おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百四十一話】守護騎士の怒りと、おにぎりの温もり

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「――我が聖域にて、蛮行は許さん。貴様ら、何者だ」

リディアの声は、初夏の穏やかな森の空気を、一瞬にして凍てつかせた。その声には、もはや普段の穏やかさはない。仲間を、そしてこの聖域を脅かす者への、絶対零度の怒りだけが静かに燃えていた。
男たちは、リディアのただならぬ気配に一瞬たじろいだが、数で勝る状況と、自分たちの背後にある『力』を信じてか、下卑た笑みを浮かべた。
「へっ、威勢のいい女騎士様だ。俺たちは、ただのしがない薬草採りさ。この辺りにしか生えないっていう、珍しい『土人形』を、王都の貴族様にお届けするだけだ」

男の言葉に、俺は背筋が凍るのを感じた。王都。貴族。そして、つちのこという、本来この聖域の外には知られていないはずの存在。点と点が繋がり、最悪の線を描き出す。
(俺たちの噂が…!歪んだ形で、悪意を持つ者の耳に届いてしまったのか…!)

「問答無用!」
リディアが、地を蹴った。その動きは、もはや人間のそれではない。一陣の疾風。男たちが反応するより早く、彼女の剣の柄が、一人の男の鳩尾に、骨の軋む音を立ててめり込んだ。
「ぐはっ…!?」
「リディアさん、待って!殺さないで!」
俺の叫び声が、かろうじて彼女の理性に届く。彼女は、剣の刃ではなく、峰と柄だけを使い、残りの男たちを、まるで子供の手をひねるように、次々と無力化していく。それは、もはや戦闘ではなく、一方的な『制圧』だった。

その間、俺は必死で、男たちが落とした麻袋の口を開けた。中から、怯えて涙を浮かべた数匹のつちのこたちが、転がり出てくる。俺は、その小さな体についた縄を解きながら、優しく声をかけた。
「大丈夫、もう怖くないですよ」

だが、その時だった。
制圧したはずの男たちの一人が、懐から小さな筒を取り出し、空に向けて放ったのだ。ヒュルルル…という甲高い音と共に、赤い煙が空に昇る。
「ちっ…!応援を呼びやがったか!」
リディアが吐き捨てるように言う。赤い煙は、この森のどこかにいるであろう、彼らの『本体』への合図。状況は、一刻を争っていた。

俺は、縛り上げた男たちを睨みつけた。
「あなたたちの目的は、つちのこだけじゃない。この聖域の『何か』を探しに来た。そうですね?」
観念した男が、ぽつりぽつりと語り始めた。彼らは、王都のある有力貴族に雇われた、裏の仕事専門の傭兵団。賢人の噂を聞きつけ、その力の源泉…『富を生み出す何か』を探るため、斥候として送り込まれたのだという。そして、偶然にも、この森で異常な速度で植物を育てる、つちのこの存在を発見し、捕獲しようとしていたのだ。

俺は、決断を迫られていた。応援が来れば、多勢に無勢。この聖域が、本当の戦場になってしまう。
俺は、食べかけだった風呂敷包みを、リディアに手渡した。
「リディアさん、これを。腹が減っては、戦はできません」
彼女は、俺の意図を察し、無言で頷くと、俺が握ったおにぎりを一口で頬張った。その瞳には、再び守護騎士としての、強い光が宿っている。
「シラタマも、食べなさい」
俺は、一番大きな塩むすびを、震えるシラタマの口元へ持っていく。彼は、目の前の危機に怯えながらも、俺を信じて、そのおにぎりを夢中で食べた。米の甘みと、塩の力が、彼の恐怖を、仲間を守るための『勇気』へと変えていく。

ポンッ!
【創造力:140/150 → 125/150】
俺は、最後の準備として、Cランクの工具、『ワイヤーカッター』を召喚。コストは15。第三話でシラタマを救った時と同じ、信頼できる相棒だ。
腹ごしらえを終え、俺たちは顔を見合わせた。言葉はいらない。
「リディアさん。彼らの応援部隊が、この聖域に足を踏み入れる前に、俺たちの手で、この戦を終わらせましょう」
「うむ。…だがユキ殿、貴殿はどうするのだ?ここは私が食い止める。貴殿は、シラタマとつちのこたちを連れて、安全な場所へ…」
その、あまりにも騎士らしい自己犠牲の提案に、俺は、初めて、彼女の言葉を遮った。

俺は、ワイヤーカッターを手に、不敵に笑う。
「いえ、リディアさん。俺にも、俺の戦い方がありますよ」
「戦場で、一番強い武器は、剣でも魔法でもない。相手の知らない『ルール』で戦うことです。彼らを、俺たちの土俵に引きずり込んでやるんです」
リディアは、その、あまりにも穏やかで、しかし、底知れない自信に満ちた俺の瞳を見て、一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに、最高の笑顔で頷いた。
「…承知した。我が背中は、貴殿に預けよう」

俺たちは、捕らえた傭兵たちを木の幹に縛り付けたまま、応援部隊が来るであろう森の入り口へと向かった。
聖域の穏やかな日常は、終わりを告げた。
だが、それは絶望の始まりではない。
俺たちが、自分たちの手で築き上げてきた、この温かい場所を、自分たちの力で守り抜くための、初めての『戦い』の始まりだった。
初夏の風が、これから始まる戦いの匂いを、運んでくるような気がした。
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