おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百八十二話】難攻不落の要塞と、賢者の栄養バー

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***

『赤刃のオーガ』。
『ゴルゴンの顎』。

元傭兵隊長バルガスが残していった、その二つの不吉な響きは、王都へと続く街道の穏やかな空気の中に、重い鉛のように沈んでいた。俺たちの旅は、もはやただの王都への行軍ではない。その道行きに立ち塞がる、巨大な悪意そのものとの対決を、運命づけられていたのだ。
俺たちは、要塞から数キロ離れた、月明かりさえも届かぬほど鬱蒼とした森の中に、臨時の野営地を設営した。

「…ユキ殿。斥候に出ます。敵の数、布陣、そして、あの『オーガ』とやらが、どれほどの化け物なのか。この目で見極めねば、策の立てようもありません」
リディアは、キックボードを木の陰に隠すと、その顔から旅の穏やかな表情を消し去り、完全に『戦士』の顔つきに戻っていた。その瞳には、これから単身で敵地に乗り込むというのに、恐怖の色は一切ない。ただ、仲間を守るための、冷たく、そして澄み切った決意だけが宿っていた。

「一人で行くのは危険すぎます。俺も…」
「いいえ、ユキ殿はここを動くべきではありません。貴殿はこの作戦の『頭脳』。万が一にも、危険に晒すわけにはいきません」
「ですが、リディアさんには、最高の『相棒』に随行してもらいますから」
俺の言葉に、これまで俺の足元で不安そうにしていたシラタ-マが、ぴくりと耳を動かした。彼は、全てを理解したのだろう。一声、「キュイ!」と短く、しかし力強く鳴くと、リディアの隣に立ち、その小さな胸を誇らしげに張った。
彼の神がかり的な嗅覚と聴覚、そして森を知り尽くした俊敏さ。それは、どんな隠密能力を持つ斥候兵よりも、頼りになる『索敵能力』だった。

「リディアさん、シラタマ。これは、戦いではありません。情報を持ち帰ることだけが、あなたたちの勝利です。決して、無理はしないでください。約束ですよ」
俺は、二人のための、最高の『潜入装備』を用意した。
まず、闇に紛れるためのカモフラージュ。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:128/150 → 122/150】
俺が召喚したのは、Dランクの画材**『木炭(デッサン用)』**と、Eランクの**『化粧用パフ』**。コストは合わせて6。
俺は、木炭を砕いて作った漆黒の粉を、リディアの、月光を反射してしまう美しい鎧の輝く部分や、シラタマの、闇夜に白く浮かび上がる毛皮に、パフで優しく叩き込んでいく。それは、まるで舞台役者に化粧を施すかのような、静かで、繊細な作業だった。
「…ユキ殿。あなたは、戦いの準備でさえ、これほどまでに優しい手つきをするのですね」
リディアが、少しだけ照れたように呟いた。

次に、この隠密作戦の成功率を飛躍的に高める、究極の通信手段。
ポンッ!
【創造力:122/150 → 121/150】
Eランクの**『犬笛』**。コストは1。
「これは、人間の耳にはほとんど聞こえませんが、シラタマには、数キロ先からでもその音色が届くはずです。万が一の時は、これで合図を」
その、あまりにも専門的で、そして仲間との絆を前提とした道具に、リディアは深く頷いた。

そして、最後に。俺は、二人が任務を遂行するための、最高の『力』を授ける。
「最高の兵士には、最高の兵糧が必要です。一口で、半日分の活力を与えてくれる、魔法の食事を」
俺が、この日のために用意したのは、聖域の栄養学の全てを結集させた、究極の携帯食…**『賢者の栄養バー』**だった。

ポンッ!
【創造力:121/150 → 119/150】
自動粉挽き所で挽いた燕麦(えんばく)と小麦の全粒粉をベースに、森で採れた数種類のナッツを砕いたもの、ソーラーフードドライヤーで作った干しぶどうと干しリンゴ、そして、それらを繋ぎ合わせる、滋養豊富な祝福の蜂蜜。全ての材料を混ぜ合わせ、Eランクの**『押し寿司の型』**で、均一な長方形に押し固め、石窯の余熱でじっくりと水分を飛ばしながら焼き上げる。コストは2。

