【R18】悪役令嬢の鳥籠~勘違い断罪からのヤンデレルートは、溺愛ルートへ移行しました~

あやめ。

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愛されていると錯覚。そして……

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 気怠い体で寝返りをうとうとして、身じろぐ。

 しかし体はなにかに阻まれて身動きが取れず、私は重たい瞼を開いた。

 目の前には、長い睫毛に整った顔のルドが静かに寝息を立てている。

 昨日一日のことがまるで夢だったのではないかという思いは、彼の体の温かさが夢ではないと証明していた。


「……」

 
 ふいに、ルドに触れてみたい。

 そんな衝動にかられた私は、抱きしめられている体制からもぞもぞと腕を引き抜く。

 そしてそのままルドの頬に触れた。

 確かにここに存在し、また私もここにいる。

 ただこの事態はどういうことなのだろう。

 私には確かにアーシエの記憶はない。

 しかし転移や転生というなら、そもそも他人の体に憑依するなどという現象は起きるのだろうか。

 しかも、アーシエにしか分からないはずの記憶や感覚も、少なからず、今の私の中には残っている。


「私は……」

「アーシエ?」


 ルドの瞳の中に、アーシエの顔が映る。

 自分の姿だというのに、その瞳に映るだけで心臓の音が加速する。

 この気持ちはアーシエのモノなのか、それとも私のモノなのか。

 その答えは見つからなかった。


「もう起きたのかい」

「……はい。あの、湯浴みがしたいのですが……」

「昨日、僕が体を拭いてはおいたけど。そうだね。すぐに用意するよ」


 ルドは私の額に軽くキスを落とすと、そのまま立ち上がった。

 さらりとこういうことが出来るのは、彼がこの国の人なのだからだろうか。

 キスを落とされたところが、熱を帯びているのが触れなくても分かる。

 今、鏡で自分の顔を見たら、きっと真っ赤になっているはずだ。

 思わず私は掛けていた布団を、そのまま顔にまで引き寄せる。

 なんだろう、この感覚は。

 愛や恋と呼ぶには、昨日までの関係はかなり歪だったはず。

 なのにこんなことをされると、心がどこかで期待してしまう。

 ホントは彼に愛されているのではないかと。

 彼はアーシエに固執しているだけ。

 そして私がアーシエではないと分かった時、どうするのだろう。

 そしてなにより私は……。


「アーシエ、お湯を張ったけど?」

「え、ルド様がそんなことを」


 本来ならば、メイドや使用人たちがする作業をルド自ら行うとは思っておらず、ぼーっと考えごとをしてしまっていた。


「いいんだよ。僕がやりたいんだ。君のことはすべてね」

「いえ、でも」


 そういうわけにはいかない。

 私は急いで立ち上がってルドの側に向かおうとし、自分の体に力が入らないことに気づいた。

 しかし気づいたところで、勢いよく起き上がった私はどうすることも出来ずにそのままシーツと共に倒れ込む。

 ただ激突するだろうと思っていた衝撃はなく、代わりにルドの腕が私を支えていた。


「ルド様!」

「急に立ち上がるからだよ、アーシエ。その綺麗な顔に傷でも出来たら大変だ」


 ルドはシーツごと私を抱き上げるとそのまま浴室へと歩き出した。

「るるる、ルド様っ」

「ほら、暴れると落ちてしまうよ、アーシエ。僕がしっかり洗ってあげるからね」


 にこやかなルドの表情。

 アーシエはなにを思い、彼から逃げたかったのだろう。

 少なくとも今の私は、彼に愛されていると錯覚し、そしてその居心地の良さにもう身動きが取れないような気がした。
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