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陰キャに優しいギャルなんて存在しない……はずだった!? 〜付き合い始めたら毎日が過剰デレのオーバーキル〜
第1話:恋人繋ぎは核爆弾と同じ威力 〜甘すぎる彼女の先制攻撃〜
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午前七時三十分。
俺、佐藤湊(さとう みなと)は、自分の部屋の鏡の前で、不審者のように自分の顔を凝視していた。
「……夢じゃないよな。寝ぼけてアニメの最終回を自分に都合よく脳内変換したわけじゃないよな?」
頬を抓れば痛い。昨日、コンビニで買ったパンのレシートも財布にある。そして何より、カバンの中には、あの日、学園祭のステージで彼女から貰った「お礼のキーホルダー」が、鈍い光を放ちながら鎮座している。
一週間前。俺は全校生徒の前で、クラスの頂点に君臨するギャル、瀬戸結衣(せと ゆい)に、文字通り命懸けの告白めいた叫びをぶち上げた。そして彼女は、涙を流しながら俺を抱きしめてくれた。
客観的事実に基づけば、俺たちは今、「付き合っている」。
……はずなのだが。
(いや、待て佐藤。落ち着け。これは巧妙な『アフターケア・ドッキリ』ではないのか? 告白を受け入れたフリをして一週間泳がせ、俺が最高潮に浮かれたところで『あの学園祭のノリ、マジできつかったよねーw』と、特大の爆弾を落とす……。そう、ギャルの世界には『情けの交際』という名の、より残酷な地獄が存在する可能性がある!)
俺の脳内にある「ギャル・セキュリティ・システム」は、正式な交際が始まったというのに、未だにイエローカードを出し続けていた。むしろ、幸せになればなるほど、その反動で訪れる絶望への恐怖が指数関数的に増大している。
俺は「今日こそは、現実を突きつけられる日だ」と、戦場に向かう歩兵のような覚悟で家を出た。
学校までの道のり、俺はあえて結衣との連絡を絶っていた。
返信が来ないのが怖いのではない。もし、いつも通りの「おはよう!」という明るいメッセージが届いてしまったら、俺の脆弱な心臓が学校に着く前に停止してしまうからだ。
校門が見えてくる。
いつも通り、不審な挙動で周囲を伺いながら歩を進める俺の視界に、それは「光の暴力」となって現れた。
「あ! 湊くーん! おはよーっ!!」
校門の横、桜の木の下で、誰かを待っていた様子の少女が、弾けるような笑顔でこちらに手を振っている。
瀬戸結衣だ。
朝の爽やかな日差しを浴びて、彼女のミルクティー色の髪が黄金色に輝いている。その姿は、あまりにも完成されたヒロインすぎて、網膜が焼き切れそうだ。
(……湊くん。湊くんと呼ばれた。幻聴じゃない。そして、あんなに嬉しそうに駆け寄ってくる。……待て。あれは『全校生徒のヘイトを俺に集中させ、登校早々に刺客を送るための合図』か!?)
俺の脳が必死に「罠」の証拠を探そうとする中、結衣は猛烈な勢いで俺の目の前までやってくると、ブレーキをかけることなく、そのまま俺の右腕にガシッと抱きついた。
「遅いよー! 十分も待っちゃったんだから!」
「……っ!? せ、瀬戸……じゃなくて、結衣さん! 近い、近すぎます! 物理的な距離感がバグを起こしている! このままでは僕のパーソナルスペースが圧縮されてブラックホールが形成されます!」
「もー、湊くんってば、朝から語彙力が渋滞してるよ。あと、結衣『さん』も禁止。呼び捨てでいいって、昨日も一昨日も言ったじゃん」
結衣は俺の二の腕に胸を押し当てるようにして、むぎゅっと抱きつきを強化した。
……柔らかい。そして、甘い香水の匂い。
脳内セキュリティが「警告! 警告! 物理的攻撃により思考回路がショートしました。直ちに緊急停止します」と白旗を揚げた。
「……呼び捨てなんて、口が裂けても言えません。僕の舌が、君のような高貴な名前を呼ぶことに拒絶反応を示しているんです」
「あはは、本当面白いなあ。……ねえ、湊くん。今日から、これで行こ?」
結衣が、抱きついていた腕を離した。
ホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間、今度は彼女の細い指が、俺の右手の指の間に、ぐいぐいと入り込んできた。
「…………えっ」
指と指が、完全に噛み合う。
いわゆる「恋人繋ぎ」。あるいは「インターロッキング」。
陰キャの辞書には「都市伝説」と記載されているはずの、究極の親密行動。
「はい。恋人繋ぎ、完了!」
「……っ!? こ、これは……っ。なんですかこの、指と指の隙間に、僕とは別の生命体の肉体が介在しているという違和感は! これは……核爆弾のスイッチと同じ威力ですよ! 今すぐ解除しないと、僕の理性という名の安全装置が吹き飛ぶ!」
「解除しません。学校に着くまで、ずっとこのまま。……だって、私たち、恋人でしょ?」
結衣が、少しだけ首を傾けて俺を見上げる。
その瞳には、一分一秒、俺と触れ合っていたいという、恐ろしいほど純粋な「熱」が宿っていた。
それは、前作の「優しさ」を遥かに凌駕した、「過剰デレのオーバーキル」だった。
俺たちは、そのまま校門をくぐった。
すれ違う男子生徒たちの視線が、レーザー光線のように俺の背中を焼く。
「なんであいつが」
「佐藤の分際で」
「瀬戸さんと指を絡めるなんて万死に値する」
そんな無言の罵倒が、地響きのように聞こえてくる。
(……これだ。これだよ。結衣さんは、俺を公開処刑しようとしているんだ。あえて親密さをアピールすることで、俺の社会的地位をマイナス1億まで叩き落とし、最後に『あれ、全部冗談だよw』と言って、俺が一人で全校の男子からボコられるのを見物する計画なんだ……!)
