おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百四十三話】百均の戦術と、聖域の鉄槌

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俺たちが向かったのは、聖域へと続く森の小道。だが、そこはもはやただの小道ではなかった。俺の頭の中では、そこは敵を迎え撃つための、完璧な『キルゾーン』へと姿を変えていた。
「リディアさん。敵は、森の中での奇襲を警戒しているはずです。だからこそ、俺たちは彼らの予想を、さらに裏切る」
「…というと?」
「彼らは、鋭利な刃や、致死性の罠を警戒するでしょう。ですが、俺たちが仕掛けるのは、彼らが生まれて一度も経験したことのない、『戦意を砕く』ための罠です」
その、あまりにも平和で、しかし不気味な響きを持つ言葉に、リディアはゴクリと喉を鳴らした。

俺たちの、静かなる迎撃準備が始まった。俺は、この心理戦の戦場を構築するため、残された創造力を解放する。

**ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!**
【創造力:135/150 → 75/150】

俺が召喚したのは、見えざる結界となる『釣り糸』と祝いの席の『クラッカー』、足元の悪夢『猫よけシート』、そして時限式の化学兵器『自動水やりタイマー』と『ハッカスプレー』。合計で60もの創造力を消費し、俺の全身を重い疲労感が襲うが、その代償は大きかった。

「ユキ殿…その、祝いの席で使う玩具が、武器になるというのか…?」
「ええ。屈強な傭兵が、森の静寂の中で、いきなり『パン!』という間の抜けた音と共に、キラキラした紙吹雪を浴びせられたら、どう思いますか?恐怖よりも先に、『混乱』が彼らの心を支配するんですよ」
俺とリディアは、傭兵たちが屈まないと通れないような低い位置に、見えにくい釣り糸を張り巡らせ、その先にクラッカーを仕掛けていく。
「これは…時限爆弾のようなものです」
俺は、ハッカスプレーをタイマーに固定し、木の枝の間に巧妙に隠す。その、あまりにも悪魔的な発想に、リディアは「貴殿を敵に回さなくて、心底良かったと思う…」と、顔を青ざめさせた。

全ての準備が整った頃、森の奥から、複数の人間が近づいてくる気配がした。俺とリディア、そしてシラタマは、茂みの影に息を潜め、その時を待った。
やがて、武装した傭兵たちが、キルゾーンへと足を踏み入れる。
最初の一人が、見えない釣り糸に足を引っかけた、その瞬間。

**パン!パパン!パパパパァン!!**

森の静寂を切り裂き、一斉にクラッカーが炸裂した。色とりどりの紙吹雪が、屈強な傭兵たちの屈強な鎧の上に、あまりにも場違いに舞い落ちる。
「な、何だ!?」
「奇襲か!?」
混乱する彼らの足元で、第二の罠が発動した。枯れ葉の下にびっしりと敷き詰められた『猫よけシート』だ。
「ぐあっ!」「足の裏が!?」
硬いプラスチックの棘が、ブーツ越しにも確かな痛みを与え、彼らの動きを鈍らせる。
そして、仕上げは、時限式の悪夢だった。

ウィーン…**プシュウウウウウウッ!!**

木の枝から、強烈なハッカのミストが噴射され、傭兵たちの顔面に直撃する。
「目が!目がぁぁっ!」「うわっ、なんだこの匂いは!?」
咳き込み、涙を流し、完全に無力化された彼らの前に、ついに、聖域の『鉄槌』が姿を現した。

「グルオオオオォォォッ!!」
まず飛び出したのは、白い弾丸と化したシラタマだった。おにぎりで勇気をチャージした彼は、もはやただのもふもふではない。狂戦士だ。彼は、ハッカの匂いで混乱している傭兵の一人に、自慢の石頭で猛然とタックルをかます!ドスッという鈍い音と共に、大の男が、まるで枯れ葉のように吹き飛んだ。
そして、その混乱の極みに、女神が舞い降りる。

「――聖域を汚す不届き者には、鉄槌を」
リディアが、音もなく、傭兵たちの背後を取っていた。彼女の剣は、もはや抜かれてすらいない。鞘に収まったままの剣が、まるで棍棒のように、恐るべき速度と正確さで、傭兵たちの鎧の急所だけを打ち据えていく。ゴッ!ガン!と、鈍い音が響くたびに、屈強な男たちが、赤子のように崩れ落ちていった。

最後に残った隊長らしき男が、震える手で剣を抜く。だが、彼が見たのは、あまりにも絶望的な光景だった。
部下たちは、キラキラした紙吹雪を頭に乗せ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、白い魔獣にじゃれつかれ、そして、一人の美しい騎士に、赤子の手をひねるように、一方的に叩きのめされている。
「…なんなんだ…ここは…地獄か…?」
隊長の戦意は、戦う前に、完全に砕け散っていた。

全ての戦闘は、わずか数分で終わった。森の小道には、キラキラした紙吹雪と、ハッカの爽やかな香り、そして、折り重なるようにして伸びる傭兵たちの山ができていた。
俺は、茂みからゆっくりと姿を現し、最後の仕上げに取り掛かった。

**ポンッ!**
【創造力:75/150 → 65/150】

Dランクの荷造り用品、『PPバンド』と『ストッパー』のセット。コストは10。
俺は、伸びている傭兵たちを、荷物を梱包するかのように、手際よく、そして頑丈に縛り上げていく。

全ての作業を終え、リディアが、どこか呆れたような、しかし、心の底から感服したような顔で、俺に言った。
「…ユキ殿。あなたの戦は、血も、鉄の匂いもしない。ただ、敵の『心』だけを、的確に折るのだな」

俺たちの聖域は、守り抜かれた。
だが、俺たちの目の前には、新たに、十数名もの『捕虜』という、全く新しい問題が、山積みになっていた。
この、あまりにも平和で、そしてあまりにも奇妙な戦いの後始末を、一体どうすればいいというのだろうか。
初夏の風が、勝利の余韻と、次なる悩みの種を、同時に運んでくるのだった。
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