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第二百四十四話:新年。ポイント大放出のおせちと、伸びる餅の恐怖
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リーフ村は、前夜の「除夜の鐘」の重厚な余韻と、夜通し降り積もった雪の静寂に包まれている。
まだ太陽が昇りきらず、空が薄紫色に染まる早朝。村人たちが寝静まる中、俺、ルークス・グルトは一人リビングに立ち、虚空に向かって指を滑らせていた。
「……システム、起動」
俺の静かな呟きと共に、薄暗い部屋の空中に、青白く発光する半透明のウィンドウ――『農業ポイント交換システム・拡張版』が展開される。
【現在の保有ポイント:128,500 pt】
表示された六桁の数字を見て、俺はニヤリと笑った。
昨年の「回転寿司フェスティバル」での爆発的な米の消費、そして「松茸狩り」による高級食材の出荷ラッシュ。これらによって、俺のポイント残高は過去最高額をマークしていた。
これは俺の汗と結晶であり、異世界を変えるための弾薬だ。
「よし。……貯め込んだポイントは、墓場までは持っていけない。使うなら今だ。この異世界に、日本の正月を完全再現するために、俺の全財産(ポイント)を注ぎ込む!」
俺はウィンドウのタブを切り替え、「季節限定・極上食材&工芸品」のページを開いた。
そこには、異世界の森や川では絶対に手に入らない、地球の職人技と農家の魂がこもった「本物」たちがリストアップされている。
『最高級もち米・カグラモチ(種籾セット・育成済)』:5,000 pt
『丹波種・超大粒黒豆(乾燥・3Lサイズ)』:3,000 pt
『北海道産・黄金数の子(塩蔵・一本羽)』:8,000 pt
『伝統工芸・輪島塗本漆三段重箱(沈金・松竹梅)』:30,000 pt
『樹齢三百年・欅(ケヤキ)の臼と杵セット』:15,000 pt
「……重箱、高ぇな! 三万ポイントって、ワイバーンの素材より高いぞ! だが、ここでプラスチックの弁当箱を使えば、料理が泣く。……ええい、全部だ! 迷うな、ポチれ!」
俺は震える指で「一括購入」ボタンをタップした。
――チャリン♪ チャラララララン♪
脳内に響く、軽快かつ残酷な課金音。ポイントの数字が一気に減っていく。
同時に、リビングの中央に無数の光の粒子が集束し始めた。
光の渦の中から、まず重厚な質感を伴って現れたのは、黒光りする漆塗りの重箱。その表面には、金粉で描かれた松竹梅が妖艶に輝いている。
続いて、黄金色に輝く数の子の山、黒豆の袋、そしてドスン! という重い音と共に、立派な欅の臼と杵が鎮座した。
「……ふぅ。やったぞ。これぞ、現代知識チートの結晶。金貨では買えない価値がここにある」
俺は額の汗を拭い、満足げにその「宝の山」を見下ろした。
◇
数時間後。
村の広場には、「ペッタン、ペッタン」という、重く、そして粘り気のある独特の音が響き渡っていた。
「せいっ! ……はいっ! せいっ!」
俺が杵(きね)を振り下ろし、ロベルトが合いの手を入れて熱い餅を返す。
臼の中で白く輝いているのは、ポイントで交換し、半年かけて温室で極秘に育て上げた最高級もち米『カグラモチ』だ。
蒸し上がった瞬間の、あの独特の甘い穀物の香りだけで、普段食べているうるち米とは格が違うことが分かる。
『……主よ。なぜ米を殴るのだ? 米に何か恨みでもあるのか? それとも、これは拷問の一種か?』
フェンが、臼の中でのたうち回る白い塊を見て、不思議そうに首をかしげている。
「違う。これは魂を注入しているんだ。殴ることで米の粒を破壊し、融合させ、最強の粘り(コシ)を生み出す! 米を『餅』へと進化させる儀式だ! ……よし、つきあがりだ!」
俺はつきたて熱々の餅をちぎり、きな粉、あんこ、そして辛味大根おろし(からみ餅)をまぶして皿に並べた。
さらに、昨夜からポイント交換した食材で徹夜で仕込んでおいた「おせち料理」を、最高級の重箱に詰めて、風呂敷に包み、広場の宴席へと運んだ。
◇
新年の宴の席。
ガルド公爵やフィオナ、村人たちの目が、テーブルの中央に置かれた「黒い箱」に釘付けになった。
「……ルークス殿。なんだこの箱は? 黒曜石か? いや、もっと深い、闇のような黒だ。そこに金色の粉で絵が描かれている……。魔道具か? 微かに、異界の魔力を感じるぞ?」
公爵がゴクリと喉を鳴らし、重箱に触れようとして手を止める。
当然だ。これは俺の十万ポイントの結晶なのだから、下手な魔剣より価値がある。
「これは『重箱(じゅうばこ)』です。めでたさを重ねる、という意味があるんですよ。……では、開けます」
俺は恭しく、一段目の蓋を開けた。
続いて二段目、三段目。
「おおおおおおっ!!」
広場にどよめきが走る。
漆黒に輝き、シワひとつなくふっくらと煮上がった『黒豆』。
クチナシの実(ポイント交換)で鮮やかな黄色に染まり、ねっとりと光る『栗きんとん』。
