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真実の欠片を求めて(一)
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ルドへの手紙はすぐに届けられた。
忙しく執務室から出られないルドは、仕方なくこの部屋から真っすぐ執務室へと来る許可を出してくれた。
侍女長の話によると、ここまで自分が迎えに行くと言い張ったルドを周りが止める形となったようだ。
そう考えると、少し周りの人たちに申し訳なく感じてしまう。
しかしだからといって、このままアーシエのことを考えずに生きていくわけにもいかない。
いつかバレる日が来る。
そうでなくても、いつか私の心が嘘を付き続けることに苦しくなるのは目に見えているから。
何日かぶりに離宮から、外へと出た。
秋の柔らかい日差しと、対照的な冷たい風が吹き抜けてゆく。
中庭にはたくさんの花が植えられていた。
日中なら、まだしばらくの間はこの庭でお茶など外で楽しむことも出来るだろう。
もっとも、それすらルドの許可が下りればということに変わりはなかった。
先導する侍女と騎士たちと共に王宮へと入る。
事前に話が入っていただけあるのか、普段なら他の侍女や騎士など様々な人たちがいるはずの大廊下には誰もいない。
なんというルドの念の入れようだろうか。
そこまで……と考え、辞める。
ヤンデレルートなのだ。
これぐらいは普通のことなのだろう。
むしろ他の者たちに違う意味で迷惑がかかることがなかっただけ、良しとしておこう。
二階の中央にルドの執務室はあった。
重厚な赤く金の細工が施された扉の前には、さすがに二名の騎士が控えていた。
しかし私たちを見るなり頭を下げ、扉から離れる。
「ルド様、アーシエです」
ノックの後、入室をすると待ってましたとばかりにルドが立ち上がった。
華やかで幸せそうなルドの表情とは対照的に、中にいた側近らしい男の表情からはあからさまに敵意を感じる。
仕事の邪魔をしたせいかな?
いや。
それにしてはそんな生優しいモノではなく、明らかな敵意と分かるぐらいにうんざりとした表情だった。
「お忙しいのに、申し訳ないですわ、ルド様」
そう言いながら、視線をルドからその男へと移す。
するとルドは私がなにを言いたいのか分かったかのように、表情を曇らす。
「いや大丈夫だよ、アーシエ」
「いえいえ。私 などのために、ルド様のお仕事を邪魔するわけにもいきませんわ。ただ一つ、ルド様にお願いしたいことがあってここまで参りましたの」
ルドの後ろに控える男性が感じが悪いにせよ、対一ではこのお願いが効果がない以上、仕方ないだろう。
「なんだい、アーシエ。なにか欲しいモノでもあったのかい?」
「いえ。そんなモノなどなにもありませんわ。全て、ルド様から頂いたもので、アーシエは満足しております」
「だったら」
「実家に、一度荷物を取りに帰りたいのです。ルド様から頂いた文や、お気に入りの便せんや日記など。ダメでしょうか?」
手を胸の前で組み、ルドに近寄りながら小首を傾げた。
そして追い打ちをかけるように目をうるうるさせルドを見上げれば、これ以上ない完璧さだろう。
こう言ってはなんだが私の目から見ても、アーシエはかわいい。
あの縦ロールは悪役令嬢そのものでどうかと思ったが、そのままのアーシエはふわふわした茜色の髪が色白の肌をよく引き立てている。
線も細くどこか儚げなのに、胸は手に余るほど大きく、そのアンバランスさがギャップ萌えとでもいうのだろうか。
「いや、しかし……」
「ルド様がご用意して下さった馬車で向かって、夕方までには戻りますわ。ね、ダメです?」
「アーシエ、君は」
「荷物を取りに行くだけですわ。私はルド様のモノです。ココにしか居場所などないというのに、どこに行くと言うのですか?」
これはアーシエではなく私の本心だ。
ココにしか、私の居場所など最初からない。
