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第四章:武林迷宮
三十話:武林迷宮 十九階層~?階層
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無重力空間での移動方法などまったく未知の世界なため、しばらく扉の前でどうしたものかと思案を巡らせる。
宇宙飛行士はもちろん、ちょっとした無重力体験の旅行ツアーでさえ数日の訓練を経てから行くのだから、生まれてこのかた重力下における移動しか経験が無い人間にとって、突然無重力の世界へと足を踏み入れるなど自殺行為に等しい。
こればっかりは、運動神経抜群で筋骨隆々だけど水に触れたことが一切ないヤツが、突然、大海原に投げ込まれるようなレベルで、いくら宵闇の使徒の力や慈愛の救世主としての能力があったとしてもどうしようもない。
いくら考えてもこの階層を突破するための打開策が思い浮かばず、途方に暮れてしまう。
……こんなところでさっそく立ち往生する羽目になるとは。
「ど、どうしましょうか……」
数分の沈黙のあと、俺と同様に思考が行き詰った様子のメリシアがすがるような目でこちらを見る。
「ど、どうしようか……」
それに対して、情けないことに同じくすがるような視線を送り返すしかない俺を、誰が責められるだろうか。
こんなことならアニメの映画や漫画原作の実写映画だけじゃなくて、ハードな宇宙モノSF映画ももっと見ておくんだった。完全に守備範囲外だから、テレビで”地上波初放送!”みたいにやっててもまったく見なかったもんなぁ……。
とりあえず、思いついたことをいくつか整理してみよう――
打開策その一
助走をつけて一気に十九階層を飛び越える。
……ジャンプするタイミングが早すぎれば地面に、遅すぎれば天井に衝突し、あらぬ方向へと行ってしまうだろう。そうなれば無重力環境に慣れるまで延々とこの階層を浮遊することになる。
とてもじゃないが、一発本番でやれるような策ではない。
打開策その二
地面に人がひとり通れるくらいの細いトンネルを掘っていく。
……地面の下が無重力ではない保証はない上に時間がかかる。さらに、もし地面の下も無重力環境だった場合は、掘った時の反動でやはりあらぬ方向へ跳ね返されてしまいまともに掘ることはできないものと思われる。
打開策その三
無理に進まずに引き返す。
……思考停止の逃げ腰案である。
もちろんこれは最終手段だ。
ダメだ。どれも現実的ではない……。
この階層では、俺にできることなんて何もないのか――
「いや、無重力の環境下で何かをしようと考えるからダメなのか……?」
そうだよ……ロケットだって帰りの分は地球で組み立てたものを搭載して送り出すし、月面基地だってあらかじめ資材を送り込んで遠隔操作できるロボットである程度建設してから人間が行くだろ。
重力下で作業するのと、低重力または無重力で作業するのには、それほどまでに難易度が違うんだ。
なら俺もそれにならって、ここである程度作業をしてから行くべきなんだよ。
「分かった」
打開策その二だ。
メリシアが『何かおっしゃいましたか?』という感じの、質問したそうな表情を俺に向けてきたので、返事の代わりに笑顔をかえしてから下に向けて拳を打ち、深めの穴をあける。
下に降り、入り口がある方向に千倍の力で全力パンチを繰り出し、入り口の下を真っすぐ潜って進めるようにトンネルを作る。
念のため二千倍まで力を引き上げてから、ふたたび全力パンチをしてトンネルの幅と奥行きを広げ、時感覚を特性操作してトンネルをまっすぐ進んでいく。
やはり地面の下であっても無重力環境にあり、トンネルの中をピンボールの球のようにあちこちぶつかって跳ね回りながら進んでいくと――予想通り、螺旋階段に出た。
「準備完了、行こう」
「準備ですか……?」
やはり要領を得ない様子のメリシアを抱きかかえてから、地面に掘った穴に再び飛び込み、トンネルを抜けながら解説する。
「メリシア、今までは何となく普通に各階層を進んで踏破してきたけど、何も馬鹿正直にそれぞれの階層を攻略する必要なんてなかったんだよ。この武林迷宮は、入り口から最深部まで階段状に配置された各階層と、それを縦につなぐ螺旋階段が延々と伸びているだけなんだから、どこかで真下に掘って、そのあと階層の下を通るように真っすぐ伸びるトンネルを掘ってしまえば、そこを通り抜けるだけで螺旋階段に辿りつけるってわけだ」
「この短時間でそのような柔軟な発想ができるとは、さすがソウタ様ですねっ」
驚きながらも、嬉しそうに声を弾ませるメリシアだが、この案には、本当に最深部まで階段状に連なったような構造となっているのかという不確定要素がある。
次の階層へ続く螺旋階段の位置が真っすぐ行ったところになかった場合、永遠に前に掘り進めるか、諦めてその場で真上に穴を開けて正規ルートに戻り、イチかバチか無重力空間を彷徨うことになるのだ。
