異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第33話 幕間・鍛冶師の火種

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夜。
焚き火の最後の熾火(おきび)が、ぱちり、と静かな音を立てた。
仲間たちが寝静まった後も、わし、ボルギンは一人、膝の上に置いた愛用の戦斧(せんぷ)を、ただ黙って見つめていた。
腹の底には、まだ、あの『ほうとう』とかいう煮込み料理の、確かな熱が宿っている。

(……馬鹿げている)

心の内で、そう呟く。
あの若き料理人――日向耕介が、わしらの『苦ガシの実』を手に取った時、わしは、心の底から、侮っていた。
あれは、食い物などではない。
石のように硬く、薬のように苦い、ただの栄養の塊。わしらドワーフでさえ、生きるか死ぬかの瀬戸際で、仕方なく口にするだけの、最後の手段。
そんなものを、どうこうできるはずがない、と。

だが、あの男は、違った。

『発酵という、時間を味方につける魔法がある』

彼は、そう言った。
そして、わしの目の前で、あの石ころを、砕き、混ぜ、火のそばで寝かせ、信じられないほどに、深く、温かい旨味を持つ『味噌』とかいう、黄金色の調味料へと、変えてみせたのだ。

あれは、魔法ではない。
わしには、分かる。あれは、**『技術』**だ。
素材の声を聞き、その性質を理解し、最高の形へと昇華させる。
それは、わしら鍛冶師が、鉄と向き合う仕事と、何一つ、変わりはしなかった。

そして、あの一杯。
無骨で、合理的で、腹の底から力がみなぎる、あの『ほうとう』。
あれは、ただの煮込み汁ではない。
過酷な状況で、仲間を生かすための、知恵と工夫が詰まった、まさに**『戦士の料理』**だった。

(……『魂を喰らう料理人』、か)

神託は、正しかった。
だが、その意味を、わしは、履き違えておった。
奴は、魂を喰らうのではない。
**冷え切った魂に、再び、火を灯すのだ。**
まるで、最高の鍛冶師が、なまくらに、新しい焼き入れをするようにな。

わしは、固く、拳を握りしめた。
その手には、もう、諦めも、絶望もない。
あるのは、一つの、確かな希望だけだ。

故郷は、まだ、終わっていない。
あの男さえいれば。
あの、わしらドワーフでさえ持て余していた素材から、奇跡の味を生み出すほどの、『知識』と『技術』を持つ、あの「魂の鍛冶師」さえ、いてくれれば。

わしは、静かに立ち上がると、故郷のある、西の山脈を、見据えた。
その、黒くそびえ立つシルエットの向こうで、同胞たちが、消えかけた炎を前に、絶望している姿が、目に浮かぶ。

待っていろ、同胞たちよ。
今、わしが、最高の「火種」を、お前たちの元へ、持ち帰ってやるからな。
わしらの、鋼の魂を、もう一度、赤々と燃え上がらせるための、最高に熱い、希望の火種を。
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