鳥籠なんかに閉じ込めなくたって、どこにも行くあてなんてないのだから。
忙しく執務室から出られないルドは、仕方なくこの部屋から真っすぐ執務室へと来る許可を出してくれた。
侍女長の話によると、ここまで自分が迎えに行くと言い張ったルドを周りが止める形となったようだ。
そう考えると、少し周りの人たちに申し訳なく感じてしまう。
しかしだからといって、このままアーシエのことを考えずに生きていくわけにもいかない。
いつかバレる日が来る。
そうでなくても、いつか私の心が嘘を付き続けることに苦しくなるのは目に見えているから。
何日かぶりに離宮から、外へと出た。
秋の柔らかい日差しと、対照的な冷たい風が吹き抜けてゆく。
中庭にはたくさんの花が植えられていた。
日中なら、まだしばらくの間はこの庭でお茶など外で楽しむことも出来るだろう。
もっとも、それすらルドの許可が下りればということに変わりはなかった。
先導する侍女と騎士たちと共に王宮へと入る。
事前に話が入っていただけあるのか、普段なら他の侍女や騎士など様々な人たちがいるはずの大廊下には誰もいない。
なんというルドの念の入れようだろうか。
そこまで……と考え、辞める。
ヤンデレルートなのだ。
これぐらいは普通のことなのだろう。
むしろ他の者たちに違う意味で迷惑がかかることがなかっただけ、良しとしておこう。
二階の中央にルドの執務室はあった。
重厚な赤く金の細工が施された扉の前には、さすがに二名の騎士が控えていた。
しかし私たちを見るなり頭を下げ、扉から離れる。
「ルド様、アーシエです」
ノックの後、入室をすると待ってましたとばかりにルドが立ち上がった。
華やかで幸せそうなルドの表情とは対照的に、中にいた側近らしい男の表情からはあからさまに敵意を感じる。
仕事の邪魔をしたせいかな?
いや。
それにしてはそんな生優しいモノではなく、明らかな敵意と分かるぐらいにうんざりとした表情だった。
「お忙しいのに、申し訳ないですわ、ルド様」
そう言いながら、視線をルドからその男へと移す。
するとルドは私がなにを言いたいのか分かったかのように、表情を曇らす。
「いや大丈夫だよ、アーシエ」
「いえいえ。私 などのために、ルド様のお仕事を邪魔するわけにもいきませんわ。ただ一つ、ルド様にお願いしたいことがあってここまで参りましたの」
ルドの後ろに控える男性が感じが悪いにせよ、対一ではこのお願いが効果がない以上、仕方ないだろう。
「なんだい、アーシエ。なにか欲しいモノでもあったのかい?」
「いえ。そんなモノなどなにもありませんわ。全て、ルド様から頂いたもので、アーシエは満足しております」
「だったら」
「実家に、一度荷物を取りに帰りたいのです。ルド様から頂いた文や、お気に入りの便せんや日記など。ダメでしょうか?」
手を胸の前で組み、ルドに近寄りながら小首を傾げた。
そして追い打ちをかけるように目をうるうるさせルドを見上げれば、これ以上ない完璧さだろう。
こう言ってはなんだが私の目から見ても、アーシエはかわいい。
あの縦ロールは悪役令嬢そのものでどうかと思ったが、そのままのアーシエはふわふわした茜色の髪が色白の肌をよく引き立てている。
線も細くどこか儚げなのに、胸は手に余るほど大きく、そのアンバランスさがギャップ萌えとでもいうのだろうか。
「いや、しかし……」
「ルド様がご用意して下さった馬車で向かって、夕方までには戻りますわ。ね、ダメです?」
「アーシエ、君は」
「荷物を取りに行くだけですわ。私はルド様のモノです。ココにしか居場所などないというのに、どこに行くと言うのですか?」
これはアーシエではなく私の本心だ。
ココにしか、私の居場所など最初からない。
鳥籠なんかに閉じ込めなくたって、どこにも行くあてなんてないのだから。
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