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泡と共に流れ落ちるのは
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湯船には、すでになみなみとお湯が張られていた。
そしてあらかじめ用意されていたのか、その湯には赤い薔薇の花びらが浮かんでいる。
浴室内にはその花と石鹸の匂いが溢れていて、思わずほっとした。
考えてみれば、ゆっくりと湯船に浸かるのはいつぶりだろうか。
ココへ来る前の社畜時代は、ほぼ会社のシャワールームでしかお風呂を済ませたことはなかった。
今思えば、なにをそんなに生き急いでいたのかと思う。
「ぼーっとしているけど、具合が悪い?」
「いえ……。大丈夫です」
そこまで言って、ふと恥ずかしくなる。
湯船に入るのに、ルドはいつまでこれを続けるのだろうか。
「あ、あの、ルド様。この先は私一人で出来ますので」
「君が? 一人で?」
ルドが眉間にシワを寄せる。
明らかに不機嫌なのは、普通の令嬢ならそんなことなど出来るはずがないからだろう。
「恥ずかしい……のです」
別に嘘ではないのだから、大丈夫だろう。
今まで、それこそ子どもの頃以外に誰かとお風呂に入った記憶などない。
しかしこの湯船の形、そしてこんな空間で他の者たちによって洗われていたような気もしないことはない。
「アーシエはほんとにかわいいね。大丈夫。いつものように洗ってあげるから」
「聞いていました? だいたい、いつもってなんですか」
「ほら、他の侍女たちがするようにってことだよ。だいたい、誰であっても、君のこの姿を見せたくなどないからね」
「そんな。彼らはただ、自分の仕事をしているだけではないですか」
侍女といえばその名の通り、皆女の人だ。
その彼女たちにさえ見せたくないなどというのは、どれほどの独占欲なのだろうか。
これが他人事ならさすがヤンデレと言っていたはずだが、今これは自分に起きていることだ。
さすがではなく、このままだといろいろ困ることになるのは見えている。
この先長いのならば、ルドを変えるしかない。
「で、ですので、どうか一人でやらせて下さい」
「昔から意地っ張りなところは、ホントに変わらないね、アーシエは。でも、ダメだよ? 君一人では綺麗に洗えないだろう」
ルドはそう言いながらシーツを剥がすと、私の体をお湯で流し始める。
昔。そのルドの言葉に、私は思考が止まった。
私は今、アーシエだ。
そしてルドが愛しているのも、この体であるアーシエにすぎない。
でもそうしたら、私は?
少なくとも、私はアーシエではない。
愛されているのは、私ではないのだ。
私はなにを勘違いしていたのだろう。
ルドが見つめる瞳、優しいキス。そのどれをとっても、それは私に向けられたモノではないというのに。
嬉しそうに、私の体を洗い始めるルド。
石鹸のいい匂い。
温かなお湯。
しかし、どれも私の心には響かない。
ただ先ほどまでの淡い恋心まで洗い流され、どこかに落ちていくようなそんな気がしていた。
そしてあらかじめ用意されていたのか、その湯には赤い薔薇の花びらが浮かんでいる。
浴室内にはその花と石鹸の匂いが溢れていて、思わずほっとした。
考えてみれば、ゆっくりと湯船に浸かるのはいつぶりだろうか。
ココへ来る前の社畜時代は、ほぼ会社のシャワールームでしかお風呂を済ませたことはなかった。
今思えば、なにをそんなに生き急いでいたのかと思う。
「ぼーっとしているけど、具合が悪い?」
「いえ……。大丈夫です」
そこまで言って、ふと恥ずかしくなる。
湯船に入るのに、ルドはいつまでこれを続けるのだろうか。
「あ、あの、ルド様。この先は私一人で出来ますので」
「君が? 一人で?」
ルドが眉間にシワを寄せる。
明らかに不機嫌なのは、普通の令嬢ならそんなことなど出来るはずがないからだろう。
「恥ずかしい……のです」
別に嘘ではないのだから、大丈夫だろう。
今まで、それこそ子どもの頃以外に誰かとお風呂に入った記憶などない。
しかしこの湯船の形、そしてこんな空間で他の者たちによって洗われていたような気もしないことはない。
「アーシエはほんとにかわいいね。大丈夫。いつものように洗ってあげるから」
「聞いていました? だいたい、いつもってなんですか」
「ほら、他の侍女たちがするようにってことだよ。だいたい、誰であっても、君のこの姿を見せたくなどないからね」
「そんな。彼らはただ、自分の仕事をしているだけではないですか」
侍女といえばその名の通り、皆女の人だ。
その彼女たちにさえ見せたくないなどというのは、どれほどの独占欲なのだろうか。
これが他人事ならさすがヤンデレと言っていたはずだが、今これは自分に起きていることだ。
さすがではなく、このままだといろいろ困ることになるのは見えている。
この先長いのならば、ルドを変えるしかない。
「で、ですので、どうか一人でやらせて下さい」
「昔から意地っ張りなところは、ホントに変わらないね、アーシエは。でも、ダメだよ? 君一人では綺麗に洗えないだろう」
ルドはそう言いながらシーツを剥がすと、私の体をお湯で流し始める。
昔。そのルドの言葉に、私は思考が止まった。
私は今、アーシエだ。
そしてルドが愛しているのも、この体であるアーシエにすぎない。
でもそうしたら、私は?
少なくとも、私はアーシエではない。
愛されているのは、私ではないのだ。
私はなにを勘違いしていたのだろう。
ルドが見つめる瞳、優しいキス。そのどれをとっても、それは私に向けられたモノではないというのに。
嬉しそうに、私の体を洗い始めるルド。
石鹸のいい匂い。
温かなお湯。
しかし、どれも私の心には響かない。
ただ先ほどまでの淡い恋心まで洗い流され、どこかに落ちていくようなそんな気がしていた。
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