しい音から、やて、ウィーン…という滑らかで、高速な回転へ。
これまで半日仕事だった製粉が、わずか数十分で終わってしまった。

有り余るほどの小麦粉の誕生を祝い、俺は聖域初の**『パン祭り』**を開催した。
石窯で、これまで作ったことのない様々な種類のパンを焼き上げる。香ばしいクルミと甘いレーズンがぎっしり詰まったパン。自家製チーズをたっぷり乗せ、岩塩とハーブで焼き上げたフォカッチャ。そして、先日作った錬乳を練り込んだ、雲のようにふわふわで、夢のように甘い菓子パン…。
一同は、焼きたてのパンを、夢中で頬張った。大量生産が可能になったからこそできる、最高の贅沢。その光景は、俺たちの聖域が、ただの自給自足の生活から、文化的な『豊かさ』を手に入れた、確かな証だった。

パン祭りの夜、有り余るパンの保存方法に悩むリディア。その時、俺がぽつりと呟いた。
「最高のパンには、最高の相棒が必要ですね。例えば…パンを、もっとずっと美味しくしてくれる、黄金色の『バター』とか」

その言葉が、乳製品への新たな挑戦を予感させ、物語は幕を閉じるのだった。
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