俺は必死に手を離そうと、指に力を込める。
だが、結衣はそのたびに「逃がさないよ?」と言うかのように、さらに強く俺の指を握り締め、指先を俺の甲に食い込ませる。
「……湊くん、手汗、すごいよ?」
「だから言ったでしょう! 僕は今、極限の緊張状態で全身から毒素を排出しているんです! 君の綺麗な手が、僕の汚れた分泌物で汚染される!」
「汚くないよ。……湊くんが、私にドキドキしてくれてる証拠でしょ? 私は、それが一番嬉しいもん」
結衣はそう言って、絡めた手をぶんぶんと振る。
その楽しそうな様子に、俺の疑心暗鬼は徐々に力を失っていく。
演技で、これほどまでに幸せそうな顔ができるだろうか。
もしこれが罠だとしたら、彼女は世界最高の女優としてオスカーを総なめにすべきだ。
校舎に入り、下駄箱の前でようやく手は離されたが、俺の右手には、彼女の体温と、指の感触が、刺青のように刻まれていた。
授業中。
俺は必死に黒板の内容をノートに写していた。余計なことを考えないためだ。
しかし、斜め前方にある結衣の席から、度々視線が飛んでくる。
彼女は、授業を聞いているフリをして、何度も俺の方を振り返り、目が合うと「ニコッ」と、太陽のような笑顔を見せる。
(……なんなんだ。なんなんだ、あの生物は。休み時間でもないのに、視線という名の遠距離物理攻撃で僕の集中力を削りにくるとは。……あれは、僕が授業に集中できないようにして、成績を落とさせ、僕を留年に追い込むという、数年越しの長期的な罠なのか!?)
休み時間。
俺の不安をよそに、結衣は自分の椅子を抱えて俺の机までやってきた。
「はい、湊くん。休憩タイム!」
「……君の辞書には『自制』という言葉はないんですか? クラスの奴らが、こっちをヒソヒソ見てるじゃないですか」
「いいじゃん、見せつければ。……あ、もしかして、他の女の子に気を使ってるの?」
不意に、結衣のトーンが一段低くなった。
彼女は俺の机に両肘をつき、身を乗り出してくる。
「……は? 他の女の子、なんて、僕の視界には君以外、生物として認識されている存在はいませんよ」
「本当? ……さっき、後ろの席の女子と消しゴムの話してたよね」
「それは単に、落としたのを拾って……」
「ダメ。私以外の人と、そんなに親しくしちゃ。……私、すごく嫉妬深いんだからね?」
結衣の瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
それは、これまでに見せた「明るいギャル」の顔ではない。
自分だけのものにしておきたいという、剥き出しの「独占欲」。
「……嫉妬、ですか。君が、僕みたいな石ころに?」
「石ころじゃない。……私の、宝物だよ」
結衣はそう言うと、俺の耳元に顔を寄せた。
吐息が耳にかかる。全身に鳥肌が立ち、脳が溶解していく感覚。
「放課後、図書室までお迎えに行くから。……帰り道も、ずっと手、離さないでね。……大好きだよ、湊くん」
彼女はそれだけ言い残すと、満足げな顔で自分の席に戻っていった。
――結論。
陰キャに優しいギャルは、実在した。
だが、付き合い始めた後のギャルは、俺の想像を絶する「過剰デレ」の暴風雨で、俺の平穏を根こそぎ破壊しにくる特級の危険物だった。
「…………隕石、落ちてこないかな」
俺は、あまりの幸福感に対する「報い」を恐れ、空を見上げた。
しかし、窓の外はどこまでも青く、澄み渡っていた。
俺、佐藤湊(さとう みなと)は、自分の部屋の鏡の前で、不審者のように自分の顔を凝視していた。
「……夢じゃないよな。寝ぼけてアニメの最終回を自分に都合よく脳内変換したわけじゃないよな?」
頬を抓れば痛い。昨日、コンビニで買ったパンのレシートも財布にある。そして何より、カバンの中には、あの日、学園祭のステージで彼女から貰った「お礼のキーホルダー」が、鈍い光を放ちながら鎮座している。
一週間前。俺は全校生徒の前で、クラスの頂点に君臨するギャル、瀬戸結衣(せと ゆい)に、文字通り命懸けの告白めいた叫びをぶち上げた。そして彼女は、涙を流しながら俺を抱きしめてくれた。
客観的事実に基づけば、俺たちは今、「付き合っている」。
……はずなのだが。
