第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第二章:帝国の滅亡

十一話:鬼神拳の三兄弟

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 な、なんだなんだ?

 「ここを通すわけにはゆかぬ、今夜は大人しく宿に戻れ」
 「いや、おっさんの連れなんだけど……」
 「お嬢からはクロンベルク様以外、誰一人として通さないように言われている」
 「ちょっと待ってくれよ、なにかの間違いじゃないのか? おっさん! おーい、おっさーん?」

 声に気付いたおっさんがこちらを振り向こうとしたところで男が扉を閉めてしまい、中の様子を伺うことができなくなってしまった。

 「あー……」

 めんどくさいことになってきたな……。

 「すまぬが、お引き取り願おうか」
 「おっさんと飲める最後の機会かもしれないんだ。頼むよ、通してくれ」
 「そちらの都合など知らぬわ」

 その余りに頑なな態度に思わずイラついてしまう。
 取り付く島もないとはこのことか……。

 「しかたがない。そっちがその気なら二つ目の選択肢を選ぶとするわ」
 「ほう、二つ目の選択肢とは?」
 「押し通る」
 「わはははは! やってみろ!!」
 「我らグステン最強の三獅子、イオ、タオ、ラオに挑んで!」
 「無事に帰れた者などおらん!」

 三人が胸の前で腕を組む。
 言ってる内容もそうだが、腕を組む動作まで息がピッタリ合っているため、何だか気味が悪くなってくる。こいつら、普段からこういう練習でもしてんのか?

 「……じゃ、行くぞ」

 そのまま何も無いかのように普通に歩き、ドアノブに手を伸ばす。

 「させるかッ」

 俺の動きを見てすかさずイオだかタオだかラオだかが俺の腕を掴む。

 「ぬッ――ヌグググッウグググググッ!」
 「どうしたイオ!」

 俺の腕を掴んでいる男――コイツがイオか、見た目じゃ判別つかないな――は、目一杯リキんで押したり引いたりしているみたいだが、俺としては普通に腕を掴まれている感覚くらいしかないため、当然ながらピクリとも動かない。

 「ま、まったく、動かん……ッ!」
 「バカなッ!?」
 「ぬぅッ! 行かせんッ!!」

 イオに引き続きタオとラオも俺の腕を掴んで「ヌググギギギギ」みたいなことを言いながら額に脂汗を浮かべているが、それでも水の中で手を伸ばしているかのような微かな抵抗感しか無い。
 腕を掴まれていることは気にせず、そのままさらに一歩踏み出しドアノブに手を掛ける……と、三人が引きずられるようにバランスを崩し、ドサドサドサッと倒れこんでしまった。

 「我らが引き倒された、だと……ッ!?」
 「ラ、ラオッ! 気をつけろ……只者ではないぞッ!」
 「イオ、タオ、分かっておる。こやつッ、紛れもない強者ッ! なればこそ、みすみすお嬢の元へ行かせるわけにゆかぬわッ!」

 ……その必死な姿がなんだか哀れで、気が付けば先ほど感じた怒りも消えてしまっていた。
 そのまま三人を無視して店の中に入っていっても良かったのだが、やれやれと後ろを振り向く――と、いち早く立ち上がっていたラオが構えを取り、何やらシューシュー言い始めた。

 「フシュルシュー、鬼神拳を極めたこの俺とッ!」
 シュバッ――ババッ――
 「フシュシュゥー、どこまでやれるか見せて貰おうッ!」
 ボッ――シュボバッ――

 キシンケン……?
 なにそれ、なんかカッコイイ。
 ラオの拳が風を切る度、小気味の良い音を発しながら構えが複雑に変化していく。
 カンフー映画で見たことがあるような、ラオの華麗な動きに思わずワクワクしながら魅せられていると――

 「食らえィッ!」

 ラオが一気に距離を詰めてきた。

 「ゼゼィッ! ゼィゼャァッッッ!!」

 まず腹部に突きを、そして間髪いれず左脚へローキック、左側頭部にハイキック、返す脚の勢いでそのまま回転し右側頭部に飛び後ろ回し蹴り、と流れるように打ってくる。

 「フシーッ、完全に決まッたッ……!?」

 一度距離を取ったラオが、ノーガードで全て受けきってなお、なにごともなかったかのように平然としている俺に気付いて目を見開いた。

 「な……あり得んッ!? 確かに寸分の狂いもなく死点を穿ったはずッ!!」

 シテンって、まさか死点てことか……?

 「ちょっと待て。店に入れる入れないってだけで俺のこと殺すつもりだったのか?」
 「き、貴様はッ、いったい何者なのだッッ!?」
 「いや質問に答えろよ……俺はただのメリシアの護衛だよ、今はな」
 「今は、だと? ならば、その護衛対象とやらはどこにいるッ!?」
 「宿で寝てる」
 「ね、寝て……ッ!? 衛者が対象から離れるなど有り得ぬッ! やはり貴様ッ、護衛というのは偽りであるなッッ!」
 「うーん……まぁ、あんた達になら俺たちの関係を話してもいいんだろうけど、すげぇ長くなるから一緒に中に入って酒でも飲みながらにしないか? あのクシュナとかいう女の人の奢りみたいだし」
 「貴様ッ! 名を名乗れッ!」
 「いやだから俺の話も聞けよ……ハァ、俺は今井奏太――」
 「イマイソウタ……ッ!?」

