異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第8話 美食の女王と、思い出のプリン (8-2)

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モグモグが旅立ってから、半日。
俺は厨房で、プリン作りの準備を始めていた。
まずは、カラメルソース作りからだ。鍋に砂糖と少量の水を入れ、火にかける。

「日向さん、お砂糖が茶色くなってきた……! いい匂い!」
「リリィアちゃん、ここからが勝負だ。焦がしすぎれば苦くなるし、足りなければ香ばしさが出ない。この一瞬を見極めるんだ」

鍋の中の砂糖が、美しい琥珀色に変わった瞬間、俺は火から下ろし、少量の熱湯を加えた。ジュワッ!という激しい音と共に、甘く香ばしい香りが立ち上る。これを、プリンカップの底に流し込んでいく。

「わあ、綺麗……! まるで宝石みたい」
「だろ? プリンの楽しみは、まずこのカラメルのほろ苦さから始まる。甘いだけじゃない、少しだけ大人の味。これが、後から来るカスタードの優しい甘さを、ぐっと引き立ててくれるんだ」

次に、カスタード液作りだ。
ボウルに卵黄と砂糖を入れ、白っぽくなるまで丁寧に混ぜ合わせる。そこへ、温めた牛乳を少しずつ加えていく。

「どうして、温めた牛乳を少しずつ入れるの?」
「いい質問だ、リリィアちゃん。冷たい牛乳を一気に入れると、卵と砂糖がびっくりして、なめらかに混ざってくれないんだ。それに、熱すぎると卵が固まって、炒り卵になっちまう。人肌くらいの温かさで、『大丈夫だよ、怖くないよ』って、優しく語りかけるように混ぜてあげるのがコツさ」

俺の言葉に、リリィアは「お料理って、優しい気持ちが大事なんだね」と、にっこり笑った。

全ての材料が混ざり合ったカスタード液を、目の細かい布で、丁寧に濾していく。
「このひと手間が、奇跡のなめらかさを生むんだ。料理に、近道はないからな」

全ての準備が整った。
あとは、主役である「卵」の到着を待つだけだ。
日が傾き始め、リリィアがそわそわし始めた、その時だった。

「きゅ……きゅい……!」

店の裏口から、泥だらけになったモグモグが、ふらふらになりながら転がり込んできた。
その口には、傷一つない、美しい黄金色の卵が、大切そうに咥えられていた。

「モグモグ! よくやったな!」

俺はモグモグを抱き上げ、その奮闘を讃えた。卵を受け取ると、ずしりと温かい生命の重みが、手に伝わってくる。
殻の表面が、まるで太陽の光を閉じ込めたかのように、淡く輝いている。

「これが……太陽鶏の卵……」

リリィアが、ごくりと喉を鳴らす。
俺は、その卵を慎重にボウルに割り入れた。
その瞬間、俺もリリィアも、思わず息を呑んだ。

卵黄が、まるで溶かした黄金のように、濃厚で、力強い輝きを放っている。
普通の卵とは、生命力が全く違った。

俺は、その黄金の卵黄を、先ほどのカスタード液にそっと混ぜ合わせた。
すると、ただのクリーム色だった液体が、夕焼けのような、温かく、そして優しい黄金色へと変わっていく。

「……すごい……」

もはや、言葉は不要だった。
この卵には、物語がある。モグモグの冒険と、太陽の恵みと、そして、これから生まれる奇跡の物語が。

俺は、完成したプリン液を、カラメルソースを入れたカップに、そっと注いでいく。
お湯を張った天板に乗せ、カマドの中へ。あとは、低温で、じっくりと火を通すだけ。

「美味しくなれよ」

俺は、カマドの扉を閉めながら、静かに呟いた。
それは、食材への感謝と、これから待つ挑戦者への、俺なりの宣戦布告だった。

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