(いや、待て佐藤。落ち着け。これは巧妙な『アフターケア・ドッキリ』ではないのか? 告白を受け入れたフリをして一週間泳がせ、俺が最高潮に浮かれたところで『あの学園祭のノリ、マジできつかったよねーw』と、特大の爆弾を落とす……。そう、ギャルの世界には『情けの交際』という名の、より残酷な地獄が存在する可能性がある!)
俺の脳内にある「ギャル・セキュリティ・システム」は、正式な交際が始まったというのに、未だにイエローカードを出し続けていた。むしろ、幸せになればなるほど、その反動で訪れる絶望への恐怖が指数関数的に増大している。
俺は「今日こそは、現実を突きつけられる日だ」と、戦場に向かう歩兵のような覚悟で家を出た。
学校までの道のり、俺はあえて結衣との連絡を絶っていた。
返信が来ないのが怖いのではない。もし、いつも通りの「おはよう!」という明るいメッセージが届いてしまったら、俺の脆弱な心臓が学校に着く前に停止してしまうからだ。
校門が見えてくる。
いつも通り、不審な挙動で周囲を伺いながら歩を進める俺の視界に、それは「光の暴力」となって現れた。
「あ! 湊くーん! おはよーっ!!」
校門の横、桜の木の下で、誰かを待っていた様子の少女が、弾けるような笑顔でこちらに手を振っている。
瀬戸結衣だ。
朝の爽やかな日差しを浴びて、彼女のミルクティー色の髪が黄金色に輝いている。その姿は、あまりにも完成されたヒロインすぎて、網膜が焼き切れそうだ。
(……湊くん。湊くんと呼ばれた。幻聴じゃない。そして、あんなに嬉しそうに駆け寄ってくる。……待て。あれは『全校生徒のヘイトを俺に集中させ、登校早々に刺客を送るための合図』か!?)
俺の脳が必死に「罠」の証拠を探そうとする中、結衣は猛烈な勢いで俺の目の前までやってくると、ブレーキをかけることなく、そのまま俺の右腕にガシッと抱きついた。
「遅いよー! 十分も待っちゃったんだから!」
「……っ!? せ、瀬戸……じゃなくて、結衣さん! 近い、近すぎます! 物理的な距離感がバグを起こしている! このままでは僕のパーソナルスペースが圧縮されてブラックホールが形成されます!」
「もー、湊くんってば、朝から語彙力が渋滞してるよ。あと、結衣『さん』も禁止。呼び捨てでいいって、昨日も一昨日も言ったじゃん」
結衣は俺の二の腕に胸を押し当てるようにして、むぎゅっと抱きつきを強化した。
……柔らかい。そして、甘い香水の匂い。
脳内セキュリティが「警告! 警告! 物理的攻撃により思考回路がショートしました。直ちに緊急停止します」と白旗を揚げた。
「……呼び捨てなんて、口が裂けても言えません。僕の舌が、君のような高貴な名前を呼ぶことに拒絶反応を示しているんです」
「あはは、本当面白いなあ。……ねえ、湊くん。今日から、これで行こ?」
結衣が、抱きついていた腕を離した。
ホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間、今度は彼女の細い指が、俺の右手の指の間に、ぐいぐいと入り込んできた。
「…………えっ」
指と指が、完全に噛み合う。
いわゆる「恋人繋ぎ」。あるいは「インターロッキング」。
陰キャの辞書には「都市伝説」と記載されているはずの、究極の親密行動。
「はい。恋人繋ぎ、完了!」
「……っ!? こ、これは……っ。なんですかこの、指と指の隙間に、僕とは別の生命体の肉体が介在しているという違和感は! これは……核爆弾のスイッチと同じ威力ですよ! 今すぐ解除しないと、僕の理性という名の安全装置が吹き飛ぶ!」
「解除しません。学校に着くまで、ずっとこのまま。……だって、私たち、恋人でしょ?」
結衣が、少しだけ首を傾けて俺を見上げる。
その瞳には、一分一秒、俺と触れ合っていたいという、恐ろしいほど純粋な「熱」が宿っていた。
それは、前作の「優しさ」を遥かに凌駕した、「過剰デレのオーバーキル」だった。
俺たちは、そのまま校門をくぐった。
すれ違う男子生徒たちの視線が、レーザー光線のように俺の背中を焼く。
「なんであいつが」
「佐藤の分際で」
「瀬戸さんと指を絡めるなんて万死に値する」
そんな無言の罵倒が、地響きのように聞こえてくる。
(……これだ。これだよ。結衣さんは、俺を公開処刑しようとしているんだ。あえて親密さをアピールすることで、俺の社会的地位をマイナス1億まで叩き落とし、最後に『あれ、全部冗談だよw』と言って、俺が一人で全校の男子からボコられるのを見物する計画なんだ……!)
