【R18】悪役令嬢の鳥籠~勘違い断罪からのヤンデレルートは、溺愛ルートへ移行しました~

あやめ。

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アーシエと私

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 ガタガタと揺れる馬車の中で、日記を開いた。

 初めから最後のページまで、漢字を交えて日本語が埋め尽くしている。

 ここから考えられることは一つだけ。

 私は初めからずっと、アーシエだった。

 そう考えれば全ての話の辻褄が合う。

 子どもにしては大人びた日記のワケも、全てが日本語で書かれていたワケも……。

 ただ一つ分からないことがあるとすれば、なぜ今の私にはアーシエの記憶や感情がないのだろうか。

 私は私であって、前世の記憶しか持っていない。

 かすかにアーシエを感じられるのは、体などが覚えているような習慣や母などの認識だけ。

 それ以外の記憶や感情、私がアーシエだという部分はどこに行ってしまったのか。


「……もしかして……毒のせい?」


 あの日毒を飲んだのがユイナ令嬢ではなくアーシエだけで、そのために記憶を失ったのだとしたら。


「辻褄が合う……。もしかして、飲んだのは致死毒ではないのかもしれない……」


 毒とは言っても、他の作用にあるモノがこの世界にはあるとしよう。

 そしてそれをアーシエは飲まされた。

 ユイナ令嬢が奪いたかったのは、命ではなく記憶だったとして、でもそんなものを奪ってどうしたかったのかな。

 ただ自分もその毒を飲んだフリをして……。

 ああ、そうか……。

 自分を被害者とするには、私の記憶がない方が好都合なのか。

 本来だったら、私は記憶をなくし混乱しているはずだった。

 そこへユイナ令嬢はアーシエから毒を盛られたと言えば、記憶のない私は反論できないだろうとでも思ったのだろう。

 確かにアーシエの記憶を失って私という存在がなければ、ただ『分からない』と嘆いていただけかもしれない。

 でもアーシエの中には過去の記憶を持つ私がいた。

 アーシエの記憶がなくなっても私がいる以上、分からないでは終わらなかったから。

 そしてルドがそれ以上に、暴走した結果……。

 ガタンっと大きな音を立てて、馬車が揺れた。

 自分の世界に入っていた私は前のめりによろけそうになり、思わず馬車の椅子を掴む。

 城までの道は整備されているはずなのに、一体なんなのだろうか。

 文句が出そうになるのを押さえて、私は窓から外を見た。

 来た道を戻るのならば、街道をゆっくり抜けて、街中を走ってゆく。

 しかし今私の目に飛び込んで来る景色は、鬱蒼とした森。


「え……なに、ここは……。どういうこと?」


 森はおそらく、城へ向かうのとは真逆のハズだ。

 だとしたら、この馬車はどこへ向かっているというのだろう。

 心臓が早く脈打ち始める。

 その音は、自分の耳に付くほどにうるさい。


「この馬車はどこに向かっているのですか!」


 声の出る限りの大きな声を上げて、外にいる御者に声をかけた。

 もちろん御者は振り向くことも、答えることもしない。

 どうしたら……。どうしよう……。

 状況が不味いというコトは本能的に分かっても、動く馬車から飛び降り、この道すら分からない森の中を城までたどり着けることは出来ないだろう。


「ルド様……」


 唇を噛み締めガタガタと震える肩を、私は必死に抱きしめた。
 
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