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【第百五十三話】 王都からの招待状と、旅支度
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王都の賢人会議で、歴史的な裁定が下されてから、一月(ひとつき)が過ぎた。
俺たちの聖域には、変わらない、穏やかな時間が流れていた。だが、その日常を運ぶ風は、明らかに色を変えていた。吟遊詩人リュカが時折立ち寄っては、王都で大評判となっている『聖獣の紋章と賢人の唄』と、日に日に悪評が高まるマルス子爵の没落の物語を、面白おかしく聞かせてくれる。バロンさんからも、「あんたの醤油とチーズのおかげで、俺は王侯貴族御用達の『伝説の商人』になっちまったよ!」という、嬉しい悲鳴が届いた。
俺たちの、ほんのささやかな『お節介』が、俺たちの知らないところで、世界を、少しずつ、温かい方向へと動かしている。その確かな手応えが、俺たちの日常を、以前にも増して、豊かで、満ち足りたものにしていた。
その日は、初夏の陽気が森を包む、完璧なピクニック日和だった。
俺が、シラタマ農園で採れたばかりの夏野菜と、自家製ベーコンを挟んだ、特製の**『バインミー(ベトナム風サンドイッチ)』**を用意していると、丘の上のリディアから、光の合図が届いた。
それは、王都からの、公式な使節団の来訪を告げる光だった。
聖域の入り口で俺たちを迎えたのは、騎士セラフィナと書記官トーマス。彼らが恭しく差し出したのは、王家の紋章が輝く、一通の羊皮紙だった。
それは、アメリア王女直筆の**『招待状』**。
『――賢人ユキ殿、そして聖域の守護騎士リディア殿。貴殿らの知恵と勇気に、心からの敬意を表します。つきましては、一度、王都へとお越しいただき、我が王国の未来について、直接、語り合ってはいただけないでしょうか』
その、どこまでも丁寧で、誠意に満ちた文面。断る理由は、どこにもなかった。
「…ユキ殿。ついに、我らが王都へ…」
リディアの瞳には、緊張と、ほんの少しの不安、そして、それを遥かに上回る、新しい世界への期待が入り混じっていた。
俺は、そんな彼女の肩を、ぽんと叩いた。
「ええ。ですが、これは戦ではありませんよ。俺たちの、最高の『日常』を、王都におすそ分けしに行くだけの、楽しいピクニックの続きです」
俺たちの、初めての王都への旅。その準備が始まった。
俺が、この旅の成功を左右する、最も重要な『武器』として用意したのは、やはり『食』だった。
「王都の晩餐会で、俺たちの聖域の豊かさを、最高の形で披露します。そのためには、最高の食材を、最高の鮮度で運ぶ必要がある」
俺が、この難題を解決するために召喚したのは、現代の物流の心臓部だった。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 120/150】※創造力は睡眠により全回復 Bランクの『クーラーボックス』と、同じくBランクの『保冷剤(大型)』を数個セット。コストは合わせて30。
「ユキ殿…その、ただの箱が、氷の冷たさを保ち続けるというのか…!?」
「ええ。この壁の中には、魔法の断熱材が入っているんですよ」
その、あまりにも画期的な『冷たさを運ぶ箱』に、セラフィナたちは、またしても自分たちの常識を覆されていた。
この、聖域初の公式な旅支度。仲間たちも、それぞれの形で、その門出を祝ってくれた。
俺が、クーラーボックスに、つちのこが祝福してくれた、宝石のように輝く夏野菜を詰めていると、シラタマが、どこからか、お気に入りの、一番大きくて甘い木の実を、そっと差し出してきた。「これも持っていけ」とでも言うように。その、あまりにも健気な優しさに、俺は最高の笑顔で応えた。
そして、旅の衣装に悩んでいたリディアのために、彼女自身が、聖域に住む羊の毛で紡ぎ、織り上げた、美しい緋色のショールを、誇らしげに肩にかけた。それは、どんな高価なドレスよりも、彼女を美しく、そして強く見せていた。
旅立ちの朝。俺たちの前には、王都から派遣された、立派な馬車が待っていた。
俺とリディア、そして、もちろん公式な『聖獣』として招待されたシラタマが、その馬車に乗り込む。
セラフィナが、少しだけ悪戯っぽく、俺に囁いた。
「…ユキ殿。王都の貴族たちは、手強いぞ。彼らの、凝り固まった常識とプライドを、貴殿の料理で、どう打ち破るのか…楽しみにしている」
その言葉に、俺は、最高の笑顔で頷いた。
「大丈夫ですよ。俺の武器は、料理だけじゃありませんから」
俺は、懐から一つの**『黄金の豆』**を取り出し、セラフィナにそっと見せた。
「僕らの後ろには、この森の、そして大地の神様がついていますからね。王都で最高の笑顔を作って、最高の『お土産話』を持って帰りますよ」
俺たちの聖域から、王都へと続く、新しい道。
それは、この世界の未来を、少しだけ温かく、そして美味しくするための、最高のピクニックの始まりだった。
馬車の窓から見える、どこまでも広がる青い空を見上げながら、俺は、これから始まる、最高の『お節介』に、胸を躍らせるのだった。
