おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百五十話】 王都への使者と、瓶詰めの太陽

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王都からの査問会が嵐のように過ぎ去ってから、数週間。
聖域には、再び穏やかな日常が戻っていた。だが、その日常は、以前とは全く違う、確かな『予感』の色を帯びていた。俺の頭の中は、いずれ王都で開かれるであろう『賢人会議』のことでいっぱいだった。それは、俺たちの未来を左右する、静かなる戦いの舞台だ。

「俺たちが直接王都へ出向くことはできません。だからこそ、俺たちの代わりに、この聖域の『物語』そのものを雄弁に語ってくれる、最高の『使者』を送り込むんです」

俺は、ダイニングテーブルの上に、聖域で生まれ育った最高の『宝物』たちを並べた。
つちのこの祝福を受けた『黄金の豆』から作り上げた、漆黒の**『燻製醤油』**。春の花々の魂をそのまま閉じ込めたかのような黄金色の**『百花蜜』**。そして、この森に住む温厚な角鹿の乳を使い、二ヶ月の時を経て、旨味の宝石を宿した**『熟成チーズ』**。

「これらの『味』こそが、どんな雄弁な言葉よりも、この聖域の価値を、王都の賢者たちの魂に直接、語りかけてくれるはずです」

だが、ただ送るだけではダメだ。彼らの凝り固まった常識を打ち破り、その心を鷲掴みにするための『付加価値』が必要になる。俺は、この聖域で生み出された産物に、初めて**『ブランド』という名の鎧と、『パッケージデザイン』**という名の魔法をかけることにした。

ポンッ!

**【創造力:102/150 → 87/150】**

まず、製品を入れるための、統一された美しい『瓶』。俺が召喚したのは、Dランクの**『ガラス製のスパイスボトル』**を、数十個。コストは15。

ポンッ!ポンッ!

**【創造力:87/150 → 77/150】**

次に、その瓶を飾る『ラベル』。Eランクの文房具**『クラフト紙シール』**と、Dランクの**『スタンプセット(アルファベット)』**を召喚。コストは合わせて10。

俺は、クラフト紙の温かい風合いのシールに、一枚一枚、丁寧にスタンプを押していく。

**『Sanctuary -Gift from the Forest-』(聖域 -森からの贈り物-)**

そして、その文字の下には、シラタマの柔らかい肉球をインクにつけて、ぽすん、と押した、可愛らしい**『聖獣の足跡』**のロゴマークを。
その、あまりにも専門的で、人の心をくすぐる商業デザインの光景に、リディアは「ユキ殿…あなたは、味だけでなく、人の『所有欲』さえもデザインするのか…」と、俺の新たな才能に戦慄していた。

最後の仕上げに、この宝物を守り、贈答品としての価値を極限まで高めるための『包装』。

ポンッ!ポンッ!

**【創造力:77/150 → 61/150】**

Dランクの**『木毛(もくめん)』**と呼ばれる、ふわふわの木製緩衝材と、Cランクの**『桐箱風のギフトボックス』**。コストは合わせて16。

桐箱の中に木毛を敷き詰め、ラベルを貼った美しい瓶を、まるで宝石のようにそっと収める。その光景は、もはやただの保存食作りではなかった。一つの文化が、一つのブランドが、今、この森の奥で静かに産声を上げる、歴史的な瞬間だった。

最高の贈り物はできた。だが、これをどうやって王都へ届けるか。
俺が思案に暮れていた、その時。

チリン…チリン…

森の小道から、あの懐かしい鈴の音が聞こえてきた。行商人バロンだ。
彼は、以前俺が教えた知識が元で、**薔薇色の町ロゼッタ**が驚異的な発展を遂げているという噂を聞きつけ、その源泉である俺に、新しい商談を持ちかけるためにやってきたのだ。

俺は、その、最高のタイミングで現れた旧友こそが、俺たちの『物語』を王都へ届ける、最高の使者だと確信した。
俺は、バロンに、完成したばかりのギフトボックスをいくつか手渡した。

「バロンさん。これを、王都のしかるべき相手…例えば、賢人会議のメンバーや、宮廷の料理長に届けてはいただけませんか。これは商売じゃない。俺たちからの、未来への『投資』です」

バロンは、その、あまりにも美しく、そして洗練された贈答品と、その中身が持つ、計り知れない価値、そして、この依頼の裏にある、あまりにも壮大な物語を、商人としての魂で、瞬時に理解した。

「賢人様…あんたは、ついにこの世界を、あんたの『味』で動かす気になったんだな!」

彼は、興奮に目を輝かせ、その大役を、二つ返事で快諾した。

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バロンの旅立ちを祝う、ささやかな宴。俺が、この最高の使者のために用意したメニューは、聖域の夏の太陽そのものを鍋に閉じ込めたかのような、**『ラタトゥイユ』**だった。

通称**『シラタマ農園』**で採れた、真っ赤な完熟トマト、瑞々しいズッキーニ、そして宝石のようなパプリカ。それらを、聖域のハーブと共に、鉄の大鍋でじっくりと煮込んでいく。野菜から出る水分だけで煮詰めた、太陽の恵みが凝縮された一皿。

バロンは、その一口を味わい、スプーンを持つ手が震えるほどに感動していた。

「…うめぇ…!野菜だけで、どうしてこんなに深い味が出るんだ…!まるで、太陽そのものを食ってるみてぇだ…!」

翌朝、バロンは、聖域の未来を託された、キラキラと輝く瓶を、荷車の最も安全な場所に、まるで王冠でも運ぶかのように、大切に、大切に積み込んだ。

「行ってくるぜ、賢人様!あんたの物語、この俺が、最高の形で王都の連中に語って聞かせてやる!」

その、どこまでも頼もしい背中を見送りながら、リディアは、静かに、しかし確かな重みを持って呟いた。

「…一人の商人が、今、王国の運命を左右する『使者』となった。物語とは、実に面白いものですね」

聖域の戦いは、もはやこの森の中だけのものではなくなった。
バロンの荷車に乗せられた、小さな**瓶詰めの太陽**が、今、権謀術数が渦巻く王都の、分厚い灰色の雲を打ち破るための、最初の、そして最も温かい光となろうとしていた。

物語は、聖域の外、王都での、まだ見ぬ波乱を予感させながら、次なる舞台へと、その幕を上げるのだった。

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