おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

文字の大きさ
136 / 185

【第百三十五話】森の小さな郵便局と、風の便り

しおりを挟む

聖域に音楽が生まれてからというもの、俺たちの日常は、また一つ、豊かな彩りを増していた。
昼間は、畑仕事の合間にリディアがボンゴを叩き、それに合わせてシラタマが「あうー」とコーラスを重ねる。その陽気なリズムに誘われてか、農園の野菜たちの育ちが、心なしか良いような気さえした。
だが、その楽しげな音楽は、すぐに新たなる、そして幸福な『悩み』を生み出した。

その日の夕食後、リディアは、俺が作ったパンフルートを手に、少しだけ寂しそうな顔で呟いた。
「…ユキ殿。この音楽の喜びを、ロゼッタのアニカ殿や、親方たちにも分けてやれたなら、彼らはどれほど喜ぶだろうか」
彼女の言葉に、俺は深く頷いた。俺たちの幸福は、もうこの森の中だけで完結するものではなくなっていたのだ。
「それに、マーサ殿たちが、王都で元気にやっているかも気になりますね」
「うむ。手紙の一つでも、送れたなら…」

その、あまりにも当たり前で、しかし、この世界ではあまりにも困難な願い。それが、俺たちの次なる創造の扉を開いた。
「リディアさん。手紙が送れないなら、送れるようにすればいいんです。俺たちの聖域に、『郵便局』を作りましょう」

俺が提案したのは、物理的な手紙の配達ではない。聖域の仲間たちの力を借りた、全く新しい情報伝達システム…**『アニマル・エクスプレス』**の創設だった。
「この森の鳥や、小さな獣たちは、俺たちの仲間です。彼らに、俺たちの『声』を運んでもらうんですよ」

俺は、この画期的な通信網を実現するため、100均の知恵を総動員する。
まず、手紙そのものとなる『通信筒』作りだ。

**ポンッ!**
【創造力:150/150 → 145/150】
※創造力は睡眠により全回復

俺が召喚したのは、Eランクの実験用品、『プラスチック製のミニ試験管(キャップ付き)』。コストは5。
「ユキ殿、その小さなガラスの筒が、手紙に…?」
「ええ。軽くて、防水性も完璧。これなら、小さな鳥の足にも、無理なく括り付けられます」
その、あまりにも合理的で、ミニチュアのような通信手段に、リディアは目を輝かせた。

次に、この小さな運び屋たちに、正確な届け先を教えるための『標』作り。

**ポンッ!ポンッ!**
【創造力:145/150 → 130/150】

Dランクの園芸用品『木製ミニ黒板』と、同じくDランクの『カラフルな油性マーカー』セット。コストは合わせて15。
俺は、ミニ黒板に、届け先である『陽だまりのパン屋』の、不器用ながらも特徴を捉えた絵を描いていく。
「言葉の通じない彼らには、言葉よりも、『絵』と『匂い』で伝えるんです」
俺は、アニカの店で貰ったパンの包装紙の切れ端を、黒板の隅に貼り付けた。
「このパンの匂いを頼りに、この絵の場所まで、この手紙を届けてほしい。そう、彼らに『お願い』するんですよ」

その、動物たちを、ただの道具ではなく、対等な『仲間』として扱う、どこまでも優しい発想。リディアは、その温かさに、深く、深く感動していた。

この、聖域初の通信実験。仲間たちも、それぞれの形で協力してくれた。
俺が、森の小鳥たちのために、栄養満点の餌台を作っていると、シラタマが、どこからか、鳥たちが大好きな、キラキラと輝く木の実を、山のように運んできてくれた。最高の『接待』担当官だ。
そして、俺が書いた手紙を、ミニ試験管に丸めて入れようとした、その時。いつの間にか現れたつちのこが、その手紙の上に、一輪の、決して枯れることのない、小さな勿忘草(わすれなぐさ)の花を、ぽん、と咲かせせてくれたのだ。神様からの、最高の『消印』だった。

全ての準備が整った。
俺は、餌台に集まってきた、一羽の賢そうなコマドリの足に、祝福の消印が押された通信筒を、そっと結びつける。そして、パン屋の絵が描かれた黒板を見せ、その匂いを嗅がせた。
「頼みますよ、小さな郵便屋さん」
俺が、その背中を優しく撫でると、コマドリは一声「チチッ」と鳴き、春の青空へと、力強く羽ばたいていった。
一同は、その小さな黒い点が、空の彼方へと消えていくのを、祈るように、いつまでも見送っていた。

数日後。
ロゼッタの町、『陽だまりのパン屋』。
パンを焼く手を休め、アニカが空を見上げていた。最近、聖域の音楽が、ふと、風に乗って聞こえてくるような気がするのだ。
(…気のせい、だよね。ユキ師匠たち、元気にしているかな…)
彼女が、寂しさを紛らわすように、店の軒先に吊るした餌台に、パン屑を置いた、その時。
一羽のコマドリが、すっと舞い降りてきた。その足には、見慣れない、小さな筒が結ばれている。
彼女が、おそるおそるその筒を開け、中から出てきた羊皮紙を広げた瞬間。
ふわり、と。
そこから、聖域の森の匂いと、決して枯れることのない、小さな勿忘草の花びらが、春の風に舞った。
そして、羊皮紙には、懐かしい師匠の文字で、こう書かれていた。

『――元気ですか?今度、新しい音楽を、聴かせに行きます』

アニカの瞳から、一筋、温かい涙がこぼれ落ちた。
それは、どんな長文の手紙よりも、雄弁に、師匠の優しさと、聖域の温もりを伝える、風の便りだった。
俺たちの聖域と、外の世界を繋ぐ、小さくて、温かい心の郵便局が、今、静かに開局した瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

処理中です...