227 / 278
第二百二十五話:大聖樹の診断、それは「根詰まり」です
しおりを挟む
聖樹連合国の中心部。
数千年の静寂と、息が詰まるほどの魔力濃度が支配する『大聖域』に足を踏み入れた瞬間、俺、ルークス・グルトを襲ったのは、荘厳な神聖さなどではなかった。それは、鼻の奥をツンと突くような、澱(よど)んだ空気と「緩やかな死」の予感だった。
目の前にそびえ立つのは、雲をも貫き、この世界の天蓋を支える支柱――『マザーツリー(大聖樹)』。
だが、その巨躯を見上げた俺の口からは、感嘆の声ではなく、深いため息が漏れた。
天を覆う無数の枝、その先にあるはずの鮮やかな緑は失われ、病的なまでに薄い黄色へと変色している。幹の表面には、魔力の循環が完全に滞っていることを示す不吉な黒い斑点が浮き出し、本来なら森全体を潤すはずの芳醇な魔力の波動は、今や重病人の喘鳴(ぜんめい)のように、ひどく細く、弱々しいものに成り果てていた。
「……見て。あの方が、私たちのすべての母。数千年の時を超え、エルフの命を繋いできた大聖樹様よ……」
案内するフィオナの声は、今にも消え入りそうなほど悲痛に震えている。横に立つエルウィン団長も、白銀の兜の下で悔しげに奥歯を噛み締め、拳を握りしめていた。
だが、その悲劇的な静寂を切り裂くように、一段高い大理石の演壇から、老いた、だが不快なほどに傲慢な声が降り注いだ。
「――止まれ、不浄な人間よ! これ以上の侵入は、聖域を冒涜する万死に値する行為であると知れ!」
声の主は、大聖樹の根元に居並ぶ、七人のエルフの長老たちだった。
白一色の汚れなき法衣を纏い、威厳を誇示するように豪華な装飾が施された杖を携えた老人たち。その中心に座る大長老ヴァレンが、不快感を隠そうともせず、俺を汚物でも見るかのような冷徹な眼差しで睨みつけている。
「エルウィン、フィオナ! 貴様ら、何を考えている! 大聖樹様の穢れを祓うための儀式を執り行っている最中に、このような泥臭い人間、それも得体の知れぬ下等な農民などを連れ込むとは……。我が国への反逆、あるいは聖域へのテロ行為と見なされても文句は言えんぞ!」
「大長老! 言葉を慎んでください! このルークス殿は、リーフ村に分たれた聖樹を、我らには不可能な速度で成長させ、奇跡の結実をもたらした御方。この停滞を打破できるのは、彼の知恵しかないのです!」
エルウィンが必死に弁護するが、ヴァレンは鼻で笑い、杖の先端をカツンと床に叩きつけた。
「奇跡だと? 笑わせるな。エルフの叡智を結集しても解けぬ病を、人間ごときの卑俗な手技で解決できるはずがなかろう。……いいか、ルークスと言ったか。大聖樹様が枯れかけているのは、我々の祈りが、神々への献身が足りぬからだ。我らは今、全エルフの魔力を捧げる『大浄化の儀式』の準備を進めている。貴様のような不純なノイズが混ざる隙など、一寸たりとも存在せん」
「儀式、ねぇ……」
俺は、ヴァレンの説教を、ブラック企業の朝礼で延々と垂れ流される「精神論による売上目標」として聞き流していた。
(現場の状況を見ようともしない経営陣、根拠のない精神論への逃避、そして失敗をすべて『不純物(外部)』のせいにする排他性。……あー、既視感(デジャヴ)が凄すぎて、耳の奥が痒くなってくるな)
俺は長老たちの制止を完全に無視し、大聖樹の周囲をゆっくりと歩き回り始めた。その目はもはや、巨大な神を見ているのではなく、深刻なトラブルを抱えた「サーバー」あるいは「植木鉢」を分析するエンジニアのものだった。
「貴様! 何をしている! 聖なる根に近づくなと言っているだろうが! 衛兵、今すぐこの男を――」
喚き散らす長老たちを完全に黙殺し、俺は本格的な診断を開始した。
『鑑定Lv.5』、起動。
視界に重なる膨大なデータ。だが、今回俺が頼ったのは、その数値以上に、自らの農民として培ってきた「指先の感覚」だった。
(……幹の根元が異常に盛り上がっている。樹皮が不自然に引き攣り、逃げ場を失った魔力が瘤(こぶ)となって各所に停滞しているな。……そして、何よりこの地面だ)
俺は、大聖樹の直下の地面に、泥に汚れた掌(てのひら)をそっと当てた。
