おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百五十五話】 王宮の晩餐会と、大地のフルコース

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運命の晩餐会の朝。王宮の厨房は、これまでにないほどの静かな緊張感と、そして昨日とは明らかに違う、微かな『期待』の熱気に包まれていた。
俺が厨房に足を踏み入れると、昨日まで遠巻きに見ていただけの見習いたちが、「おはようございます、ユキさん!」と、ぎこちないながらも、尊敬の眼差しを向けてくる。彼らの手には、俺が昨日与えたピーラーやフードカッターが、まるで新しい武器のように、誇らしげに握られていた。
厨房の空気は、確かに変わり始めていた。

宮廷料理長は、腕を組み、いつもの厳しい顔で俺の前に立ちはだかった。
「…小僧、昨夜のことは忘れろ。今日の晩餐会は、我が王家の威信がかかっておる。万が一にも、粗相は許さんぞ」

その言葉は氷のように冷たい。だが、その瞳の奥に、もはや完全な敵意はなく、ただ純粋な職人としての矜持と、俺の実力を見定めようとする、真剣な光だけが宿っていた。

陽が傾き、大広間に着飾った貴族たちが集い始める。値踏みするような、好奇に満ちた視線が、厨房へと注がれる。静かなる戦いの火蓋が、切って落とされた。

最初の一皿。俺が『前菜』として用意したのは、**『夏野菜のテリーヌ、聖域の庭園仕立て』**だった。
クーラーボックスで最高の鮮度を保ったまま運んできた、つちのこ印の宝石のような夏野菜たち。真っ赤なトマト、深い緑のズッキーニ、太陽色のパプリカ。それらを、最近作り始めた**聖域のバター**の副産物であるバターミルクから作った、透明なコンソメゼリーで寄せ固め、**手作りの陶器の皿**に盛り付けた、まるで聖域の畑そのものを切り取ってきたかのような一皿。

貴族たちは、まずその、絵画のような美しさに息をのむ。そして、一口味わった瞬間、その表情は驚愕に変わった。
「な…!?これは…野菜…だと…!?まるで、凝縮された太陽そのものを食べているかのようだ…!」
美食家の老公爵が、震える声で呟く。それは、彼らが知る、ただ皿を彩るだけの付け合わせではない。野菜一つひとつが、暴力的なまでの生命力に満ち、力強く主張してくる、大地の味だった。

次の皿は『スープ』。俺が作るのは、**『森のきのこのポタージュ、燻製醤油の香り』**。
聖域で採れた数種類のきのこを、丁寧に裏ごししてポタージュにする。そして、サーブする直前、温められたスープ皿に、あの漆黒の『燻製醤油』を、スポイトで、ほんの一滴だけ、静かに垂らす。
運ばれてきたスープ皿から立ち上る、深く、香ばしく、そしてどこか懐かしい、森の土と、長い熟成の時間だけが醸し出す香りに、会場がざわめいた。
一口すすった貴族たちは、そのあまりにも複雑で、滋味深い味わいの前に、言葉を失う。ただのきのこスープではない。これは、森の夜明けの霧、雨上がりの土の匂い、木々の息吹…森の記憶そのものを味わっているかのような、神秘的な体験だった。

そして、運命の『メインディッシュ』。
まず、宮廷料理長が、その威信をかけて、王宮が誇る最高級の牛肉を使った、完璧なローストビーフを披露した。非の打ち所のない美しいロゼ色の断面、伝統と格式に裏打ちされたソース。貴族たちから、惜しみない賞賛の声が上がる。

次に、俺の皿が運ばれる。貴族たちの目の前に置かれたのは、ありふれた**『キバいのししの肉』**の塊。その、あまりにも無骨で、野蛮な食材に、会場のあちこちから、侮蔑の失笑が漏れた。
だが、俺は慌てない。俺は、この硬い猪肉を、ある『魔法の液体』に一晩漬け込んでいた。それは、バターを作った時に副産物として生まれる**『バターミルク』**。その乳酸の力が、猪の硬い筋繊維を、驚くほど柔らかく分解してくれているのだ。
さらに、焼き上げる際に、俺は最後の魔法をかける。

ポンッ!

【創造力:114/150 → 104/150】 Cランクの調理器具『アルミホイル』。コストは10。

俺は、バターミルクから引き上げた肉を、香草と共にアルミホイルで隙間なく包み、石窯の低温の部分で、数時間かけてじっくりと火を入れた。水分を一切逃さず、肉自体の旨味で蒸し焼きにする、『アンクルート』に近い調理法だ。
ソースは、聖域の蜂蜜酒《ミード》と、野生のベリーを煮詰めた、甘酸っぱく、高貴な香りのソース。

貴族たちは、その一口を味わい、信じられないという顔で目を見開き、自分の皿と、料理長の皿を、何度も見比べた。
(ば、馬鹿な…!?あの、最高級の牛肉よりも、遥かに…柔らかい…!?そして、この、口の中に広がる、力強く、そしてどこまでも滋味深い、野生の力に満ちた味わいは、一体…!?)

宮廷料理長は、自分の完璧なはずのローストビーフが、ありふれた猪肉と、一枚の銀紙の前に、完膚なきまでに敗北したことを悟り、静かに、その場で膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えていた。

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晩餐会は、俺の圧倒的な勝利で幕を閉じた。
誰もいなくなった厨房で、宮廷料理長が、一人、俺の残していった猪肉のローストを、震える手で味わっていた。そして、その目から、一筋、静かに涙がこぼれ落ちた。
「…わしは、食材の『格』にばかり囚われていた。料理とは…素材の『声』を聞き、その最高の舞台を用意してやることだったのだな…」

その、あまりにも孤独で、しかし誇り高い職人の背中に、俺はそっと近づいた。
「料理長。あなたのローストビーフ、素晴らしかったです。特に、あのソースの隠し味に使われていた、古酒の香り…。もしよろしければ、あのソースの作り方、俺に教えてはいただけませんか?」

俺は、彼を打ち負かすのではなく、最大の敬意を払い、教えを乞うた。
その瞬間、料理長の心の中の、最後の、そして最も硬い壁が、音を立てて崩れ落ちた。

アメリア王女は、その全てを、満足げに見つめていた。彼女が望んだのは、ただ美味しい料理ではない。この晩餐会を通して、旧態依然とした王宮の空気に、聖域の『新しい風』を吹き込むことだったのだ。
俺は、王都の貴族たちの胃袋だけでなく、その凝り固まった『心』さえも、見事に、そして温かく調理してしまった。
聖域の静かなる革命は、今、王都の中枢で、最も華やかな形で、その完全なる成功を告げたのだった。

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