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俺たちの聖域には、変わらない、穏やかな時間が流れていた。だが、その日常を運ぶ風は、明らかに色を変えていた。吟遊詩人リュカが時折立ち寄っては、王都で大評判となっている『聖獣の紋章と賢人の唄』と、日に日に悪評が高まるマルス子爵の没落の物語を、面白おかしく聞かせてくれる。バロンさんからも、「あんたの醤油とチーズのおかげで、俺は王侯貴族御用達の『伝説の商人』になっちまったよ!」という、嬉しい悲鳴が届いた。
俺たちの、ほんのささやかな『お節介』が、俺たちの知らないところで、世界を、少しずつ、温かい方向へと動かしている。その確かな手応えが、俺たちの日常を、以前にも増して、豊かで、満ち足りたものにしていた。
その日は、初夏の陽気が森を包む、完璧なピクニック日和だった。
俺が、シラタマ農園で採れたばかりの夏野菜と、自家製ベーコンを挟んだ、特製の**『バインミー(ベトナム風サンドイッチ)』**を用意していると、丘の上のリディアから、光の合図が届いた。
それは、王都からの、公式な使節団の来訪を告げる光だった。
聖域の入り口で俺たちを迎えたのは、騎士セラフィナと書記官トーマス。彼らが恭しく差し出したのは、王家の紋章が輝く、一通の羊皮紙だった。
それは、アメリア王女直筆の**『招待状』**。
『――賢人ユキ殿、そして聖域の守護騎士リディア殿。貴殿らの知恵と勇気に、心からの敬意を表します。つきましては、一度、王都へとお越しいただき、我が王国の未来について、直接、語り合ってはいただけないでしょうか』
その、どこまでも丁寧で、誠意に満ちた文面。断る理由は、どこにもなかった。
「…ユキ殿。ついに、我らが王都へ…」
リディアの瞳には、緊張と、ほんの少しの不安、そして、それを遥かに上回る、新しい世界への期待が入り混じっていた。
俺は、そんな彼女の肩を、ぽんと叩いた。
「ええ。ですが、これは戦ではありませんよ。俺たちの、最高の『日常』を、王都におすそ分けしに行くだけの、楽しいピクニックの続きです」
俺たちの、初めての王都への旅。その準備が始まった。
俺が、この旅の成功を左右する、最も重要な『武器』として用意したのは、やはり『食』だった。
「王都の晩餐会で、俺たちの聖域の豊かさを、最高の形で披露します。そのためには、最高の食材を、最高の鮮度で運ぶ必要がある」
俺が、この難題を解決するために召喚したのは、現代の物流の心臓部だった。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:150/150 → 120/150】※創造力は睡眠により全回復 Bランクの『クーラーボックス』と、同じくBランクの『保冷剤(大型)』を数個セット。コストは合わせて30。
「ユキ殿…その、ただの箱が、氷の冷たさを保ち続けるというのか…!?」
「ええ。この壁の中には、魔法の断熱材が入っているんですよ」
その、あまりにも画期的な『冷たさを運ぶ箱』に、セラフィナたちは、またしても自分たちの常識を覆されていた。
この、聖域初の公式な旅支度。仲間たちも、それぞれの形で、その門出を祝ってくれた。
俺が、クーラーボックスに、つちのこが祝福してくれた、宝石のように輝く夏野菜を詰めていると、シラタマが、どこからか、お気に入りの、一番大きくて甘い木の実を、そっと差し出してきた。「これも持っていけ」とでも言うように。その、あまりにも健気な優しさに、俺は最高の笑顔で応えた。
そして、旅の衣装に悩んでいたリディアのために、彼女自身が、聖域に住む羊の毛で紡ぎ、織り上げた、美しい緋色のショールを、誇らしげに肩にかけた。それは、どんな高価なドレスよりも、彼女を美しく、そして強く見せていた。
旅立ちの朝。俺たちの前には、王都から派遣された、立派な馬車が待っていた。
俺とリディア、そして、もちろん公式な『聖獣』として招待されたシラタマが、その馬車に乗り込む。
セラフィナが、少しだけ悪戯っぽく、俺に囁いた。
「…ユキ殿。王都の貴族たちは、手強いぞ。彼らの、凝り固まった常識とプライドを、貴殿の料理で、どう打ち破るのか…楽しみにしている」
その言葉に、俺は、最高の笑顔で頷いた。
「大丈夫ですよ。俺の武器は、料理だけじゃありませんから」
俺は、懐から一つの**『黄金の豆』**を取り出し、セラフィナにそっと見せた。
「僕らの後ろには、この森の、そして大地の神様がついていますからね。王都で最高の笑顔を作って、最高の『お土産話』を持って帰りますよ」
俺たちの聖域から、王都へと続く、新しい道。
それは、この世界の未来を、少しだけ温かく、そして美味しくするための、最高のピクニックの始まりだった。
馬車の窓から見える、どこまでも広がる青い空を見上げながら、俺は、これから始まる、最高の『お節介』に、胸を躍らせるのだった。
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