完成したそれは、もはやただの菓子ではなかった。手のひらサイズで、驚くほど軽く、そして石のように硬い。だが、その一欠片には、長時間の隠密行動に必要なエネルギーと栄養素が、完璧なバランスで凝縮されている。
リディアは、その、まだ温かい栄養バーを一口かじり、目を見開いた。
「な…!?これほど硬いのに、口の中でほろりと崩れ、ナッツの香ばしさと、果実の凝縮された甘酸っぱさが…!そして、体の芯から、まるで小さな太陽が灯ったかのように、確かな力が湧き上がってくる…!ユキ殿、これは…『勝利の味』がします」
その言葉に、俺は最高の笑顔で頷いた。

夕暮れ時。月が、鋭い鎌のように、東の空に昇り始めた。
闇に溶け込む化粧を施し、賢者の栄養バーを懐に入れたリディアとシラタ-マは、音もなく、影となって森の奥深くへと消えていった。
俺は、一人残された野営地で、暖炉の代わりに小さな焚き火を熾し、ただ、ひたすらに、仲間たちの無事を祈る。

その頃、リディアとシラタマは、ついに『ゴルゴンの顎』の全貌が見える崖の上へとたどり着いていた。
その光景は、まさしく絶望そのものだった。
街道が狭まる渓谷に、まるで巨大な獣が顎を開けたかのように、自然の岩壁と一体化した、巨大な石造りの要塞。城壁の上には、寸分の隙間もなく篝火が焚かれ、無数の兵士たちが、規則正しく巡回している。正面からの突破は、一個師団をもってしても不可能だろう。
そして、城壁の中で、リディアは、その男を見た。
部下の一人が、ほんの些細な見張りのミスを犯したのだろう。その男――赤毛で、熊のように巨大な体躯を持つ『赤刃のオーガ』――は、言い訳をしようとする部下の腕を、まるで熟れすぎた果実でも握り潰すかのように、無造作に掴み、捻り上げた。ゴキリ、という、聞くに堪えない骨の砕ける音が、静かな夜の渓谷に響き渡る。男は、部下の断末魔の悲鳴を、まるで心地よい音楽でも聴くかのように、その口元に、歪んだ笑みを浮かべていた。
(…あれが、オーガ…。人の姿をした、本物の化け物か…)
リディアの背筋を、冷たい汗が伝う。

正面突破は、不可能。敵の将は、血も涙もない怪物。
万策尽きたかと思われた、その時だった。
シラタマが、ふと、崖の下、要塞の影になった、深い渓谷の底の一点を、鼻をひくつかせながら、じっと見つめている。そして、俺にだけ聞こえるはずの犬笛の音よりも、さらにか細く、「クゥン…」と、喉の奥で鳴いた。
「どうした、シラタマ?」
リディアが、その視線の先を追う。最初は、ただの暗い岩肌にしか見えなかった。だが、目を凝らすと、その暗闇の中に、僅かな、しかし確実な『違和感』があった。
苔と、蔦に覆われた、ほとんど自然と同化してしまっている、古い石造りの格子。そして、その隙間から、月明かりを反射して、ぬらり、と光る、汚水の、僅かな流れ。
「…あれは…」
リディアは、息をのんだ。
「…下水道…か。要塞の、全ての汚物を流すための…」
それは、この難攻不落の要塞が、唯一、無防備に晒している、小さな、そして何よりも屈辱的な『弱点』。

リディアの顔に、苦渋と、しかし、それ以上に、確かな、そして大胆不敵な希望の光が宿った。
「…ユキ殿。どうやら、我らの進むべき道は、栄光に満ちた正面突破ではないようです」
彼女は、懐から犬笛を取り出すと、夜の静寂を破らぬよう、そっと、しかし確かな合図を、聖域で待つ俺の元へと送った。
「――勝利への、汚泥にまみれた道筋が、見えました」と。

***

いつもお読みいただきありがとうございます!
ついに明らかになった、難攻不落の要塞『ゴルゴンの顎』とその恐るべき指揮官。絶望的な状況の中、リディアとシラタマが見つけ出した、唯一の活路とは?ユキは、この屈辱的で、しかし唯一の勝機に、一体どんな100均グッズで挑むのか?物語は、息もつかせぬ要塞潜入作戦へと突入します!
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