通常、豊かな森の土というものは、生命の循環によって柔らかく、ふかふかとしているはずだ。堆肥や落ち葉が微生物によって分解され、酸素と水分が巡る土壌。
だが、この聖域の地面は違った。
お役所のコンクリートよりも無慈悲に、カチカチに固まり、通気性という概念がこの世から消え失せたかのような絶望的な硬度。
その瞬間、俺の網膜の裏側で、システムウィンドウとは違う、もっと原始的な「感覚」が弾けた。
大聖樹の幹を通じて、巨大な、そしてあまりにも長い間耐え続けてきた「物理的な悲鳴」が、俺の脳内に直接流れ込んできたのだ。
『……くるしい……。……足が、痺れて、もう動けない……。……息が、できないんだ……。……もう、何も、食べたくない……。……ただ、眠らせてくれ……』
それは神の託宣などではない。飢えと窒息に苦しむ、一人の労働者の怨嗟に近い叫びだった。
数千年の間、エルフたちが「神聖さ」という体裁を守るために、一切の土壌改良を拒絶し、伝統という名の「放置(ネグレクト)」を続けた結果。この木は、自らの根によって自らの首を絞め続けるという、最悪の自己崩壊(オーバーフロー)を起こしていた。
「……おい。あんたら、最後にこの木の根元を耕したのはいつだ?」
「耕す……だと!? 馬鹿な! 聖域の土を一匙(ひとさじ)たりとも動かすことは禁忌中の禁忌! 我らは数千年の間、この一点の曇りなき清浄さを守り抜いてきたのだ!」
「……だろうな。その『清浄さ』が、この木を殺したんだよ。……完璧な無菌室で、人間は生きられないのと同じだ」
俺は冷めた独白と共に、アイテムショップのウィンドウを脳内で高速スワイプした。
[アイテム:『神鉄鋼の精密スコップ(対岩盤貫通仕様)』を交換します。]
[消費ポイント:15,000pt]
淡い光と共に、俺の手元に一本の、一切の装飾を排した無骨な鋼鉄のスコップが現れた。
長老たちが「不敬だ!」「捕らえろ!」「今すぐ処刑しろ!」と口々に叫び声を上げる中、俺は迷いなく、大聖樹の真下、その聖域の中心にある地面に、鋭利な刃を突き立てた。
――ガキンッ!!
鋭く硬質な金属音が、静まり返った大聖域に爆音となって響き渡った。
それは土を掘る音ではなかった。鋼鉄と岩盤が、正面から激突した時の衝撃音だ。
聖域の土は、もはや土の機能を果たしていなかった。
密集しすぎた根が、逃げ場を失って互いに絡まり合い、そこに石化した魔力の残滓が凝固して、物理的な「岩盤」へと変貌していたのだ。
「な……っ!? 土が……これほどまでに硬いというのか……? 剣を通すより、よほど硬そうだぞ……」
エルウィンが、その場に立ち尽くして絶句する。
俺は渾身の力を込め、一塊の「土」――という名の、根の死骸が詰まった石のような塊を強引に掘り出した。
「見てください。これが、あんたらが数千年も守ってきた『清浄な大地』の正体だ」
「な……」
俺は、酸素を求めて窒息し、赤茶色に壊死した細根がびっしりと詰まったその醜い塊を、大長老ヴァレンの足元へ、ゴミでも捨てるように投げ出した。
「病名は『根詰まり(ルート・バウンド)』。……簡単に言えば、この大聖樹は、あんたたちが用意した『聖域』という名の巨大すぎる植木鉢の中で、大きくなりすぎて、自分の根っこで自分の首を絞めている状態だ。数千年間、一度も土を入れ替えず、根を整理せず、ただ魔力という名の『命令』だけを吸わせ続けた運用ミスだ」
「ね……根詰まり……? そんな、家植えの花のような俗な理屈で、大聖樹様を……我らの神を侮辱するのか!」
「侮辱してるのはあんたらだ! 伝統だの神秘だのと耳障りのいい言葉で飾って、一番基本的な『植え替え』というメンテナンスすらサボり続けた! ……いいか、どんなに神聖なシステムでも、物理的なインフラの容量が足りなくなればパンクする。この木は今、容量不足(ストレージフル)でシステムダウンの寸前なんだよ」
俺は冷徹な、そしてどこか憐れみさえ含んだ眼差しで、言葉を失った長老たちを見据えた。
