おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百五十四話】 王都の喧騒と、厨房の洗礼

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王都へと向かう、王家の紋章が刻まれた馬車。その旅路は、これまでのどの旅とも違っていた。聖域の、生命力に満ちた緑と土の色に慣れた目には、窓の外を流れていく、どこまでも広がる小麦畑や、遠くに見える小さな村々の営みさえもが、新鮮な驚きに満ちていた。

リディアは、その見慣れない景色に、最初は緊張した面持ちで警戒を怠らなかった。だが、時折すれ違う農夫たちが、王家の馬車に気づき、畏敬の念を込めて道端で頭を下げる、そのあまりにも平和な光景に、彼女の強張っていた肩の力が、少しずつ抜けていくのが分かった。
一方、シラタマは、馬車の心地よい揺れがすっかりお気に入りの揺りかごとなったらしく、俺が聖域から持ち込んだ、ひんやりとした**『クーラーボックス』**に巨体を預け、幸せそうな寝息を立てている。時折、夢の中でも美味しいものを食べているのか、もぐもぐと口を動かすその姿は、同乗するセラフィナやトーマスの、最高の癒やしとなっていた。

数日の旅を経て、一行はついに、王都の巨大な城門へとたどり着いた。
聖域の静寂とは対極の、人々の喧騒、無数の馬車の往来、様々な店から漂ってくる活気と熱気。その、圧倒的な情報の洪水に、リディアとシラタマは、同時に目を丸くした。
シラタマは、その巨体と、雪のように真っ白な毛皮で、道行く人々の注目を一身に集める。「見て!大きなわんちゃん!」「ううん、熊よ!」「聖獣様のおなーりー!」と、物怖じしない子供たちが、きゃっきゃと歓声を上げながら、馬車の後を追いかけてくる。

リディアは、ふと、街角で見かけた、自分と同じ年頃の騎士たちの姿に、足を止めた。かつて、自分が目指し、そして所属していた世界。彼女の瞳に、一瞬、複雑な光が揺らめいた。だが、彼女はすぐに、俺の隣にいることが今の自分の誇りなのだと、静かに決意を新たにするのだった。

王宮に到着した俺たちは、アメリア王女に温かく迎え入れられ、正式な晩餐会が明日の夜に行われることが決まった。その準備のために、俺は、宮廷料理長への挨拶と、厨房の視察へと向かう。
そこは、バロンが語っていた通り、巨大で、効率的で、しかし喜びの感じられない、殺伐とした空気に満ちた『戦場』だった。何十人もの料理人たちが、一糸乱れぬ動きで、しかし誰一人として笑顔はなく、ただ黙々と作業をこなしている。

その戦場の頂点に君臨する宮廷料理長は、俺の姿を認めると、あからさまな敵意を込めて、鼻を鳴らした。
「――ほう。貴殿が、噂の『森の賢人』か。見れば、ただの小汚い田舎者ではないか。明日の晩餐会は、我ら宮廷料理人の、一年で最も重要な戦場。よそ者の出る幕はない。せいぜい、隅で我らの仕事の邪魔にならんよう、おとなしくしておられることだな」

その、あまりにも手厳しい洗礼。だが、俺は言葉で反論しなかった。俺は、厨房の片隅で、山のように積まれたジャガイモを前に、涙ぐみながら皮を剥いている、まだ若い見習い料理人の元へ、静かに近づいた。

ポンッ!

**【創造力:120/150 → 119/150】**

俺が召喚したのは、Eランクの**『ステンレス製のピーラー』**。コストは1。
「これ、使ってみますか?もっと、楽になりますよ」

見習い料理人は、その奇妙な形の道具を訝しみながらも、言われるがままにジャガイモに刃を当てる。
シュッ、シュルシュルシュル…!
これまで、慣れないナイフで分厚く、そして危なっかしく削いでいた皮が、まるで魔法のように、紙のように薄く、驚くほどの速さで剥けていく。

「な…なんだ、これは…!?」

その、あまりにも魔法のような光景に、周りで作業していた料理人たちが、次々と手を止め、息をのんで見入ってしまう。
次に俺は、大量の玉ねぎを前に、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている、別の見習いの元へ。

ポンッ!

**【創造力:119/150 → 114/150】**

Dランクの**『ハンドル式のフードカッター』**。コストは5。
数秒で、涙を流す間もなく、完璧なみじん切りが完成する。
厨房中に、静かな、しかし地殻変動のような衝撃が走った。これまで、根性と時間で乗り越えるのが当たり前だった苦役が、たった二つの、手のひらサイズの道具によって、過去のものにされようとしている。
宮廷料理長は、その光景を、腕を組んで苦々しい顔で見つめている。だが、彼の築き上げてきた厨房の絶対的な秩序が、俺の、このささやかな『お節介』によって、内側から静かに、しかし確実に崩れ始めていることを、彼自身が一番よく分かっていた。

---

その日の夜。晩餐会の準備で疲れ果てた料理人たちのための、賄い食の時間。メニューは、いつも通りの、味気ない黒パンと、野菜の切れ端が浮かんだ、ぬるいスープだけ。
そこへ、俺は、一つの大きな鉄鍋を手に、ふらりと現れた。
鍋の蓋を開けると、ふわりと立ち上る、ニンニクと、香ばしい燻製肉の香り。それは、俺が皮を剥いたジャガイモと、みじん切りにした玉ねぎ、そして聖域から持参した燻製ベーコンの切れ端を使って、即興で作った**『ジャーマンポテト』**だった。

「さあ、どうぞ。今日の、皆さんへの賄いです」

最初は遠巻きに見ていた見習いたちが、おそるおそる、その一口を味わう。
次の瞬間、彼らの、疲労で色のなかった顔が、花が綻ぶように、ぱあっと輝いた。
「う…美味い!なんだこれ!ただの芋と玉ねぎなのに、どうしてこんなに…!」

ホクホクのジャガイモに、玉ねぎの甘み、そして燻製ベーコンの塩気と旨味が絡み合った、シンプルで、しかし魂に直接染み渡るような、温かい家庭の味。
彼らは、無心で、夢中で、その一皿を平らげていった。

宮廷料理長は、その光景を、工房の入り口から、腕を組んだまま、厳しい顔で見つめている。だが、その口元が、ほんの僅かに、緩んだのを、物陰から様子を窺っていたリディアは、見逃さなかった。

明日の晩餐会。それは、もはや俺一人の戦いではない。
俺の『味』に、そして、その根底にある『優しさ』に心を掴まれた、名もなき料理人たちが、俺の最強の『味方』になるかもしれない。
王都での最初の夜。俺は、料理という名の、最も平和で、そして最も雄弁な武器を手に、静かなる厨房の革命の、第一歩を、確かに記したのだった。

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