そして、宝石のように透き通り、朝日を浴びて黄金色に輝く『数の子』。
紅白のかまぼこ、昆布巻き、伊達巻。
どれも、この世界の染色技術や調理法では再現不可能な、鮮烈な色彩だ。
「……見たことがない料理ばかりだ。この黄色い魚の卵(カズノコ)……どこで手に入れた? 私の商会網でも見たことがないぞ。東方の海か? それともダンジョンの秘宝か?」
「あー、これは……『極東の島国』の秘宝を、独自のルート(通販)で取り寄せまして……。細かいことは気にしないでください。さあ、まずはこの『餅』からどうぞ。焼きたてですよ」
俺は七輪で炙り、プクッと焦げ目が膨らんだ四角い切り餅を、砂糖醤油にたっぷりとつけてフィオナに渡した。
「……なによこれ。白いスライム? 生きてるの? 熱そうだけど……」
フィオナが箸でつまみ、持ち上げようとする。
すると、餅は「ビヨーーーーーン」と、あり得ない長さまで伸びた。
切れない。どこまでも伸びる。
「ひぃっ!? 伸びた! 襲ってくるわ! ルークス、これ魔物よ! 粘着系のスライムよ!」
「魔物じゃない。それが『コシ』だ。……早く食わないと硬くなるぞ。吸い込むように食うんだ」
フィオナは恐る恐る、伸びきった餅を箸で巻き取り、口に含んだ。
――モチッ。……ジュワッ。
「……んんっ!? ……柔らかい! なにこの食感……噛んでも噛んでも反発してくるけど、口の中で優しく溶けていく……! そして、お米の甘みが凄い! パンとは違う、濃密な甘み! 砂糖醤油と絡み合って……これ、悪魔の食べ物よ!」
隣では、公爵が黄金色の数の子を口にしていた。
――ポリッ、ポリポリッ!
軽快な音が響く。公爵が目を見開いた。
「この音! 脳に直接響くこの食感はなんだ! 魚の卵なのに生臭さが一切ない! 噛むたびに、上品な出汁が染み出してくる……! これは……酒だ! 朝からだが、日本酒を持ってこい! この塩気は酒泥棒だ!」
黒豆の艶やかな甘み、栗きんとんの濃厚な粘り、そして伊達巻のふんわりとした食感。
ポイントを惜しみなく投入した甲斐があった。村人たちの笑顔と驚愕の表情こそが、何よりの報酬だ。
◇
そして宴の締めくくりは、やはり『お雑煮』だ。
カツオと昆布で取った澄んだ一番出汁に、焼いた餅、鶏肉、小松菜、そして彩りのナルト(これもポイント製)を浮かべ、柚子の皮を散らす。
「……はぁぁぁ……。落ち着く……」
俺は漆塗りの椀を両手で包み、温かい出汁を一口すすった。
派手なご馳走もいいが、最後はやはり、この優しい出汁の香りに戻ってくる。
「……ルークス殿。この白い塊(モチ)、美味すぎる。幾らでも入るぞ。……んぐっ!? ぐ、ぐふっ!!」
見ると、公爵が焦って餅を噛まずに飲み込み、喉に詰まらせて白目を剥いている。
顔色が青から紫に変わっていく。
「公爵!? だから言ったでしょう、餅はよく噛んで食えと! 餅を甘く見ると死にますよ!」
俺は慌てて公爵の背中に回り、ハイムリック法で鳩尾(みぞおち)を突き上げた。
スポーンッ!
公爵の口から、白い餅の塊が砲弾のように飛び出し、テーブルの上の空き皿に収まった。
「げほっ、ごほっ……! はぁ、はぁ……! 死ぬかと思った……! 三途の川で、先祖が餅をついているのが見えたぞ……。だが……それでも美味かった……!」
「懲りない人だな……」
俺は空中に浮かぶシステムウィンドウを閉じ、雪晴れの空を見上げた。
ポイントは大幅に減った。だが、この公爵の笑顔(と窒息顔)と、騒がしい日常は、金貨を積んでも買えない。
また一年、美味しいものを食べるために、せっせと農業に励み、ポイントを稼ぐとしよう。
リーフ村の新年は、餅の粘りのように、長く、そしてしつこく、楽しく続いていくのだった。
---
**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百四十四話、いかがでしたでしょうか?
今回は久々に「農業ポイントシステム」が大活躍しました。
おせちや餅米、そして輪島塗の重箱など、異世界にないものは「課金(ポイント)」で解決。
これぞ現代知識チート農家の真骨頂であり、ルークスの財力(ポイント力)の証明です。
公爵も餅の粘りと食感に感動し(そして詰まらせ)、フィオナも白いスライムの虜になりました。
皆様も、お餅を食べる際は喉に詰まらせないよう、よーく噛んでくださいね!
さて、正月が終われば、次は寒い冬を乗り切るための「あの鍋料理」の出番でしょうか?
「お餅食べたくなった!」「ポイントの使い方が豪快w」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の応援が、ルークスのポイント残高を回復させます!
次回、第二百四十五話――「極寒の夜。石狩鍋と、鮭の遡上」。お楽しみに!
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