ブラック企業時代、老朽化したサーバーに無理な負荷をかけ続け、現場の悲鳴を「伝統」や「根性」で封じ込め、最終的に全データが回復不能なまでに消滅した、あの地獄のような現場。今のこの聖域は、それと全く同じ臭いがした。
「……治す方法は一つだ。……この聖域の地面を、物理的に爆破して解体し、絡まり合った根を半分以上切り落とす。そして、俺が持ってきた黄金堆肥で土壌を総入れ替えし、空気の通り道を作る……『天地返し』の大手術だ。コンサルタントとして言わせてもらうが、今すぐ決断しろ。あと一週間もすれば、このマザー(サーバー)は完全に焼き切れるぞ」
「ば、爆破だとぉ!? 聖なる根を……切る……!? 貴様、大聖樹様を殺すつもりか!」
「殺してるのは、お前らだ。……クライアントの皆さん。再稼働させたいなら、一度システムを止めて、物理的なハードウェアの交換(土木工事)をする覚悟を決めろ。……返事を聞こうか。俺を不敬罪で吊るすか、それとも、この聖域をぶっ壊させて復活を賭けるか」
俺の最後通牒が、黄金の粒子が舞う聖域に、重く、鋭く響き渡った。
救世主でもなく、予言者でもない。
スコップ一本を担いだ一人の農民による、数千年の伝統への、あまりにも現実的で残酷な「死刑宣告」だった。
---
**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百二十五話、いかがでしたでしょうか?
「神話の難病」を「園芸の初歩的なミス」としてバッサリ切り捨てるルークスの、圧倒的な専門家(農民)としての風格。
エルフの長老たちにとっては、耳を疑うような「爆破」と「根切り」の提案。
物理的な真実こそが、本作における最大のチートです。
果たしてルークスは、この頑固すぎる長老たちを納得させ、聖域の土木工事を開始できるのでしょうか?
「ルークスの言い分が正論すぎて最高!」「ついに爆破予告きたなw」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の声が、ルークスのスコップの切れ味をさらに鋭くします!
次回、第二百二十六話――「聖域爆破、農家のための破壊工作」。お楽しみに!
数千年の静寂と、息が詰まるほどの魔力濃度が支配する『大聖域』に足を踏み入れた瞬間、俺、ルークス・グルトを襲ったのは、荘厳な神聖さなどではなかった。それは、鼻の奥をツンと突くような、澱(よど)んだ空気と「緩やかな死」の予感だった。
目の前にそびえ立つのは、雲をも貫き、この世界の天蓋を支える支柱――『マザーツリー(大聖樹)』。
だが、その巨躯を見上げた俺の口からは、感嘆の声ではなく、深いため息が漏れた。
天を覆う無数の枝、その先にあるはずの鮮やかな緑は失われ、病的なまでに薄い黄色へと変色している。幹の表面には、魔力の循環が完全に滞っていることを示す不吉な黒い斑点が浮き出し、本来なら森全体を潤すはずの芳醇な魔力の波動は、今や重病人の喘鳴(ぜんめい)のように、ひどく細く、弱々しいものに成り果てていた。
「……見て。あの方が、私たちのすべての母。数千年の時を超え、エルフの命を繋いできた大聖樹様よ……」
案内するフィオナの声は、今にも消え入りそうなほど悲痛に震えている。横に立つエルウィン団長も、白銀の兜の下で悔しげに奥歯を噛み締め、拳を握りしめていた。
だが、その悲劇的な静寂を切り裂くように、一段高い大理石の演壇から、老いた、だが不快なほどに傲慢な声が降り注いだ。
「――止まれ、不浄な人間よ! これ以上の侵入は、聖域を冒涜する万死に値する行為であると知れ!」
声の主は、大聖樹の根元に居並ぶ、七人のエルフの長老たちだった。
白一色の汚れなき法衣を纏い、威厳を誇示するように豪華な装飾が施された杖を携えた老人たち。その中心に座る大長老ヴァレンが、不快感を隠そうともせず、俺を汚物でも見るかのような冷徹な眼差しで睨みつけている。
「エルウィン、フィオナ! 貴様ら、何を考えている! 大聖樹様の穢れを祓うための儀式を執り行っている最中に、このような泥臭い人間、それも得体の知れぬ下等な農民などを連れ込むとは……。我が国への反逆、あるいは聖域へのテロ行為と見なされても文句は言えんぞ!」
