異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

文字の大きさ
291 / 293

第73話 師なき厨房と、“故郷の味”の探求 (73-3)

しおりを挟む
師なき厨房。モグモグの、あまりにも残酷なまでに正直な審判。その前に、俺たち弟子が作り上げた野心作『大陸漫遊プレート』は、ただの美しいだけのガラクタと化した。
厨房は、冷たい、重い沈黙に支配されていた。若い弟子たちの中には、うつむいたまま静かに涙を流す者さえいる。
俺、レオ自身もまた、膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えていた。どうすればいい?
何が、間違っていた?

その凍てついた空気を破ったのは、意外な一言だった。
「…腹、減らねえか?」
声の主は弟子の一人だった。「最高の料理を作る前に、俺たちが腹ぺこじゃ話にならねえだろ」
その、あまりにも単純で根源的な言葉に、俺ははっとさせられた。そうだ。俺たちは、頭でっかちになりすぎていた。

俺は静かに立ち上がった。「皆、行くぞ」
「え…?
どこへです、レオさん?」
「決まってるだろ。俺たちの、腹と、空っぽになった魂を満たしてくれる最高の食材を探しにだ。俺たちは、厨房に籠っているから道を見失うんだ。もう一度、この街の『声』を、聞きに行こう」

俺たち弟子が、街へと駆け出していく。その光景を、**『木漏れ日の食卓亭』の二階の窓から、師である日向耕介が、そっと見守っていたことを、俺たちはまだ知らない。**その顔には、我が子の初めてのお使いを見守る親のような、心配と、そして、それを遥かに上回る、誇らしさと、信頼の光が浮かんでいた。彼は、何も言わずに、ただ、静かに、俺たちの背中を見送っていた。

俺たちが最初に向かったのは、漁師のギルさんの船だった。
「馬鹿野郎!
ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ。腹が減ったら、これを食う。ただ、それだけだろ!」
そう言うと、彼は、網にかかった一番威勢のいい魚を、数匹、俺たちの籠に無造作に放り込んでくれた。

次に向かったのは、パン職人のクラウスさんの工房。
「…わしも、昔はそうだった」彼は静かに言った。「最高のパンとは、最高の技術と素材からしか生まれんと。だが、日向殿に教わった。わしのパンを本当に完成させてくれるのは、食べる相手の『美味しい』という、笑顔なのだと」

そして、最後に訪れたのは、豆腐職人のゲンさんの店だった。店先にはもう行列ができている。彼は、俺たちの顔を見るなり、何も言わずに、出来立てのまだ温かい湯豆腐を一杯、差し出してくれた。
その、あまりにも優しく、そして深い、大豆の味。
その時、俺は、ようやく、気づいたのだ。(…そうだ。ギルさんの魚も、クラウスさんのパンも、ゲンさんの豆腐も、バラバラに輝かせるんじゃない。この、俺たちを育ててくれた、全ての温かさを、一つの器で、優しく、優しく、包み込んでやるんだ。まるで、この街そのもののように…!)
俺たちが作るべき料理の、その確かな輪郭が、目の前に、はっきりと見えた。

港町に戻った俺は、厨房で仲間たちに宣言した。
「…分かったぞ、皆。俺たちが、作るべき一皿が」
俺の瞳には、もう迷いはなかった。
「俺たちが作るのは、ドワーフの料理でも、エルフの料理でもない。ギルさんの魚、クラウスさんのパン、そして、ゲンさんの豆腐。この、俺たちを育ててくれた職人たちの魂を、一つの器に閉じ込めた、最高の**『ポットパイ』**だ!」
それは、それぞれの食材が互いの良さを殺し合う、あの『大陸漫遊プレート』とは全く違う。港町の全ての職人たちの魂が、一つのパイの中で互いを尊敬し、支え合い、そして一つの温かい家族となる。
その、あまりにも温かく、そして力強い答えに、弟子たちの目に、再び、希望の光が、力強く、灯った。

【作者より】
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになっています。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...