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【第百十四話】黄金色の奇跡と、事務用品の錬金術
しおりを挟む自動粉挽き所の完成により、有り余るほどの小麦粉を手に入れた俺たちの聖域。パン祭りの熱狂が冷めやらぬ、ある穏やかな朝、俺は、山と積まれた焼きたてのパンを前に、静かに宣言した。
「最高のパンには、最高の相棒が必要です。今日は、あの夜に約束した、黄金色の奇跡…**『バター』**作りに挑戦しましょう」
俺は、ヤギのミルクから一晩かけて分離させた、とろりとした濃厚な生クリームを、大きなガラス瓶に入れて一同の前に置く。
「これを、ひたすら振り続けるんです。地道ですが、この腕の疲れの先に、最高の宝物が待っていますよ」
バター作りのリレーが始まった。最初は俺がリズミカルに。腕が疲れてくると、リディアが「うむ、訓練の一環と思えば!」と騎士のスタミナで高速シェイク。飽きてきた頃には、シラタマがボール遊びのように前足でゴロゴロと転がして手伝って(?)くれる。
チャプチャプ、という軽い音が、やがてポチャポチャという重い音に変わり、ついに「ゴトッ、ゴトッ」という確かな手応えに変わる。奇跡の誕生の瞬間だ。瓶の中には、美しい黄金色のバターの塊と、栄養満点のバターミルクが生まれていた。
「さて、リディアさん。最高のバターができたなら、最高のパンを作りましょう」
俺は、究極のパン…**『クロワッサン』**作りを宣言する。バターと生地を何層にも折り重ねる、プロでも至難の業。その最大の難関は、バターを均一な厚さのシート状にすることだった。
**ポンッ!**
**【創造力:150/150 → 136/150】**
俺が召喚したのは、Cランクの文房具、ごく普通の**『クリアファイル』**だった。コストは14。
「ユキ殿…!その、紙を挟むためだけの薄っぺらい板が…この至高のパンを生み出すための、最高の錬金術の触媒になるというのか…!?」
リディアが衝撃を受ける中、俺はファイルの内側にバターを塗り広げ、めん棒で伸ばす。プラスチックのファイルが完璧な「型」となり、ミリ単位の精度で、均一な厚さの『バターシート』が完成した。
最後の仕上げに、もう一つの小さな相棒を召喚する。
**ポンッ!**
**【創造力:136/150 → 135/150】**
Eランクの『竹串』。コストは1。
「これが、最高の焼き加減を教えてくれるんですよ」
石窯から取り出された、焼きたてのクロワッサン。表面は黄金色に輝き、そのあまりに美しい層は、まるで木の年輪のようだ。ナイフを入れると「サク…!ハラハラハラ…」と、空気のように軽い層が崩れる、天国のような音がする。
一口食べれば、表面のクリスピーな食感と、中のしっとり、もちもちとした生地、そして、じゅわ…と溢れ出す、芳醇なバターの香り。その、あまりにも官能的な味わいに、一同は言葉を失った。シラタマは、口の周りをバターだらけにしながら、恍惚の表情で天を仰いでいる。
俺が「これには、甘酸っぱいジャムが欲しいですね」と呟くと、いつの間にか現れたつちのこが、温室から、ひときわ甘く香りの良い、春摘みのイチゴを、誇らしげに運んできてくれた。最高のパンに、神様が最高の贈り物を添えてくれる。
最高のクロワッサンを味わい、満ち足りた一同。その時、リディアがぽつりと呟いた。
「…これほどのものが作れるなら、町のパン屋のアニカ殿にも、教えてやりたいものだな。彼女ならば、きっとこの味で、もっと多くの民を笑顔にできるだろう」
その一言が、穏やかな聖域と外の世界を繋ぐ、新しい物語の始まりを予感させて、幕を閉じるのだった。
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