「大長老! 言葉を慎んでください! このルークス殿は、リーフ村に分たれた聖樹を、我らには不可能な速度で成長させ、奇跡の結実をもたらした御方。この停滞を打破できるのは、彼の知恵しかないのです!」
エルウィンが必死に弁護するが、ヴァレンは鼻で笑い、杖の先端をカツンと床に叩きつけた。
「奇跡だと? 笑わせるな。エルフの叡智を結集しても解けぬ病を、人間ごときの卑俗な手技で解決できるはずがなかろう。……いいか、ルークスと言ったか。大聖樹様が枯れかけているのは、我々の祈りが、神々への献身が足りぬからだ。我らは今、全エルフの魔力を捧げる『大浄化の儀式』の準備を進めている。貴様のような不純なノイズが混ざる隙など、一寸たりとも存在せん」
「儀式、ねぇ……」
俺は、ヴァレンの説教を、ブラック企業の朝礼で延々と垂れ流される「精神論による売上目標」として聞き流していた。
(現場の状況を見ようともしない経営陣、根拠のない精神論への逃避、そして失敗をすべて『不純物(外部)』のせいにする排他性。……あー、既視感(デジャヴ)が凄すぎて、耳の奥が痒くなってくるな)
俺は長老たちの制止を完全に無視し、大聖樹の周囲をゆっくりと歩き回り始めた。その目はもはや、巨大な神を見ているのではなく、深刻なトラブルを抱えた「サーバー」あるいは「植木鉢」を分析するエンジニアのものだった。
「貴様! 何をしている! 聖なる根に近づくなと言っているだろうが! 衛兵、今すぐこの男を――」
喚き散らす長老たちを完全に黙殺し、俺は本格的な診断を開始した。
『鑑定Lv.5』、起動。
視界に重なる膨大なデータ。だが、今回俺が頼ったのは、その数値以上に、自らの農民として培ってきた「指先の感覚」だった。
(……幹の根元が異常に盛り上がっている。樹皮が不自然に引き攣り、逃げ場を失った魔力が瘤(こぶ)となって各所に停滞しているな。……そして、何よりこの地面だ)
俺は、大聖樹の直下の地面に、泥に汚れた掌(てのひら)をそっと当てた。
通常、豊かな森の土というものは、生命の循環によって柔らかく、ふかふかとしているはずだ。堆肥や落ち葉が微生物によって分解され、酸素と水分が巡る土壌。
だが、この聖域の地面は違った。
お役所のコンクリートよりも無慈悲に、カチカチに固まり、通気性という概念がこの世から消え失せたかのような絶望的な硬度。
その瞬間、俺の網膜の裏側で、システムウィンドウとは違う、もっと原始的な「感覚」が弾けた。
大聖樹の幹を通じて、巨大な、そしてあまりにも長い間耐え続けてきた「物理的な悲鳴」が、俺の脳内に直接流れ込んできたのだ。
『……くるしい……。……足が、痺れて、もう動けない……。……息が、できないんだ……。……もう、何も、食べたくない……。……ただ、眠らせてくれ……』
それは神の託宣などではない。飢えと窒息に苦しむ、一人の労働者の怨嗟に近い叫びだった。
数千年の間、エルフたちが「神聖さ」という体裁を守るために、一切の土壌改良を拒絶し、伝統という名の「放置(ネグレクト)」を続けた結果。この木は、自らの根によって自らの首を絞め続けるという、最悪の自己崩壊(オーバーフロー)を起こしていた。
「……おい。あんたら、最後にこの木の根元を耕したのはいつだ?」
「耕す……だと!? 馬鹿な! 聖域の土を一匙(ひとさじ)たりとも動かすことは禁忌中の禁忌! 我らは数千年の間、この一点の曇りなき清浄さを守り抜いてきたのだ!」
「……だろうな。その『清浄さ』が、この木を殺したんだよ。……完璧な無菌室で、人間は生きられないのと同じだ」
俺は冷めた独白と共に、アイテムショップのウィンドウを脳内で高速スワイプした。
[アイテム:『神鉄鋼の精密スコップ(対岩盤貫通仕様)』を交換します。]
[消費ポイント:15,000pt]
淡い光と共に、俺の手元に一本の、一切の装飾を排した無骨な鋼鉄のスコップが現れた。
長老たちが「不敬だ!」「捕らえろ!」「今すぐ処刑しろ!」と口々に叫び声を上げる中、俺は迷いなく、大聖樹の真下、その聖域の中心にある地面に、鋭利な刃を突き立てた。
――ガキンッ!!