 少し離れたところでやり取りを見ていたイオだかタオだかが、悲鳴にも似た声で俺の名前を叫んだ。

 「タオ、知っているのか!」
 「間違いない……こやつ、オールタニアから逃亡中の宵闇の使徒だッ!」
 「なん、だと……ッ!?」
 「あの、指名手配中の……ッ!? ならばますますお嬢に近づけるわけにはいかんッ!」
 「なんでアンタたちがそれを知ってるんだ……?」

 おっさんも驚くほどのスピードでここまでぶっ飛ばしてきたため、たった一日ではそんな情報が伝わることはないはずなのに、何故か面が割れている……?
 しかしというかやはりというか……聞く耳を持たない三人は俺の質問を無視し、その場に座禅を組むような姿勢で座ると、何やら一心不乱に掛け声を発し始めた。

 「断即唯之だんそくゆいし光廻無心こうねむしん湧識体鋼ゆうしきたいごう――」
 「超力招来ちょうりきしょうらい死功具現しこうぐげん明即伏身めいそくふくしん――」
 「武神ぶしんッ! 来臨らいりんッッッ!!」

 三人とも一定のリズムでお経のようなものを唱えていたのだが、最後にラオが叫んだ瞬間に熱風が吹きつけてきて、驚いて危うく尻餅をつきそうになる。
 視線を前に向けると、先程までとはうって変わって静かになったイオとタオが座禅を組んだままうな垂れ、明らかに雰囲気が変わったラオだけが、その伏せた顔をゆっくりあげていく。

 「何だ……これ……」

 徐々に露わになるその顔を見て、驚愕の声が漏れ出る。
 歪に変形した額からは赤黒く隆起する鬼の角のようなモノが生え、ビキビキと音を立ててその長さを伸ばしていく……先程まではなかった深く刻まれた皺と、時折目と口から溢れ出てくる燃え盛る炎が、ますます鬼っぽさに拍車をかけている。

 「われ炎獄えんごく。この者共と盟せし守護武神なり」

 ――なんかヤバそうなのきた。
 これはあれか? ラオの体に鬼的な何かが憑依したとかそういうやつなのか? 魔術があるくらいだから……こういうのもこの世界ではアリなのか?
 っつーかエンゴクって。名前イカつ過ぎない?

 「えーっと、ラオ……じゃない。エ、エンゴクさん? すみませんが、その三人には何かちょっと誤解されているみたいなので、できれば弁明させて頂きたいのですが~……」
 「言葉など無粋。信には義を、盟には行を――愚なる者よ、力を示せぬならば爆ぜて散るが良い」

 エンゴクが言い終わらない内に、俺の腹へ赤く光る短い槍のようなモノが突き立った。

 「なっ!?」
 「爆炎葬ばくえんそう――」

 ゴゴォンッ!

 一瞬のこと過ぎて、バクエンソウとやらが鳩尾みぞおち辺りで爆発したらしいというのを理解するまで数瞬かかる。
 エンゴクはそれを見て得意満面な笑みドヤ顔を浮かべるが、そのお得意のバクエンソウを食らわせたはずの相手が無傷なのに気がつくまで、俺と同じく数瞬かかったらしい。
 二人の間に暫く奇妙な沈黙が訪れた後、何事もなかったかのようにエンゴクが再び話し始めた。

 「己の矮小わいしょうさを自覚し、吾が盟主へ敵愾てきがいせしこと――悔恨《かいこん》せよ」
 「ちょっまっ」
 「涯炎波がいえんは――」

 ブワッ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――

 先程の爆発の際に感じたのが真夏の風だとすると、今度はドライヤーくらいの熱風が、かざされたエンゴクの――正確にはラオの――手から発せられてきた。

 「あっつ!」

 思わず顔の前で手をパタパタと振ってしまったが、そんなことでは上手く熱を遮ることができず、横に飛び退る。

 「人間よ。なぜ滅していない」
 「うわぁっ!?」

 熱から逃れたいのはもちろん、状況を整理する時間も欲しくて少し力を入れて跳んだのだが、エンゴクは俺の動きにピッタリついてきていた。
 まいった……あの刺青男なんかより断然動きが早い。

 「おっさんと飲みに来ただけなのに、どうしてこんなことに……って、ふっ、服は?」

 妙に涼しく感じる夜風を不審に思い自分の体に目を向けると、服など最初から着ていなかったかのようにキレイさっぱり消え去っていた。
 ズボンだけは少しすすけているもののちゃんと履いているため、実は夢遊病ならぬ夢遊露出病みたいな病気にかかっている――なんてことはなさそうでホッと胸を撫で下ろす。
 いや、だってこんな変身ヒーローみたいなヤツが出てくるくらいだし、そんな病気もこの世界ならありそうじゃん。
 まぁコイツの見た目はどっちかっていうと怪人のほうだけど……。

 「吾の言葉が聞こえておらぬのか」
 「……えーと?」
 「なぜ吾の涯炎波を受けて滅しておらぬのかと問うている」
 「あー……良く分からんけど、慈愛の救世主とかいって、なんか普通の人間の何百倍も力が出せるから……?」

 自分で言ってて頭が悪くなりそうなセリフだ。

 「成る程、得心がいった」

 しかしエンゴクは納得したようで、気が付くと鬼のような形相になっていたラオの顔が元通りに戻っていた。
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