おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百二十七話】騎士の答えと、インクの香り

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「なぜ、貴殿ほどの腕を持ちながら、剣を置き、この男の隣で鍬を振るうことを選んだのだ?」
王都の騎士、セラフィナが放った問い。それは、尋問ではなく、一人の騎士から、もう一人の騎士への、魂の核心を問う、あまりにも純粋で、そしてあまりにも重い問いだった。
暖炉の炎が、リディアの青い瞳の中で、静かに揺らめく。彼女は、すぐには答えなかった。ただ、自分の、少しだけ節くれだって、硬くなった手のひらを、じっと見つめている。剣を握るためにあったはずの手。それが、今では、鍬を握り、糸を紡ぎ、パンをこねる、何かを『生み出す』ための手に変わっていた。
長い沈黙の末、彼女は静かに立ち上がった。
「言葉だけでは、伝えきれん。…ついてきてほしい」

リディアは、俺たちと、そして戸惑う王都の使者たちを、穏やかな夜の空気の中へと誘った。
その、長い夜の対話のために、俺は特別な飲み物を用意した。聖域で採れた豆を焙煎し、石臼で挽いた、香り高い**『珈琲』**だ。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:45/150 → 43/150】
俺が召喚したのは、Eランクの『コーヒードリッパー』と『ペーパーフィルター』。コストは合わせて2。
挽きたての粉に、湯を注ぐと、工房中に、深く、香ばしく、そして心を落ち着かせる、大人の香りが満ちていく。その、あまりにも文明的で、豊かな儀式に、セラフィナとトーマスは、ただ息をのむ。

温かい珈琲のマグカップを手に、リディアは、まず、月明かりに照らされた『シラタマ農園』の前に立った。
「騎士の剣が奪うのは、命だ。その重みは、私も知っている。だがな」
彼女は、黒々とした、生命力に満ちた畝を、愛おしそうに見つめる。
「この鍬が、土から掘り起こすのは、命の糧だ。一つの種が、百の恵みとなって返ってくる。奪うことしか知らなかったこの手が、初めて知った、『育む』という喜び。…セラフィナ殿、貴殿に、この重みが分かるか?」

次に、彼女は、機織り機が置かれた工房へと、一行を導いた。壁には、俺たちが染め上げた、緋色のショールが掛けられている。
「騎士の鎧は、身を守るためのもの。だが、それは冷たく、重い。しかし、この一枚の布は、どうだ?同じ『守る』でも、それは、仲間の心を、温もりで包むためのものだ」
彼女の言葉を、書記官トーマスが、必死に羊皮紙に書き留めようとする。だが、その、あまりにも詩的で、哲学的な答えを、無骨な羽根ペンでは、到底書き写すことはできない。
その時、俺は、静かにもう一つの魔法を使った。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:43/150 → 39/150】
Eランクの『スケッチブック』と、Dランクの『色鉛筆セット』。コストは合わせて4。
「トーマスさん。言葉で書けない物語は、絵で描けばいいんですよ」
俺の言葉に、トーマスは、はっと顔を上げた。彼は、震える手で色鉛筆を握りしめ、リディアが語る光景を、スケッチブックの上に描き始めた。月明かりに照らされる畑、ショールの柔らかな質感…。彼の乾いた報告書が、温かい命を吹き込まれた、美しい絵物語へと変わっていく瞬間だった。

一行は、再び、暖炉の前に戻ってきた。
リディアは、暖炉のそばで安らかに眠るシラタマの頭を、優しく撫でた。そして、棚の上に飾られた、俺たちの『最初の写真』と『木彫りの家族』に、そっと視線を移す。
彼女は、ついに、セラフィナをまっすぐに見つめ返し、最後の、そして本当の答えを告げた。
「私は、何かを『守る』ために騎士になった。だが、この聖域に来て、初めて、本当に守るべきものが何なのかを、知ったのだ」
彼女の声は、どこまでも穏やかで、しかし、何よりも力強かった。
「それは、国でも、名誉でもない。…ただ、この温かい暖炉の火と、仲間たちの寝息だ。私は、この、あまりにも儚く、そして、かけがえないものを守るためならば、この剣を、鍬に持ち替えることを、いささかも躊躇しない。これこそが、私の答えであり、我が魂の、新しい誓いだ」

その、あまりにも完璧な答え。
セラフィナは、何も言えず、ただ、トーマスが描いた、温かい絵物語のスケッチブックと、リディアの、迷いのない、どこまでも澄み切った瞳を、交互に見つめるだけだった。
彼女が受けた命令は、この聖域が『脅威』か否かを判断すること。だが、彼女が見つけたのは、脅威ではない。自分たちが、王都で、とうの昔に失ってしまった、人が本当に生きるべき『豊かさ』そのものだった。
長い、長い沈黙の末、彼女は、ついに口を開いた。
その言葉は、俺たちの運命を、再び、大きく動かすものだった。
「…賢人殿。その暮らしを…王都に持ち帰ることは、可能だろうか?」
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