異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第27話 砂糖の消えた街と、黄金のカステラ (27-2)

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翌朝。
『木漏れ日の食卓亭』の厨房は、これまでにないほどの熱気に包まれていた。
俺の前に、十数人の若き料理人たちが、緊張した面持ちで、整列している。

「いいか、皆。今から作る『カステラ』という菓子は、シンプル故に、一切の嘘が通用しない。ごまかしのきかない、料理人の魂そのものが、試される一皿だ」

俺の言葉に、若者たちが、ごくりと喉を鳴らす。
その中で、一番弟子のレオだけが、腕を組み、挑戦的な視線を俺に向けていた。

「日向さん。失礼ですが、一つ、よろしいでしょうか」
「なんだ、レオ」
「砂糖も使わずに、最高の菓子など、作れるはずがありません。菓子にとって、甘みは命。それを代替品で補おうなど、本物の料理人がすることではない。邪道です」

彼の、若さゆえの、しかし純粋なプライドに満ちた言葉。
俺は、怒るどころか、少しだけ嬉しくなった。こいつは、本気だ。

「いいだろう、レオ。俺が、お前のその常識を、覆してやる」
俺は、大きな木のボウルに、山のような卵を割り入れながら、語り始めた。
「カステラっていうのはね、元々は、俺の故郷に、遠い南の国から商人が伝えた、異国の焼き菓子だったんだ。でも、俺の故郷の職人たちは、ただ真似するだけじゃなかった。自分たちの国の素材と、独自の技術で、それを何百年もかけて改良し続けて、全く新しい、**世界でここにしかない、特別な菓子へと『進化』させた**んだ」

俺は、泡立て器を手に取った。
「この菓子の材料は、驚くほどにシンプルだ。卵、粉、そして甘み。それだけ。じゃあ、このふわふわで、しっとりとした奇跡の食感は、どこから来るのか? それは、**ひたすら卵を泡立て続ける、職人の『技術』と『根気』**なんだ。高価な材料に頼るんじゃない。目の前にある素材の力を、己の腕だけで最大限に引き出す。これこそが、料理人が起こせる、最高の魔法なのさ」

俺は、無心で、卵を泡立て始めた。
最初は、ただの液体だったものが、少しずつ、空気を孕み、白く、きめ細かく、リボン状に垂れ落ちるほどの、完璧な生地へと変わっていく。
その、一切の無駄のない、しかし、愛情に満ちた所作に、レオを含む、全ての若者たちが、息を呑んで見入っていた。

だが、最高のカステラには、最高の甘みが必要だった。
街に、砂糖はない。

「きゅいいいん!」

その時だった。
厨房の裏口から、モグモグが、誇らしげに、一つの古い木の樽を、転がしてきた。
樽の栓を抜くと、中から、黄金色に輝く、とろりとした液体が、姿を現した。
蜂蜜のように濃厚で、花の蜜のように芳醇な香りを放つ、幻の樹液**『黄金の雫(おうごんのしずく)』**。

「……ははっ。最高の相棒が、最高の『進化の歴史』を、持ってきてくれたみたいだな」

俺は、その奇跡の甘味料を、泡立てた卵の生地に、そっと加えていく。
そして、木の枠に流し込み、カマドの中へ。
あとは、職人の経験だけが頼りの、絶妙な火加減で、じっくりと焼き上げるだけ。
厨房は、卵と、奇跡の樹液が焼ける、これまで誰も嗅いだことのないような、気高く、そして優しい香りに、満たされていった。
それは、逆境の中から生まれる、新しい希望の香りだった。

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