無駄に不安がらせる必要もないかと、これらのことについては敢えて伏せておき、とにかく今は進むことに意識を集中させ十八階層、十七階層、十六階層――と、十一階層の手前の螺旋階段まで一気に踏破する。
宇宙飛行士はもちろん、ちょっとした無重力体験の旅行ツアーでさえ数日の訓練を経てから行くのだから、生まれてこのかた重力下における移動しか経験が無い人間にとって、突然無重力の世界へと足を踏み入れるなど自殺行為に等しい。
こればっかりは、運動神経抜群で筋骨隆々だけど水に触れたことが一切ないヤツが、突然、大海原に投げ込まれるようなレベルで、いくら宵闇の使徒の力や慈愛の救世主としての能力があったとしてもどうしようもない。
いくら考えてもこの階層を突破するための打開策が思い浮かばず、途方に暮れてしまう。
……こんなところでさっそく立ち往生する羽目になるとは。
「ど、どうしましょうか……」
数分の沈黙のあと、俺と同様に思考が行き詰った様子のメリシアがすがるような目でこちらを見る。
「ど、どうしようか……」
それに対して、情けないことに同じくすがるような視線を送り返すしかない俺を、誰が責められるだろうか。
こんなことならアニメの映画や漫画原作の実写映画だけじゃなくて、ハードな宇宙モノSF映画ももっと見ておくんだった。完全に守備範囲外だから、テレビで”地上波初放送!”みたいにやっててもまったく見なかったもんなぁ……。
とりあえず、思いついたことをいくつか整理してみよう――
打開策その一
助走をつけて一気に十九階層を飛び越える。
……ジャンプするタイミングが早すぎれば地面に、遅すぎれば天井に衝突し、あらぬ方向へと行ってしまうだろう。そうなれば無重力環境に慣れるまで延々とこの階層を浮遊することになる。
とてもじゃないが、一発本番でやれるような策ではない。
打開策その二
地面に人がひとり通れるくらいの細いトンネルを掘っていく。
……地面の下が無重力ではない保証はない上に時間がかかる。さらに、もし地面の下も無重力環境だった場合は、掘った時の反動でやはりあらぬ方向へ跳ね返されてしまいまともに掘ることはできないものと思われる。
打開策その三
無理に進まずに引き返す。
……思考停止の逃げ腰案である。
もちろんこれは最終手段だ。
ダメだ。どれも現実的ではない……。
この階層では、俺にできることなんて何もないのか――
「いや、無重力の環境下で何かをしようと考えるからダメなのか……?」
そうだよ……ロケットだって帰りの分は地球で組み立てたものを搭載して送り出すし、月面基地だってあらかじめ資材を送り込んで遠隔操作できるロボットである程度建設してから人間が行くだろ。
重力下で作業するのと、低重力または無重力で作業するのには、それほどまでに難易度が違うんだ。
なら俺もそれにならって、ここである程度作業をしてから行くべきなんだよ。
「分かった」
打開策その二だ。
メリシアが『何かおっしゃいましたか?』という感じの、質問したそうな表情を俺に向けてきたので、返事の代わりに笑顔をかえしてから下に向けて拳を打ち、深めの穴をあける。
下に降り、入り口がある方向に千倍の力で全力パンチを繰り出し、入り口の下を真っすぐ潜って進めるようにトンネルを作る。
念のため二千倍まで力を引き上げてから、ふたたび全力パンチをしてトンネルの幅と奥行きを広げ、時感覚を特性操作してトンネルをまっすぐ進んでいく。
やはり地面の下であっても無重力環境にあり、トンネルの中をピンボールの球のようにあちこちぶつかって跳ね回りながら進んでいくと――予想通り、螺旋階段に出た。
「準備完了、行こう」
「準備ですか……?」
やはり要領を得ない様子のメリシアを抱きかかえてから、地面に掘った穴に再び飛び込み、トンネルを抜けながら解説する。
「メリシア、今までは何となく普通に各階層を進んで踏破してきたけど、何も馬鹿正直にそれぞれの階層を攻略する必要なんてなかったんだよ。この武林迷宮は、入り口から最深部まで階段状に配置された各階層と、それを縦につなぐ螺旋階段が延々と伸びているだけなんだから、どこかで真下に掘って、そのあと階層の下を通るように真っすぐ伸びるトンネルを掘ってしまえば、そこを通り抜けるだけで螺旋階段に辿りつけるってわけだ」
「この短時間でそのような柔軟な発想ができるとは、さすがソウタ様ですねっ」
驚きながらも、嬉しそうに声を弾ませるメリシアだが、この案には、本当に最深部まで階段状に連なったような構造となっているのかという不確定要素がある。
次の階層へ続く螺旋階段の位置が真っすぐ行ったところになかった場合、永遠に前に掘り進めるか、諦めてその場で真上に穴を開けて正規ルートに戻り、イチかバチか無重力空間を彷徨うことになるのだ。
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