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第二百六十九話:雷鳥の巣へ。15万ポイントの避雷針と、究極のオムレツ作り
しおりを挟むズドォォォォォォォンッ!!
鼓膜を破るような轟音と共に、視界が真っ白に染まった。
天空の浮島、その最上層にある巨大な「雲の巣」。
そこに鎮座する伝説の幻獣、天空の守護者【雷鳥(サンダーバード)】が、不敬な侵入者である俺たちに向けて、最大出力の雷撃ブレスを放ったのだ。
「主よ! これはまずいぞ! 直撃すれば黒焦げだ! いや、灰も残らん!」
フェンが俺の前に飛び出し、風の防御障壁を展開する。
だが、相手は神話級の雷だ。数億ボルトの電圧と、物理的な衝撃波を伴う雷撃の前では、フェンの結界も薄紙のように頼りない。
バリバリバリッ! という音と共に、結界に亀裂が走る。
その隙間から漏れ出した電流が、空気を焼き焦がし、独特のオゾン臭を撒き散らしている。
「くっ……! なんて威力だ! これが空の王者の力か!」
俺たちの狙いは、雷鳥の足元にある「黄金の卵」。
だが、近づこうにも、この高電圧の嵐の中では一歩も進めない。
空気が帯電し、肌がチリチリと焼けるような感覚がある。髪の毛が逆立ち、呼吸をするたびに肺が痺れるようだ。
ガリウス所長も杖を掲げて防御魔法を展開しているが、顔色が悪い。
「ルークス君! 撤退だ! この雷は魔法防御を貫通する『神雷』だ! 人間が耐えられる代物ではない!」
「撤退……?」
俺は奥歯を噛み締めた。
ここで逃げれば、命は助かる。
だが、それは同時に『雷鳥の卵』という伝説の食材を諦めることを意味する。
あの文献に書かれていた、カスタードのような黄身。口の中で雲が溶けるような食感。
それを味わわずに、地上に帰れるか!
一生、「あの時逃げなければ、最高のオムレツが食えたのに」と後悔して生きるのか!
(それは嫌だ。絶対に嫌だ。食い物の恨みと後悔は、死ぬまで続くんだ!)
「フェン、下がってろ。ガリウスさんもだ。……ここは『投資』の時間だ」
俺は雷撃の轟音に負けない声で叫び、虚空をタップしてシステムウィンドウを開いた。
ためらっている暇はない。俺の目的は、卵を無傷で手に入れること。戦闘の余波で卵が割れてしまっては、何の意味もないのだ。
ならば、買うべきアイテムは一つ。
俺は「防災・災害対策」カテゴリの奥深くにある、とっておきのアイテムを選択した。
【対雷災害用・魔導避雷針キット(業務用・神話級)】
【価格:150,000pt】
15万ポイント。
日本円にして1500万円クラス。王都の一等地に家が建つ値段だ。
一瞬、指が震えた。15万あれば、最高級の肥料が山ほど買える。新しい農具も揃えられる。
俺の貧乏性が「やめとけ、高いぞ」と囁く。
だが、俺は農民であると同時に、投資家(ポイ活ユーザー)だ。
この卵の市場価値は測定不能。もし売れば、国が買えるほどの値がつくだろう。
そして何より、「未知の味覚」というプライスレスな価値。
15万ポイントで、その体験が買えるなら――安いものだ。
未来の食卓への投資だ。実質無料、いや、感動という形でお釣りが来る!
「ポチッとなァッ!!」
チャリンッ♪
(軽快かつ重みのある決済音)
「喰らえ! 文明の利器(アース)!!」
俺はアイテムボックスから取り出した巨大な金属の槍――避雷針を、地面(雲の床)に突き刺した。
ズドンッ!
瞬間、避雷針の先端がパラボラアンテナのように展開し、複雑な魔法陣が幾重にも輝きだした。
同時に、極太のミスリルチェーンがシュルシュルと伸び、雲海の下、遥か彼方の大地へと向かって垂れ下がっていく。
バチチチチチチッ!!!
雷鳥が放った二発目の極大雷撃が、俺たちを直撃する寸前、まるで強力な磁石に吸い寄せられるように、不自然に軌道を曲げた。
青白い閃光が、避雷針の先端に直撃する。
ドゴォォォォン!!
だが、爆発は起きない。
俺たちの周囲で、雷が渦を巻き、全て一点に吸い込まれていく。
ヒュンッ……!