俺は必死に手を離そうと、指に力を込める。
だが、結衣はそのたびに「逃がさないよ?」と言うかのように、さらに強く俺の指を握り締め、指先を俺の甲に食い込ませる。
「……湊くん、手汗、すごいよ?」
「だから言ったでしょう! 僕は今、極限の緊張状態で全身から毒素を排出しているんです! 君の綺麗な手が、僕の汚れた分泌物で汚染される!」
「汚くないよ。……湊くんが、私にドキドキしてくれてる証拠でしょ? 私は、それが一番嬉しいもん」
結衣はそう言って、絡めた手をぶんぶんと振る。
その楽しそうな様子に、俺の疑心暗鬼は徐々に力を失っていく。
演技で、これほどまでに幸せそうな顔ができるだろうか。
もしこれが罠だとしたら、彼女は世界最高の女優としてオスカーを総なめにすべきだ。
校舎に入り、下駄箱の前でようやく手は離されたが、俺の右手には、彼女の体温と、指の感触が、刺青のように刻まれていた。
授業中。
俺は必死に黒板の内容をノートに写していた。余計なことを考えないためだ。
しかし、斜め前方にある結衣の席から、度々視線が飛んでくる。
彼女は、授業を聞いているフリをして、何度も俺の方を振り返り、目が合うと「ニコッ」と、太陽のような笑顔を見せる。
(……なんなんだ。なんなんだ、あの生物は。休み時間でもないのに、視線という名の遠距離物理攻撃で僕の集中力を削りにくるとは。……あれは、僕が授業に集中できないようにして、成績を落とさせ、僕を留年に追い込むという、数年越しの長期的な罠なのか!?)
休み時間。
俺の不安をよそに、結衣は自分の椅子を抱えて俺の机までやってきた。
「はい、湊くん。休憩タイム!」
「……君の辞書には『自制』という言葉はないんですか? クラスの奴らが、こっちをヒソヒソ見てるじゃないですか」
「いいじゃん、見せつければ。……あ、もしかして、他の女の子に気を使ってるの?」
不意に、結衣のトーンが一段低くなった。
彼女は俺の机に両肘をつき、身を乗り出してくる。
「……は? 他の女の子、なんて、僕の視界には君以外、生物として認識されている存在はいませんよ」
「本当? ……さっき、後ろの席の女子と消しゴムの話してたよね」
「それは単に、落としたのを拾って……」
「ダメ。私以外の人と、そんなに親しくしちゃ。……私、すごく嫉妬深いんだからね?」
結衣の瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
それは、これまでに見せた「明るいギャル」の顔ではない。
自分だけのものにしておきたいという、剥き出しの「独占欲」。
「……嫉妬、ですか。君が、僕みたいな石ころに?」
「石ころじゃない。……私の、宝物だよ」
結衣はそう言うと、俺の耳元に顔を寄せた。
吐息が耳にかかる。全身に鳥肌が立ち、脳が溶解していく感覚。
「放課後、図書室までお迎えに行くから。……帰り道も、ずっと手、離さないでね。……大好きだよ、湊くん」
彼女はそれだけ言い残すと、満足げな顔で自分の席に戻っていった。
――結論。
陰キャに優しいギャルは、実在した。
だが、付き合い始めた後のギャルは、俺の想像を絶する「過剰デレ」の暴風雨で、俺の平穏を根こそぎ破壊しにくる特級の危険物だった。
「…………隕石、落ちてこないかな」
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