鋭く硬質な金属音が、静まり返った大聖域に爆音となって響き渡った。
それは土を掘る音ではなかった。鋼鉄と岩盤が、正面から激突した時の衝撃音だ。
聖域の土は、もはや土の機能を果たしていなかった。
密集しすぎた根が、逃げ場を失って互いに絡まり合い、そこに石化した魔力の残滓が凝固して、物理的な「岩盤」へと変貌していたのだ。
「な……っ!? 土が……これほどまでに硬いというのか……? 剣を通すより、よほど硬そうだぞ……」
エルウィンが、その場に立ち尽くして絶句する。
俺は渾身の力を込め、一塊の「土」――という名の、根の死骸が詰まった石のような塊を強引に掘り出した。
「見てください。これが、あんたらが数千年も守ってきた『清浄な大地』の正体だ」
「な……」
俺は、酸素を求めて窒息し、赤茶色に壊死した細根がびっしりと詰まったその醜い塊を、大長老ヴァレンの足元へ、ゴミでも捨てるように投げ出した。
「病名は『根詰まり(ルート・バウンド)』。……簡単に言えば、この大聖樹は、あんたたちが用意した『聖域』という名の巨大すぎる植木鉢の中で、大きくなりすぎて、自分の根っこで自分の首を絞めている状態だ。数千年間、一度も土を入れ替えず、根を整理せず、ただ魔力という名の『命令』だけを吸わせ続けた運用ミスだ」
「ね……根詰まり……? そんな、家植えの花のような俗な理屈で、大聖樹様を……我らの神を侮辱するのか!」
「侮辱してるのはあんたらだ! 伝統だの神秘だのと耳障りのいい言葉で飾って、一番基本的な『植え替え』というメンテナンスすらサボり続けた! ……いいか、どんなに神聖なシステムでも、物理的なインフラの容量が足りなくなればパンクする。この木は今、容量不足(ストレージフル)でシステムダウンの寸前なんだよ」
俺は冷徹な、そしてどこか憐れみさえ含んだ眼差しで、言葉を失った長老たちを見据えた。
ブラック企業時代、老朽化したサーバーに無理な負荷をかけ続け、現場の悲鳴を「伝統」や「根性」で封じ込め、最終的に全データが回復不能なまでに消滅した、あの地獄のような現場。今のこの聖域は、それと全く同じ臭いがした。
「……治す方法は一つだ。……この聖域の地面を、物理的に爆破して解体し、絡まり合った根を半分以上切り落とす。そして、俺が持ってきた黄金堆肥で土壌を総入れ替えし、空気の通り道を作る……『天地返し』の大手術だ。コンサルタントとして言わせてもらうが、今すぐ決断しろ。あと一週間もすれば、このマザー(サーバー)は完全に焼き切れるぞ」
「ば、爆破だとぉ!? 聖なる根を……切る……!? 貴様、大聖樹様を殺すつもりか!」
「殺してるのは、お前らだ。……クライアントの皆さん。再稼働させたいなら、一度システムを止めて、物理的なハードウェアの交換(土木工事)をする覚悟を決めろ。……返事を聞こうか。俺を不敬罪で吊るすか、それとも、この聖域をぶっ壊させて復活を賭けるか」
俺の最後通牒が、黄金の粒子が舞う聖域に、重く、鋭く響き渡った。
救世主でもなく、予言者でもない。
スコップ一本を担いだ一人の農民による、数千年の伝統への、あまりにも現実的で残酷な「死刑宣告」だった。
---
**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百二十五話、いかがでしたでしょうか?
「神話の難病」を「園芸の初歩的なミス」としてバッサリ切り捨てるルークスの、圧倒的な専門家(農民)としての風格。
エルフの長老たちにとっては、耳を疑うような「爆破」と「根切り」の提案。
物理的な真実こそが、本作における最大のチートです。
果たしてルークスは、この頑固すぎる長老たちを納得させ、聖域の土木工事を開始できるのでしょうか?
「ルークスの言い分が正論すぎて最高!」「ついに爆破予告きたなw」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の声が、ルークスのスコップの切れ味をさらに鋭くします!
次回、第二百二十六話――「聖域爆破、農家のための破壊工作」。お楽しみに!
20
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした
たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。
だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。
自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。
勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる