異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第57話 冬風邪と、滋養の参鶏湯 (57-2)

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厨房は、いつものような活気ではなく、薬草を調合する薬師の工房のような、厳かで、清浄な空気に満ちていた。調理台の上には、丸ごとの若い鶏が、ずらりと並べられている。

「師匠…これから、何を作るのですか?」
レオが、真剣な眼差しで尋ねる。
「**『参鶏湯(サムゲタン)』**だ」
俺は、鶏の腹を丁寧に洗いながら、最後の授業を始める。
「これは、私の故郷で、厳しい季節を乗り越えるために食べられてきた、祈りのスープだ。鶏の腹の中に、滋養のある食材を詰め込んで、じっくり煮込む。弱った体に、生命力そのものを、優しく注ぎ込むための料理なのさ」

だが、参鶏湯の心臓部である、高麗人参が、この世界にはない。
「モグモグ、頼んだぞ」
俺が、弱々しく咳をするリリィアの姿を見せながら、そう頼むと、モグモグは「きゅいん!」と力強く鳴き、一陣の風となって厨房を飛び出していった。

数時間後、モグモグが咥えて帰ってきたのは、伝説の食材ではない。山に自生する、ゴツゴツとした、ありふれた木の根だった。
「こいつは…『陽だまりの根』じゃないか!」
手伝いに来てくれていた街の薬師が、驚きの声を上げた。「滋養強壮に効くんだが、苦味と土臭さが強すぎて、とてもじゃないが、食用には…」
人々が「厄介者」と見なす、その木の根。俺は、それを手に取り、静かに言った。
「これこそが、最高の宝物です」

俺は、弟子たちに、その根を丁寧に洗い、米や、ドワーフの国で分けてもらったナッツと共に、鶏の腹に詰めさせていく。
「いいか、よく聞け。この根が持つ『苦味』こそが、薬効の源だ。そして、この苦味は、米の甘みや、鶏自身の旨味と共に、何時間も、何時間も、優しく煮込むことで、やがて、深いコクと、心地よい香りへと**『変容』**する。これは、料理という名の、錬金術なのさ」
それは、まさに「価値の転換」。俺が、弟子たちに、最も伝えたかった哲学だった。

大きな寸胴鍋に、下準備を終えた鶏を、そっと沈めていく。ひたひたの水を加え、火にかける。最初は強火で、アクを丁寧に取り除き、その後は、ただひたすらに、弱火で、コトコトと、時間をかけて煮込んでいくだけ。
厨房は、鶏の優しい香りと、『陽だまりの根』が放つ、少しだけ薬草に似た、清らかで、力強い香りに満たされていった。

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