雷の膨大なエネルギーは、避雷針内部の魔導コンバーターで瞬時に無害な魔力へと変換され、ミスリルチェーンを通じて遥か下層の雲海へと逃がされていく。
いわゆる「アース(接地)」だ。
科学的アースと、魔力的アースのハイブリッド。これぞポイントショップの叡智。
「なっ……!?」
雷鳥が、信じられないものを見る目で目を丸くした(ように見えた)。
自分の最強の攻撃が、ただの鉄の棒に吸われ、無効化されたのだから無理もない。
首を傾げ、「クルックー?」と間抜けな声を出している。
「科学の力と魔法の融合だ。この避雷針は、半径1キロの雷を強制的に誘引し、無害化して地中(アース)へ逃がす! 電気ってのはな、高いところから低いところへ、そして地面へ還るのが一番好きなんだよ!」
俺は避雷針の横で仁王立ちした。
周囲ではまだ放電現象が起きているが、避雷針の結界内は完全な安全地帯だ。
ガリウス所長が、避雷針に駆け寄り、興奮して叫んだ。
「す、凄い! 雷属性の魔力を中和し、物理的に逃しているのか!? こんな魔導具、古代遺跡にも存在しないぞ! ルークス君、あとで分解させてくれ!」
「分解したら15万ポイントがパァになるんでダメです」
「キェェェェッ!?」
雷鳥が焦って連射するが、全ての雷が避雷針に吸い込まれていく。
俺は悠々と歩を進めた。
さあ、防御は完璧だ。次は「交渉」だ。
俺は農民だ。畑を荒らす害獣は駆除するが、有益な家畜や、取引相手とは共存を望む。
卵を奪って逃げる泥棒にはなりたくない。
それに、こんな強力な幻獣を敵に回すより、餌付けして味方につけた方が、今後の「天空農業」にとっても有益だ。
俺はアイテムボックスから、とっておきの「切り札」を取り出した。
昨日、深海で手に入れたばかりの、あの食材だ。
「おい、デカイ鶏! 無駄な喧嘩はやめようぜ。俺は卵が欲しいだけだ。……代わりに、もっと美味いモンをやるから」
ドサッ。
俺が地面に置いたのは、巨大な【黄金マグロの大トロブロック(50キログラム)】だ。
太陽の光を受けて、霜降りの脂が宝石のように輝き、常温で溶け出した脂が甘い香りを漂わせている。
その断面は、芸術品のように美しい。
ピタリ。
雷鳥の動きが止まった。
怒りに燃えていた鋭い眼光が、俺ではなくマグロに釘付けになる。
ヒクヒクと鼻(くちばし)を動かし、その芳醇な脂の香りを嗅ぎ取ったようだ。
空の王者といえど、普段食べているのは硬い空の魔物や、味気ない雲くらいだろう。
こんな脂の乗った極上の魚肉など、見たこともないはずだ。
喉がゴクリと鳴る音が聞こえた気がした。
「……食ったことないだろ? 深海の王様の味だ。お前の卵一個と交換なら、悪くない取引だと思うが?」
俺は一歩下がって、どうぞ、というジェスチャーをした。
雷鳥は俺とマグロを交互に見比べ……警戒しつつも、本能(食欲)に抗えなかった。
バサリと舞い降り、マグロを一口啄(つい)ばむ。
……ハムッ。
――カッッッ!!!
雷鳥の全身の黄金の羽毛が、ボワッと逆立った。
あまりの美味さに衝撃を受けたのか、目を白黒させ、喜びのさえずりを上げて、夢中でマグロを貪り始めた。
ガツガツと啄むたびに、幸せそうな金色のオーラが出ている。
チョロい。やはり、美味いものは種族の壁も、敵対関係も超えるのだ。
その隙に、俺は巣の中にある「黄金の卵」へと近づいた。
直径30センチ。ダチョウの卵よりも大きい。
ずっしりと重く、殻の表面には微弱な電流が走り、ほんのりと温かい。命の鼓動を感じる。
【鑑定完了:雷鳥の黄金卵(UR)】
【市場価格:測定不能(国家予算規模)】
【鮮度:極上(産みたて)】
【状態:有精卵(魔力活性化状態)】
【食味値:SSS(神の味覚)】
「よし……! 15万ポイントの元は取れたぞ! いや、それ以上だ!」
俺は心の中でガッツポーズをした。
雷鳥の方を見れば、マグロを完食し、満足げに羽繕いをしている。
チラリとこちらを見たが、「まあ、あの美味い肉の代金なら卵の一つくらいくれてやるか」といった風情で、攻撃してくる気配はない。
完全なウィンウィンの関係成立だ。
◇
数分後。
俺たちは雷鳥の巣から少し離れた、見晴らしの良い浮島の端まで移動し、早速「調理」を開始した。
手に入れたばかりの至高の食材を、その場で食す。これぞ冒険者の特権だ。
目の前には雲海が広がり、最高のロケーションだ。
もちろん、作るのは――。
「究極のオムレツだ」
俺は簡易コンロを設置し、大きめのアダマンタイト製フライパンを熱した。
バターをひとかけら落とす。
ジュワァ……と溶けたバターが、芳醇な香りを放ち、泡立つ。
そして、黄金の卵を割る時が来た。
俺はボウルの縁で、慎重に殻を叩いた。
コンッ。
パカッ。
バチチッ!
殻を割った瞬間、静電気が弾け、中からとろりとした液体が滑り落ちた。
白身はクリスタルのように透明で輝いている。
そして黄身は……。
「うわぁ……!」
マキナが声を漏らす。
噂通り、いやそれ以上に、濃厚なカスタードクリームのような粘度と、太陽を煮詰めたような濃いオレンジ色をしている。
甘い香りが漂う。生卵なのに、もうプリンのような完成されたバニラの香りがする。
「す、すごい……。これ、本当に卵ですの? お菓子の材料みたいですわ!」
「主よ、早く! 早く焼いてくれ! 我慢できん! 胃袋が限界だ!」
エレナ様とフェンが涎を垂らして身を乗り出す。
俺は手早く卵を溶きほぐした。
箸に絡みつくような弾力。白身と黄身が混ざり合うと、黄金色のクリームになった。
塩と胡椒を少々。余計な味付けはいらない。卵そのもののポテンシャルを信じる。
俺は卵液を一気に熱したフライパンに流し込んだ。
ジュワァァァァ……!
甘く、香ばしい、暴力的なまでの香りが立ち上る。
俺は菜箸を高速で動かし、卵を攪拌する。
火を通しすぎないのがコツだ。半熟のトロトロ状態を維持しつつ、手首の返しで形を整えていく。
表面はツヤツヤ、中はトロトロの、完璧なラグビーボール型。
フライパンをトントンと叩き、皿の上へ転がす。
プルンッ。
皿の上で、黄金の塊が揺れた。
仕上げに、先ほど収穫した【天空トウモロコシ】の粒と、生クリーム、コンソメで作った「特製コーンクリームソース」をたっぷりと回しかける。
黄色い卵に、クリーム色のソース。見ただけでわかる、カロリーと幸福の塊。
「完成だ! 『雷鳥の極上オムレツ・天空コーンソースがけ』!」
黄金色の海に浮かぶ、黄金の島。
俺はナイフを入れた。
スッ……。
とろぉ~り……。
切れ目から、半熟の卵が黄金の溶岩のように溢れ出した。
湯気と共に立ち上る甘い香り。
その圧倒的なシズル感に、全員がゴクリと喉を鳴らす。
「い、いただきます!」
スプーンで掬い、口に運ぶ。
……パクッ。
一口食べた瞬間。
俺の口の中で、優しい雷が落ちた。
「んんんっ!? な、なんだこの食感は!」
ふわふわの食感の後、舌の上でパチパチと弾けるような心地よい刺激。
それは炭酸のような爽快感であり、濃厚な黄身の甘みを引き締める最高のスパイスだった。
卵自体の味が濃い。まるで上質なチーズや生クリームを食べているかのようだ。
そこに、天空トウモロコシのソースが絡む。
コーンの爆発的な甘みと、卵のコク。
口の中で、雲と太陽と雷がダンスをしているようだ。
「あまーい! 濃厚ですわ! それなのに、このパチパチ感が癖になります! 口の中が遊園地みたいです!」
「コーンのソースがまた絶品じゃ! 卵のコクと、トウモロコシの甘みが、口の中で喧嘩せず手を取り合っておる! これは飲み物だ! いくらでも入るぞ!」
ガリウス所長も涙目で絶賛し、皿まで舐める勢いだ。
フェンは一瞬で飲み込み、「おかわり!」と叫んでいる。
俺もスプーンが止まらなかった。
15万ポイントの避雷針も、黄金マグロとの交換も、全てはこの一口のためにあったのだ。
やはり、俺の「投資」に間違いはなかった。食への執念が勝ったのだ。
「ふぅ……。最高だったな」
完食し、至福の満腹感に浸る俺たちの前に、ふわりと甘い香りの風が吹いた。
見上げれば、頭上にピンク色のふわふわした雲が流れてきている。
「あれは……」
【鑑定:雲の綿飴(クラウド・コットン)】
【状態:食べ頃(イチゴ味?)】
「デザートの時間だな」
俺はニヤリと笑った。
メインディッシュの次は、空飛ぶスイーツだ。
空の旅は、まだまだ俺たちの胃袋を満たしてくれそうだ。
さあ、次はあの雲をちぎって食べに行こうか。
【読者へのメッセージ】
第二百六十九話、いかがでしたでしょうか。
雷鳥の雷撃を「ポイント(避雷針)」で無効化し、マグロで餌付けする。
まさにルークスらしい、金と食欲に物を言わせた攻略法でした。
そして、究極のオムレツ。
ナイフを入れた瞬間にとろけ出す半熟卵、パチパチ弾ける食感、そしてコーンソースの甘み……。
書いていて、無性に卵料理が食べたくなりました。
さて、次回はデザート編!
空に浮かぶ「甘い雲」とは一体?
そして、この浮島にはまだ秘密があるようで……?
続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をお願いします!
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